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窓拭き [<正統、明るいダメ母編>]

長野はその日、快晴だった。
その上九子は、これ以上無しってくらいの上機嫌だった。

その朝、郵便局員Oさんが九子のところへまとまったお金を持ってきたのだ。
それを持って、九子は郵便局へ向かおうとしている。

その福沢諭吉軍団は、三男Yの学費になるべく、わずかの滞在ののちに我が家から去り行く運命にあろうとも、一時たりとも預金が出来る、お金が増えると言うことはまことに喜ばしいことなのである。

こういう天気って、確かcrispっていうのよねえ。
気分が良いとふだんは回らない頭もめぐりが良くなるようで、昔ジョン先生に習った言いまわしが頭をよぎる。

crisp autumn air  からっとした秋の空気
crispy pieは、 サクサクしたパイのことだから、おんなじね。( ^-^)

それにしても持ちつけないお金を持ってるって緊張するわねえ。かばんを持つ手についつい力が入るし、視線がついおどおどしてしまう。
その道のプロに見られたら、一目でそれとわかってしまいそう。(^^;

預金をし終わり、ようやく緊張は緩み、しかし心だけはほくほく暖かい九子の目に、飛び込んで来たもの、それは・・・。

九子のうちと同じ位古い書店の、磨きこまれて陽の光を受けて輝くガラス窓!
なんて綺麗なの!

もともとこういうリアクションは、九子にしてみると大変珍しいと言って良い。
ふだんの九子なら、なあんも思わずに通りすぎ、今日のお昼はトンコツにしようかしょうゆにしようかとインスタントラーメンの銘柄に思いを馳せるくらいが関の山であるのに・・・。(^^;

それに引き換え・・・・。
外から改めて見るまでもなく、何ヶ月間も手を入れられてない我が薬局のガラス窓の荒んでいることよ!
商売のやる気の無さをそのまま反映してるよ。(^^;

にわかに九子は、バケツと窓拭きワイパーを持ちだした。

窓を拭かなくちゃっと思い始めてから、実は一ヶ月ほどが経とうとしていた。
一ヶ月間、九子はある道具を探していたのである。

それは、生協で買った省エネ車ブラシ。
1~2リットルほどの水がはいるタンクとブラシが合体していて、水道が無いところでもこの中の水だけで車が綺麗になり、大変経済的ですといううたい文句につられて買った。

車にゃあ一度も使ってなかったが、これを店のガラス拭きに応用してみたらどうだろう?

考えれば考えるほど名案だった。
九子って、アッタマいい~!( ^-^)

ところが肝腎のそのブラシが、いいはずの九子の頭でいくら考えて、ありとあらゆるところを探しても出てこなかったのである。(^^;

ブラシが無いことを口実にのばしのばしにして来たのであるが、書店の窓ガラスきら~んに触発されて九子がやる気になったというのは、言って見れば晴天の霹靂(へきれき)であった。
英語で言えば a bolt out of the blue ( ^-^) 

考えてみれば、バケツと窓拭きワイパーがあれば事足りたのであった。
要するに、なんのかんのと理由をつけて、やりたくなかっただけのこと!(^^;

片側の濡れブラシで拭いて、もう片側のゴム部分でこすって水分をこそげとる。
この作業を繰り返すだけの単純仕事である。

楽勝じゃん!なんでこんなかんたんな事が今まで出来なかったのかねえ。(^^;

ところが・・・。

あれまっ!
ここ、さっき拭いたはずだよね。
拭いたばかりの時はきれいに見えたのに、時間が経ったらなんだか前より汚いぞ!

ワイパーの当たった端っこの部分が水あかみたいに縦縞になってるし、その上ガラスのあちらこちらに細かい筋がいっぱいだ。
なんじゃ?こりゃ!

縦縞は水が流れた跡で、秋の日差しに乾くと目立ってくる。
細かい筋は、九子が白魚のような指(^^;を保護するためにはめてたゴム手袋の跡と判明。
やれやれ、両方とも、あとで念入りに拭いとかないと取れそうもないよ。
まったく、もう~。

九子が慣れない事をしているものだから、通りがかりのご近所さんから声がかかる。

「おっ、九子ちゃん、精が出るね。」
(どうせ、どういう風の吹きまわし?・・・って意味でしょ。)

「あらっ、ご苦労様!」
(おやおや、珍しいわねえ・・・って言いたいわけね。)

「綺麗になりますねえ。」
(ど~こ~が~っ!やってる割に、前とあんまり変わんないのに・・・。)

もちろん九子は大人だからして心の声をあらわにするような事はせず、いつもの通りあいまいに微笑むのだった。(^^;

しかしそれでも、はあはあ息を吹きかけて空拭きにいそしむうち、窓ガラスは傾きかけた陽の光を映して鈍く光るようになっていた。

斜陽の店には、斜陽が良く似合う。(^^;

九子の胸にともる、えも言われぬ達成感。
やりゃあ出来るんだよね。
(これを翻訳すると、なるほどやれば出来るのかもしれないが、やるのが嫌だから、頻繁にやらないから、いつも汚いままだ・・・・・。(^^;)

いいねえ。きれいなガラスって。心の中まで磨かれる感じだね。

あ~あ、今日は久しぶりに目いっぱい働いたぞ。
(あの~う、さっきから時計の針は1時間とちょっと動いたのみなのですが・・・。)

なんだか疲れちゃったし、おなかも空いた!
考えてみたらお昼もまだだったんだ。

ここで誤解の無いよう言っておくが、お昼を食べるのも忘れて九子が身体を動かして働くなどということは、めったにあることではない。
それだけ本日の九子は、お金の力と、秋のお天気に毒されていた訳ね。(^^;


さあ今日は、自分へのご褒美に、たっぷりお昼寝しようっと。( ^-^)
そして、労働時間の割には極端に長い報酬のお昼寝・・・。

九子にとって一番魅力的な誘惑。それは、金でも美しい物でもなく、寝る事であった。
さらに誤解の無いように言っておくと、寝るといってもこの場合、ベッドも男も不用なのであった。
(^^;(^^;





     
タグ:掃除
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