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医師の一分 [<九子の万華鏡>]

タイトルだが、医師の一分(いっぷん)ではなくて、医師の一分(いちぶん)と読んで頂きたい。

そう。山田洋次監督と木村拓哉の話題の映画「武士の一分」にひっかけてある訳だ。



ちなみに一分とは、日本語大辞典によると「人間としての名誉・責任」というきわめて重い意味になるし、明鏡国語辞典によると「(古風な言い方で)それ以上は譲ることのできない名誉。一身の面目。」の意味だそうである。



まあ九子の話だからして、そこまで堅く考えずに聞き流して頂ければ幸いである。( ^-^)



九子母が入院してから早いものでもいう一ヶ月が過ぎようとしている。ほんの一、二週間のつもりだったのに、食欲が思ったほど出ず、なかなか難儀をしている訳なのだが、一応この月曜日には退院の見込みとなった。やれやれである。



「母の病室から」に書いたような毎日が二週間ほど続き、ただでさえ忍耐強くない九子はだんだん疲れてイラついてきた。



母がなかなか寝てくれないのである。やっと寝てくれたと思うと5分もしないうちに起こされる。



もちろん3時間くらいぐっすり眠ってくれる時もあるのだが、まあそういう日の方がどちらかというと最初のうちは少ない・・というか、半々くらいだったかな?



再三九子は看護師さんを通して先生に要求した。

「すみませんが、眠り薬を強くしてくれませんか?」



T病院は個人病院であるが、なかなか立派な病院である。

小児科もやっているので、平日の午後や土曜日なんか駐車場がみつからないほどの盛況である。



三人兄弟の長兄が病院長、次兄が副院長、それに三男とそのお嫁さんの合計4人の医師が居る。



母の担当は院長先生だ。



最初に母を診察して下さった時の印象が忘れられない。



先生は顔を母のすぐそばに近づけて、まっすぐに母の目だけを見て、いろいろな質問をされた。

一応付き添いとして九子もそこに居るのであるが、なんだか口をはさめない雰囲気さえあった。



そう。九子は認める。T医師はそんじょそこらにいない立派な医者である。

それは何より、病院全体に現れている。



病院の建物はそんなに新しいとは言えないが、最新の機器が備えられており、入院患者は快適に過すことが出来る。



たとえば毎日新米の看護師さんが各病室をまわり、患者一人一人に3分間ずつ簡易式吸入器で薬の入った霧を口や鼻に当ててくれる。



たぶんこれなんかは、風邪防止のためかなり有効だと思う。



看護師さんの質は高く、言葉使いはていねいで、皆、頭が下がるほど甲斐甲斐しく動いてくれる。



食事の内容も良く吟味され、母に準備された入れ歯がなくても食べられる刻み食すら、わざわざ手をかけて作られたものであると言うことがよくわかる。



何よりT医師自身が、決して威張らず、患者の声によく耳を傾けてくれる名医であるのだ。



そうであっても、いやそうであるからこそ、T医師はかたくなに信念を貫く。



「母がもう少し良く眠れるように、もう少し強い眠り薬を処方して頂けませんか?」

という九子からの再三の要求に対し、T医師はいつも困ったような顔をされながら言う。



「お話は良くわかります。でも今お母さんは昼間とても頭がはっきりされてますよね。あれがとても大事なのです。これ以上薬を強くすると、薬が翌日に残ってしまって、ああいうはっきりした状態ではいられなくなってしまうと思うのです。今使っている薬は、大変良い薬ですので、このままもう少し使ってみましょうよ。」



T医師が母の健康を何よりも一番に考えてくれることは本当に良くわかる。

だから九子も、たとえT医師の前に出る前は「今日こそは!」の信念で構えていたとしても、いつもT医師に言い含められて、すごすごと引き下がってしまうのであった。



まあ、所詮九子の信念である。(^^;; T医師の信念に太刀打ち出来るはずがない。





しかし、そんな九子もその日は違った。

九子自身が、もうどうしようもないところまで精神的に追い詰められていたからだ。



前日には看護師さんにきつい調子で薬をくれと詰め寄った。

医師でない看護師さんが、薬を出してくれるはずがない事くらい考えるればすぐわかるのに・・・・。



「先生。私もう疲れてしまって。お話したように、私にはうつ病があって、今までに30回もうつ病をやっているので、疲れるといつうつ病が出るか心配なんです。先生が母の事を一番に考えて下さるのは本当に有難いのですが、どうか介護者の私を助けると思って、母の眠り薬をもう一段強いのに変えて頂けないでしょうか?」



それに対して答えて下さったのは後ろで聞いていた看護師長さんだった。

「そういうご事情でしたら、二三日、私どもがお預かりしますから、ゆっくりと休まれたらいかがでしょう?」



ほっとした。「休めればきっと楽になる。」( ^-^)



金、土、日と休みが取れた。でも月曜日が近づくに連れて不安が頭をかすめた。

「また月曜日から、同じ事の繰り返しだよね。」



休みの真中の土曜日、一生飲むはずのうつ病の薬の処方箋をもらうため、九子は主治医の精神科医T先生に電話した。



「実は薬を強くして欲しいのです。前も両親を介護して肉体的にきつかった時、抗うつ薬を増やして頂いて良かったので、今回もまたお願いします。」



土曜日だったのに、奇跡的にクリニックは空いていて、先生の診察を仰ぐ事が出来たのは幸運だった。



九子の話をじっと聞いていたT先生は、間髪を入れずこう言った。



「そんな所へ行ってはいけません。今度ご主人を連れて、お化粧を落として、ボロボロの服を着て、病院へいらっしゃい。そして、『うつ病になったから来れなくなりました。』と言いなさい。そう言ってお芝居してでも、行くべきではありません。



医者というものは患者に言われたからといってそう簡単には考えを変えないもんです。それはもう、私が一番良く知ってます。医者の私の家族が入院した時、医者の私が言っても、ダメなときはダメなんですから・・。



とにかく医者が困って考えを改めるのを待つしかありません。あなたが行かなくなれば看護師さんに突き上げられて、薬を強くせざるを得なくなるでしょう。」



T先生は「薬剤師さんが言ってもだめでしたか?」とも言われた。

そう。T先生は、九子が一応薬剤師であることもご存知なのである。



こういう時だけは、日頃ダメ薬剤師であることがバレないようにオドオドしているのに、胸を張って威張りたくなる嫌な奴の九子である。(^^;;



考えてみるとT先生は睡眠薬のプロ中のプロである。



精神科にかかる患者は、ほとんどの場合ひどい不眠で悩んでいる。

うつ病しかり、統合失調症しかり・・・。



催眠剤の知識が豊富に無ければ、精神科の治療など出来ようはずがない。



たぶんT先生の頭の中には、的確な薬の処方例が瞬時に弾きだされているとは思うのだが、だからと言ってそれをそのまま処方してくれとあちらのT医師に頼む訳にはいかないし、もちろん頼んだとしてもそれを聞きいれるようなT医師でもないはずなのだ。



その上九子には更に頭の痛い事があった。

T先生のおっしゃった「うつ病のフリをして・・・」という部分である。



自分で言うのもなんだが、九子はご存知の通りバカ正直が着物を着たような奴である。

フリをしたり、ましてや芝居をするなんて事は、生まれてからこの方ほとんどやった事がないから苦手中の苦手である。



「M氏もひっぱりこんでうつ病になったフリなんて、私には出来る訳ないよね。」



そんな訳で、九子は珍しくT先生の診察室をため息をつきながら出て来たものである。





気持ちが滅入った時、万策尽きた時、九子が向かうのはいつも活禅寺(←ここ)である。

もちろん坐禅が出来れば最高なのだが、時間の無いときはお参りして仏様に対しているだけでも、悩みが晴れて気持ちが楽になる。



こういう言い方に抵抗のある人には、ああでもない、こうでもないと仏前で自分と対話しているうちに、自分の気持ちが決まってくる・・と言えばわかって頂けるだろうか。





結局九子は看護師長さんに、「精神科の主治医に、もうこれ以上夜の母の付き添いをしてはいけないと言われてしまいました。」と告げることにした。



そしてこんな一言も付け加えた。

「これから先は、T先生と私の主治医のT先生と話し合って頂くというのはいかがでしょうか?」



看護師長さんは偉大であった。

毅然として「そういう事なら私どもがなんとか致します。」とおっしゃった。



それ以来、九子は夜の付き添いに行っていない。

母はなぜか、薬はそのままであるのに良く休むようになり、看護師さんの手を煩わせたりはしないそうだ。





医師の一分。医師の面子(メンツ)という事も出来よう。



父や母を病院に入院させてみて改めて思うのは、医療現場の中で誰が一番偉いか、病人が一番世話になるのは一体誰かという事である。



結局一番偉大であるのは、看護師さんではないだろうか。



病人の訴えや、医師の指示や、時には看護人の要求や、あらゆる雑多な頼まれ事を要領良く処理して、何事も無かったような笑顔で、すべてを包み込む。





T医師と精神科のT医師が話し合うと言うことは、少なくともどちらか一方が折れると言うことだ。

そうなればどちらか一方の医師の一分が立たなくなってしまうと言うことだ。



看護師さんにしてみると、そう言うことは決して容認できない事なのだろう。

基本的にはあくまで医師に忠誠を誓うのが、彼らのスタンスだ。



だから、折れるのはいつも看護師さんなのだ。



「折れる」というのは、受け入れる事であり、受け止める事である。

必ず何がしかの努力を伴うことである。



その努力を惜しまないのが、看護師さんなのである。



看護師さんたちの努力によって、九子はもう2週間も前から、病院に泊まり込まずに済むようになっていた。



ならば日記の更新でもせい!とお叱りを受けそうだが、なぜか文章を書くエネルギーは湧いてこなかった。



その上、発達障害親の会会員さんの書きこみの影響か、リタリンやLD関連の記事や、カンガルーのハッチの記事へのアクセス数が伸びて、思いがけず何もしないのに濡れ手に泡の3ケタアクセスが続いていて、嫌な奴の九子は、毎日アクセス数だけを眺めてはほくそ笑んでいた。(^^;;



母が帰ってくると、たぶんまた忙しくなる。

どの程度日記が更新できるかどうかは未知数である。



アクセス数がまた元通り2ケタの後半あたりに落ち着いているうちはそうでもなかろうが、それ以下に落ちるような頃にはきっと、九子は慌てるに違いない。



ありときりぎりすのきりぎりすみたいに、やおら慌てふためいて更新にこれ努めるであろう。



きりぎりすの九子であっても、一応九子なりの「一分(いちぶん)」というものはあるみたいだから・・・。(^^;;
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コメント 4

よぽぽ

[おだいじに]
お母様早く退院できるといいですね。
病人の付き添いは普段元気な人でもつらいものです。
九子さんもくれぐれもお体に気をつけてくださいね。
by よぽぽ (2006-11-29 16:13) 

ちゃら

[お気持ちお察しします。]
九子さんの日記を読んで痛いほど分かりました。
私も今同じ思いをしてますから。
今は素晴らしい看護士さんたちにお願いして母の事は心配しないで済みますが、帰ったらと思うとそうとう覚悟がいります。
私にこなす事が出来るでしょうか?
仕事も目一杯、家事など何もやっていない、洗濯くらいかな?
掃除は埃を気にしながらも我慢。

私はうつ病ではないけれど、毎晩トリプタノール45mmとデパスとセルシンを飲んでいます。決して自分の病気に効いているとは思えないけれど、病気になったのも必然だったのかと思うほど色々な事が次々と起きています。
母だけでも十分なのに、父も色々やってくれたし、甥にも問題が、娘も問題で、あっちもこっちも難題を突きつけてきました。
だから、薬を飲んでいなかったら私も不眠症やら鬱病になりかねなかったと思います。

そうしたら、どんなに大変だったことでしょう。
でも幸いにも私は凹むけれど、すぐに回復する性格なので何とかやっています。姉に言わせるとあなたの立場だったら立ち直れないって言います。
私もかなり酷い状態だとは思うけど、何とか次の日はやってくるし、どうにかなっているのでそれで良しとしようなんです。
こんなに悪い年なのかと思いきや、大好きな韓国ドラマをみているうちに生まれて初めて芸能人(韓国俳優)を好きになり、その人のドラマを観るだけでも楽しいし、その人が話す言葉をじかに感じたいと思いハングルの勉強をしたり、何だか少女のような新鮮さでDVDを集めたり雑誌を買ったりしていますよ。
おまけに仕事が忙しいさなかでも韓国旅行に行ってしまったし。。人から見たらなんてノー天気な人間なんでしょうね。
だから、今年は悪い事だけじゃないって思うんです。母が命を拾ったのもラッキーだったし、韓国も行けたし、私も楽しみを見つけたからそんなに落ち込むことはないやって思うんです。

半世紀生きてくると色々ありますよね。私も耐えられない事たくさん経験したけど、いつも何とか耐えている。何とかなると思っています。九子さん、頑張らなくてもいいから、日々楽しくなるように過ごしましょうね。
by ちゃら (2006-11-30 11:15) 

九子

[よぽぽさん!( ^-^)]
いつもいつもお心にかけて頂いて有り難うございます。
実はもう退院致しまして家におります。
体重が体重なので食べさせるのが頭痛いですが頑張ります。(^^;;

そちらもター坊君追い込みで大変ですね。
よぽぽさんもお疲れ溜まったりストレスたまらないようにネ。
( ^-^)
by 九子 (2006-11-30 22:40) 

九子

[ちゃらさん!( ^-^)]
そちらこそ大変なのにこんなに長く書いて頂いて本当に有り難う。心より感謝です。

>でも幸いにも私は凹むけれど、すぐに回復する性格なので何とかやっています。姉に言わせるとあなたの立場だったら立ち直れないって言います。

ちゃらさんはやっぱり凄いわ。
韓国行っちゃうなんてすごい行動力ですね。( ^-^)

トリプタノールはもう慣れました?私自身は飲んだ事ないんだけどね。たぶん予防的にでてるのかもしれませんね。

そうなんだ。プラス思考だなあ。それぞちゃらさんの強さですね。なんだか安心しました。( ^-^)

お互い親を介護する年代です。もちろんちゃらさんの場合は問題はそれだけじゃないのにこんなに頑張っていらっしゃるので、九子も気持ちだけは負けないようにしたいと思います。

書き込み本当に有り難う。
そろそろ赤ちゃん生まれたかしら?

あっ、忙しいの良くわかるから無理してお返事頂かなくても大丈夫ですよ。こちらからまた伺いますね。( ^-^)
by 九子 (2006-11-30 22:52) 

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