ビンボー神 その2 deadman's chest [<正統、明るいダメ母編>]
「ビンボー神」を書いたところで、九子にはいささか気になる事があった。
「ええ~っ?九子さんってそんなにお金に困ってるのに全然困ってるように見えないわねえ。よっぽど肝のすわった人なのかも・・・。」という受け取られ方をされるのではないかという危惧である。
肝がすわっていれば、坐禅なんぞに走る訳が無い!(^^;
九子はそれでも事実を歪曲してというか、粉飾して見られるだけなので、ちいとばかりの良心の呵責にさいなまれつつも半分嬉しくて半分困った顔をしていればそれで済むのであるが、可愛そうなのはM氏である。
M氏はビンボー神ではあるが(^^;、実は真面目な仕事人である。
そこのところをまずは力説しておきたい。
M氏の欠点はお金儲けが下手ですぐに借金をするところなのだが、有難いことに銀行がホイホイお金を貸してくれるのである。
まあ理由は、とりあえず取りっぱぐれがないからであろう。
一応親方日の丸である。
お金儲けが下手な理由は小学生でもわかる。価格設定が低すぎるのである。
「働けど働けどわが暮らし楽にならず、じっと手を見る」って、手なんか見てる暇あったら値上げしなさいよと言ってやりたい。(^^;
先日銀行のお得意先回りの人が来て(そうなのだ!M氏は地元のH銀行の上得意様なのである。(^^;)
「この際カードをお作りになりませんかあ?このカードがあれば、奥様の連帯保証人の印も必要なくて、もっとホイホイお金をお貸し致しますが・・。」と言ったそうなので、NO!を連発しておいた。
連帯保証人の印の重み、忘れさせてなるものか!!(^^;
たとえば銀行が貸してくれるお札の上には朱色で丸に借の字が書いてあるとでもいうのであれば、お札を使う度に借金漬けの我が家の実態を痛感させられて身も引き締まるところであろうが、幸か不幸か日本国の万札にそんなマークは無いのである。
勢い毎日の生活から借金のシャの字も消えて、ごく普通の感覚で暮らしてしまっているというだけの話である。
M氏は車で15分ほどの仕事場まで毎日通っているのであるが、資金は父から出ていたから長い間父の口座にけっこうまとまった家賃が振り込まれていた。
その父が、4月にぽっくり死んでしまった。
身内を亡くされた方はご存知だろうが、亡くなったその日から故人名義の口座はすべて凍結となり、お金を引き出そうとしても引き出せなくなる。
4月10日未明に病院で亡くなった父の遺体を運ぶ時にも、となりの八百屋のおじさんは大活躍だった。
八百屋の朝は早いから、もう起きてぶらぶらしていたおじさんを捕まえて、葬儀やさんの手配も何もかもやってもらった。
そのおじさんがこう言ったのだ。
「おい九子ちゃん、早く銀行行っておろせるだけおろしちまえ。葬儀やが証明書書く前に早く行っておろしちまえ。葬儀やには証明書まだ書くなって俺が連絡しとくからさあ。」
おじさんはそう言ったけれど、八百屋さんのおばあちゃんが亡くなった時はそりゃあ今と違って制限無く何百万でもおろせただろうけれど、今は機械では一日百万円までしかおろせないんだったと思うよ。
でもまあ百万円でも無いよりはましである。
八百屋のおじさんの言うとおり、九子は父の銀行と念のため郵便局のカードも持ってH銀行へ向かった。
間の悪い時というのはこういうもので、普段銀行で話し掛けられたことなど無いのにその日に限って知人に「お父様お元気ですか?」などと話しかけられる。
いくらバカ正直が取り得の九子とはいえ、ここで「父は今朝亡くなりました。」などと言えば、銀行の人に聞かれてお金が引き出せない騒ぎになるんじゃないかという知恵くらいは働く。
だから「ええ、まあ。」などといつもの通りあいまいに微笑んだのである。
(^^;
ここで幸いだったのは、父の二つの口座のカードをしっかり持って来たことで、百万円の制限は一口座につき(または一支店につきかな?)であり、支店の違う二つの口座なら二口、そして郵便局も合わせて三口の引出しが可能であった。
「三口あれば、ちょうど長男の前期の授業料に充てられる!」
そう思ったとたん、九子の目に熱いものが噴き出した。
父は良くこう言っていた。
「Mさんは金儲け下手だからなあ。少なくともRが卒業するまでは俺が生きていて授業料くらい出してやらないとなあ。」
今年長男Rは卒業の年。前期の授業料は年間授業料の三分の二ほどになる。
「ほら。俺がここまで出してやったからなあ。後期分くらいは自分達で払えよ。」
父が最後にこう言ったような気した。
「パパは律儀に約束守ってくれたんだね。」そう思ったら涙が止まらなくなった。
考えてみたら父が亡くなってから始めての涙だった。
始めての涙はATMでお金引き出してる時なんかじゃない時の方がよかったのに・・と思ったが、そう思っても後の祭りであった。(^^;;
その時以降、父の口座からはもう一円も引き出せない。
相続税が確定するまでは凍結されるのである。
それは理屈としてわかる。
ところが先日M氏がこうぼやいた。
「おれの家賃さあ、お父さん亡くなってからも自動でしっかりお父さんの口座に振り込まれているんだぜ。引き出す方は出来ないのに、入る方はいくらでも入るって、それおかしくないのかなあ?」
これぞ本当のdeadman's chest(死者の宝箱)!
パイレーツオブカリビアンの話を期待して最後まで読んでくださった方、ごめんなさいね。(^^;;
ビンボー神その3はこちら。
「ええ~っ?九子さんってそんなにお金に困ってるのに全然困ってるように見えないわねえ。よっぽど肝のすわった人なのかも・・・。」という受け取られ方をされるのではないかという危惧である。
肝がすわっていれば、坐禅なんぞに走る訳が無い!(^^;
九子はそれでも事実を歪曲してというか、粉飾して見られるだけなので、ちいとばかりの良心の呵責にさいなまれつつも半分嬉しくて半分困った顔をしていればそれで済むのであるが、可愛そうなのはM氏である。
M氏はビンボー神ではあるが(^^;、実は真面目な仕事人である。
そこのところをまずは力説しておきたい。
M氏の欠点はお金儲けが下手ですぐに借金をするところなのだが、有難いことに銀行がホイホイお金を貸してくれるのである。
まあ理由は、とりあえず取りっぱぐれがないからであろう。
一応親方日の丸である。
お金儲けが下手な理由は小学生でもわかる。価格設定が低すぎるのである。
「働けど働けどわが暮らし楽にならず、じっと手を見る」って、手なんか見てる暇あったら値上げしなさいよと言ってやりたい。(^^;
先日銀行のお得意先回りの人が来て(そうなのだ!M氏は地元のH銀行の上得意様なのである。(^^;)
「この際カードをお作りになりませんかあ?このカードがあれば、奥様の連帯保証人の印も必要なくて、もっとホイホイお金をお貸し致しますが・・。」と言ったそうなので、NO!を連発しておいた。
連帯保証人の印の重み、忘れさせてなるものか!!(^^;
たとえば銀行が貸してくれるお札の上には朱色で丸に借の字が書いてあるとでもいうのであれば、お札を使う度に借金漬けの我が家の実態を痛感させられて身も引き締まるところであろうが、幸か不幸か日本国の万札にそんなマークは無いのである。
勢い毎日の生活から借金のシャの字も消えて、ごく普通の感覚で暮らしてしまっているというだけの話である。
M氏は車で15分ほどの仕事場まで毎日通っているのであるが、資金は父から出ていたから長い間父の口座にけっこうまとまった家賃が振り込まれていた。
その父が、4月にぽっくり死んでしまった。
身内を亡くされた方はご存知だろうが、亡くなったその日から故人名義の口座はすべて凍結となり、お金を引き出そうとしても引き出せなくなる。
4月10日未明に病院で亡くなった父の遺体を運ぶ時にも、となりの八百屋のおじさんは大活躍だった。
八百屋の朝は早いから、もう起きてぶらぶらしていたおじさんを捕まえて、葬儀やさんの手配も何もかもやってもらった。
そのおじさんがこう言ったのだ。
「おい九子ちゃん、早く銀行行っておろせるだけおろしちまえ。葬儀やが証明書書く前に早く行っておろしちまえ。葬儀やには証明書まだ書くなって俺が連絡しとくからさあ。」
おじさんはそう言ったけれど、八百屋さんのおばあちゃんが亡くなった時はそりゃあ今と違って制限無く何百万でもおろせただろうけれど、今は機械では一日百万円までしかおろせないんだったと思うよ。
でもまあ百万円でも無いよりはましである。
八百屋のおじさんの言うとおり、九子は父の銀行と念のため郵便局のカードも持ってH銀行へ向かった。
間の悪い時というのはこういうもので、普段銀行で話し掛けられたことなど無いのにその日に限って知人に「お父様お元気ですか?」などと話しかけられる。
いくらバカ正直が取り得の九子とはいえ、ここで「父は今朝亡くなりました。」などと言えば、銀行の人に聞かれてお金が引き出せない騒ぎになるんじゃないかという知恵くらいは働く。
だから「ええ、まあ。」などといつもの通りあいまいに微笑んだのである。
(^^;
ここで幸いだったのは、父の二つの口座のカードをしっかり持って来たことで、百万円の制限は一口座につき(または一支店につきかな?)であり、支店の違う二つの口座なら二口、そして郵便局も合わせて三口の引出しが可能であった。
「三口あれば、ちょうど長男の前期の授業料に充てられる!」
そう思ったとたん、九子の目に熱いものが噴き出した。
父は良くこう言っていた。
「Mさんは金儲け下手だからなあ。少なくともRが卒業するまでは俺が生きていて授業料くらい出してやらないとなあ。」
今年長男Rは卒業の年。前期の授業料は年間授業料の三分の二ほどになる。
「ほら。俺がここまで出してやったからなあ。後期分くらいは自分達で払えよ。」
父が最後にこう言ったような気した。
「パパは律儀に約束守ってくれたんだね。」そう思ったら涙が止まらなくなった。
考えてみたら父が亡くなってから始めての涙だった。
始めての涙はATMでお金引き出してる時なんかじゃない時の方がよかったのに・・と思ったが、そう思っても後の祭りであった。(^^;;
その時以降、父の口座からはもう一円も引き出せない。
相続税が確定するまでは凍結されるのである。
それは理屈としてわかる。
ところが先日M氏がこうぼやいた。
「おれの家賃さあ、お父さん亡くなってからも自動でしっかりお父さんの口座に振り込まれているんだぜ。引き出す方は出来ないのに、入る方はいくらでも入るって、それおかしくないのかなあ?」
これぞ本当のdeadman's chest(死者の宝箱)!
パイレーツオブカリビアンの話を期待して最後まで読んでくださった方、ごめんなさいね。(^^;;
ビンボー神その3はこちら。
タグ:パイレーツオブカリビアン 父の死
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