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母の一声 [<ダメ母のすすめ・・・・新米ママへ>]

「九子、九子、きゅうこや、キュウコ!」
だんだん最後に行くほどに高く響き渡る母親の呼び声!

まったくう、今日は土曜日じゃないの。ふと見ると時計は7時10分。そうか、土曜は資源ごみの日。今日は確か不燃ごみっていってたよね。袋ひとつ運べばおしまいじゃないの、まったくもう。こっちだって起きていないわけじゃない。目下着替え中なんだってばあ。「はいはい、今行きマアす。」と呼べど叫べど、あちら様には届かない。もともとが、家の中と外。その上母上様は、大病で手術をして以来、めっきり老けて耳も遠くなった。テレビの音も、耳をつんざくばかりの音量で聞いて平気な御仁である。部屋の中からすこしばかり甲高い声で叫ぼうが、物の数ではないのである。「そんなに、キュウコキュウコばかの一つ覚えみたいに叫ばなくたって、せいぜい述語の一つくらい付けて、人にわかるように話したらどう?」とチラと考えた。

傍らで寝ているM氏が「まったくもう・・・。ムニャムニャ」と言っている。このムニャムニャは、実は多いに訳ありなのだ。

新婚時代東京で1年半ほど過ごした後、郷里の長野へ戻り、M氏は以来一人娘の私の両親と一緒に暮らしている。つまりマスオさんである。生活の拠点であり薬局もくっついている母屋から、裏に建っている私とM氏が寝るためだけにしか使っていないこの家、一応ウン年前、いや正確を期せばうん十年前(^^;は新居だったこの家のドア越しに、母が叫んでいるというわけである。

あれはいつ頃だったか、そのM氏が感慨深げにこう言ったことがある。「俺はおふくろとそっくりな女と結婚しちまったもんだ。おふくろは、家付き娘でなんにもしない親だった。いつもおばあさんが、おふくろが寝ていた土蔵を改造した部屋の外で『M子や、M子!起きなさい、M子!』と叫んでいたっけ・・・。」
だからこのムニャムニャを解釈すると「また寝坊しているのか。お母さん呼んでるぞ。まったくオフクロと同じだなあ。」となるのである。(^^;

いや、ひとつだけ違いがある。そうだよ、それだ!
M氏のおばあさんには「起きなさい!」という述語があった。「九子、九子!」じゃ何がなんだかわかんない。ものごとと言うのは、わかるようにはっきりと「九子、九子起きなさい!」・・・・・・・・。

んん???

ちょっと待った!!それってやっぱりヤバイじゃん!
それじゃ筒抜けだよ、町中に。ここは農家の土蔵じゃないんだから、今ごろは隣りの八百屋のおねえさんが、誰かをとっつかまえて話してる頃かもしれない。「ちょっとちょっと、九子さんて、また寝坊したらしいわよ。」その日のうちに町中に知れ渡り、尾ひれ背びれがくっ付いて、どんなことになるかわからない。うう・・。

さすが、わが母!そこまで考えて叫んでくれたのか、と思ったら、感謝の念でいっぱいになった。母はいつも気が利いている。(^^;

ただ、目先が利くと言うのも良いことばかりではない。相手がする先を考えてやってくれるのだから、文句の言えるはずはないのだが、そうやって何でもしてもらって育ってしまった結果がこの私だ。

誰かがやってくれると誰かがやらなくて済む。誰かがやらないとまた別の誰かがやらなければならない。この何もやらなくて済む誰かのことを幸福者と呼ぶのであれば、まさに私は幸福者で、偉大なる私の母と、ダメ母に育てられた我が子供達はこの上なく不幸なのであろう。

ところが世の中、そうは単純に行かない。人間と言うのは(九子というのは・・と置き換えて頂いても良いが(^^;)崇高に出来ていて、何もしないで良いとなると、悩むのである。人間閑居して不善をなすと言うやつだ。「私の生き方は果たしてこれで良いのであろうか?」それが私の青春時代の永遠のテーゼだった。

「悩むくらいなら何か手足を動かせ!」
お叱りごもっとも。それができるくらいなら苦労はしなかった。何しろ生来の怠け者。手足を動かすのが大の苦手なのだ。そして、いつも他人様から見れば幸福この上ない環境にありながら、毎日ため息つき続けて暮らしていた。

そんな私を変えてくれたもの、それが坐禅だった。坐禅を知って、生まれて初めて自分が好きになった。あれほど嫌いでたまらなかった自分を、いとおしく思えるようになった。

何しろ坐禅は私にぴったりだったのだ。この上なくぴったりだった。これがヨガや太極拳だったなら、多分三日坊主で終わっていただろう。

ただ坐るだけである。難しいことは何もない。身体を動かすことも要らない。体力ゼロの私でも、どのくらいでも続けられる。何しろ言われることと言えば、「身体を動かすな!余計なこと考えるな!呼吸に集中せよ!」

怠け者にとって、こんなに楽ちんな世界はない。これで幸せになれるのだから、詐欺ではないかと疑うほど、うま過ぎる話である。(仏様、ごめんなさい(^^;)

とにかくそんな風にして、私は毎日を御気楽に送っている。
無理せず・・・・、頑張らず・・・。
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