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源氏物語人殺し絵巻 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

文庫本表紙の楚々とした長い髪の平安女性の姿から、まさかこういう内容だったとは想像出来ずに、また、まだ見ぬ源氏物語への憧れもあってついふらふらと買ってしまった。
ウツの回復期で軽く読める本を求めていた時とは言え、正直う~んと唸った。


源氏物語、原作を読まれた方はどのくらいいらっしゃるだろうか。
手もよう『卯月日記』 の卯月さんが七巻の大作を読み切られ、それぞれの巻について綿密な考察をされ、何より最後の回では源氏物語を通して作者が何より伝えたかった人生の教訓を深く読み取っていらっしゃって「凄い!」の一言に尽きる。


ところで谷崎潤一郎訳にせよ、円地文子訳にせよ、卯月さんが書かれた今泉忠義訳にせよ、全部で十冊にもなろうかという古典の大作を、現代小説のたった上下2冊であっても1冊にまとまっていなければ急速に読む気を失うこの九子が敢えて読もうとするだろうか。
(いや、読もうとするはずが無い。反語(^^;;)



そういう意味で源氏物語のとっかかり本・・・と言っては語弊があり過ぎだなあ、むしろ源氏物語に似せた極めて刺激的な艶本とでも言うのが本書だと思う。



有名な「いづれの御時にかありなん・・・」で始まる源氏物語を、純情可憐な高校生であった九子たちに教えてくれたのは、細身で色白、眉のうすい、烏帽子(えぼし)を被ればそのまま平安貴族に変身出来そうな名前も「○殿先生」だった。


○殿先生はニタッと笑いながら、「源氏物語なんてエロ本だよ。」だとか、「後朝(きぬぎぬのあさ)の意味は、逢って契りを結んだ、つまり肉体関係を結んだ後の朝のことだ。」とか、まだうら若き女子高校生がほっぺたを赤く染めるような事を平気で言ってのけた。


もちろん教科書に載っていた限りの知識であっても、藤壷、葵の上、夕顔、紫の上などの比較的覚え易い名前はもとより、六条御息所(ロクジョウノミヤスドコロ)だとか弘徽殿女御(コキデンノニョウゴ)だとか、末摘花(スエツムハナ)などという読み難い名前までなんとなく記憶している。


ところが名前は覚えていても、それぞれの人間関係となるとさっぱり。


確か生霊(いきりょう)になった恐い人は、コキデンだったかロクジョウだったか、そのために死んだのは誰だったか、すべては遠い遠い記憶のかなたへ・・・。(^^;;



それがこの本を見れば一目瞭然!
その上右大臣、左大臣の権力闘争の背景など、なあるほどと肯かされる事しきり!


実は、この人間関係のわかり易さのゆえに、最初娘ども二人にも読む事を勧めようかと思ってしまったのであるが、思った事をすぐには口にしない自分の性格をこの時ほど感謝したことはない。
その後の展開のすさまじさを思えば、とても高校生にお薦めできる代物ではない。(^^;;


この本は第4回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞したのだそうだ。


確かに奇想天外なストーリーであるが、源氏物語をベースにしてこういう話に仕立てられる作者の創造力や文章力には敬意を表する。


エロいのは仕方ない。原作が原作なんだから・・。(^^;;
ただなあ。ここまでグロテスクに書かなくてもなあ。



これだけのものを書ける力のある人なのだから、もう少しグロさ加減がやんわりとしていれば、きっともっともっと幅広い読者がついたのに、惜しいなあ。
これではまるでスポーツ新聞の真中へんの穴場記事とかが出てる紙面みたいではないか!
(って、九子はそんなのこっ恥ずかしくって見た事ないけど・・。(^^;;)


ここでお断りしておくと、卯月さん曰く、本来の源氏物語にはあからさまな性描写はおろか、それと思わせる場面もほとんど出て来ずにまことにあっさりとしているそうである。
そうだろうなあ。奥ゆかしい平安時代の文学だもの、真綿で包んでその上を何重にも包み込んだような表現でないと、宮中の女性たちには刺激が強過ぎたのだろう。



それと、結末の二転三転の挙げ句の真犯人の告白。
この部分もなんだかなあ。


たぶん本来の源氏物語を愛する真の源氏物語愛読家には、源氏物語のとんでも本としてさんざんな評価を受けるんだろうなあ。


しか~し!確かにこの本は一読の価値は有る!と、敢えて九子は言いたい。
だってこの九子が、読んだ直後に大慌てで上中下の三巻に分かれた田辺聖子さんの「新源氏物語」を買ってしまったのだから。
(卯月さんのを読む限り、田辺「新源氏」も所詮本来の「源氏物語」ではなさそうだが・・。)


この本を読めば読むほど、本物の源氏物語ではどう書かれているのか興味が湧く。
この部分は著者の長尾誠夫氏の創作なんだろうか、それとも原作にもあるんだろうか。
超グロテスクなこの部分は、原作ではどんなに優雅に書かれているんだろうか。


そんな疑問が次々と湧いて出て、源氏物語怪奇箪は読者に必ずや源氏物語回帰現象を起こさせるに違いない。
それに、このおぞましい源氏物語を読んでしまったら、必ずや口直しに(^^;;本来の雅(みやび)なる源氏物語を読みたいと思うのは常人の常ではあるまいか。



結局九子など死ぬまでかかっても読まなかったかもしれない源氏物語を身近なものにさせてくれたこの一冊に、とりあえず感謝しようと思う。( ^-^)

源氏物語
タグ:源氏物語
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コメント 8

よぽぽ

[いろいろ読まれてすごいですね]
私も20代前半のころ田辺聖子さんの「新源氏物語」
読みましたよ。
さすがに原作を読もうなんて気力はないですけど…
当時は田辺聖子作品にはまっていたみたいで
いまだにその当時買った田辺聖子作品が
残っています。
たしか「私本源氏物語」なんていう作品もあったと
思います。
最近では手に取ることもないのに
なぜか捨てられずに取ってあります。(^^;

源氏物語に出会ったのは中学生のころ
お正月のテレビドラマで沢田研二氏が
光源氏役だった源氏物語を見ました。

当時はどんな話かも知らぬまま、
親戚の家で見た記憶があります。
今にして思えば中学生には少し刺激的な
お話だったようですね。
by よぽぽ (2007-12-05 20:46) 

eiko

[私も読みたい!!]
その長尾誠夫氏の源氏物語を!

なんか、読んでみたい本です。笑
by eiko (2007-12-05 23:15) 

九子

[よぽぽさん!( ^-^)]
いやいや、ウツの時は出来る事が限られるので寝っころがって読める時に読んでただけです。(^^;;

それより
>私も20代前半のころ田辺聖子さんの「新源氏物語」
読みましたよ。

よぽぽさんの方がよっぽど凄い!

何しろ私は大学に入ってから、友達居なかったので(^^;;、高校時代は一冊も読まなかった本と言うものを読んでいれば暇がつぶせる事に思い立って読み始めた人間ですので、とてもじゃないけれど20代の前半に源氏物語という訳にはとてもとてもいきませんでしたよ。

その頃から読まれていたから、いろんな人生勉強ができたんでしょうね!(源氏物語で人生勉強って、なんのこっちゃ。(^^;;)

>源氏物語に出会ったのは中学生のころ
お正月のテレビドラマで沢田研二氏が
光源氏役だった源氏物語を見ました。

そんなこともあったの?
当時のジュリーならさぞかし綺麗だったでしょうね。( ^-^)
by 九子 (2007-12-05 23:57) 

九子

[eikoさん!( ^-^)]
eikoさん。いつも素早くコメント有り難う!( ^-^)

うん。怖いものみたさってやつよね。
でも、内容知らなかったから読めたって部分もある。

eikoさんなら肝っ玉がすわってそうだから「なあんだ!ちっとも怖くなかった。」って言うかもね。( ^-^)
by 九子 (2007-12-06 00:01) 

eiko

[そんな事ないんですよ(^^;]
私はメチャクチャ怖がりで、ホラー映画もしかり
ニュースでも残虐な映像は見れません。
肝が据わっていそう?あはは~
確かにすわってますよね~勝負事には。笑
by eiko (2007-12-06 08:51) 

イエローポスト

[分かりずらい貴族]
小生も原本は読んだことはありません。我が高校時代の先生は、九子さんの先生の如く、すぱっと説明してくれませんでした。奥手の方ですからどこがよいのだろうかと思っていました。最近2回ほど講義を聞いて、貴族の社会やものの見方がわからないと3分の1も分からないではないかと思いました。その説明では、燕尾服を着る席に光源氏がキザな服装をして登場しても、斬新だとか、艶そのもの出来事についても非難の的にならない。高貴な身分の人には溜息があっても、あこがれがあるようですとの説明もありました。
貴族は人間の心底にある奔放な生命を道徳で抑えつけることなく、表現できる立場にあるようです。ディスコンティという監督は貴族の出なのでそれらの作品をみたらということで、みましたが凋落の時代の表現でしたので上昇気流の貴族の動きについてはまだよくわかりません。源氏のあの時代は性についてもおおらかな時代だったような気がします。
by イエローポスト (2007-12-06 11:52) 

九子

[eikoさん!( ^-^)]
>確かにすわってますよね~勝負事には。笑

いいですねえ。( ^-^)
もしかしたらeikoさんって、うちの母に似てるかも・・。
バレー、プロレス、野球など、大好きでテレビにかじりついて大声出して見てたし、株をやるのもうまかった!

儲かったかどうかは知らないけど・・。(^^;;
by 九子 (2007-12-07 12:25) 

九子

[イエローポストさん!( ^-^)]
こちらでは始めてですよね。おいで頂いて嬉しいです。( ^-^)

>貴族は人間の心底にある奔放な生命を道徳で抑えつけることなく、表現できる立場にあるようです。

>燕尾服を着る席に光源氏がキザな服装をして登場しても・・・

この部分、この本にはそこまで出てきませんでしたが、「新源氏」の上巻にありました。確かに、源氏のすることならなんでも許されるんだろうかと思うところがしばしばありますが、なるほど、単に美形というだけでなく身分が高いから許される訳ですね。

源氏→貴族→ディスコンティ監督という発想は、さすがイエローポストさんですねえ。( ^-^)
名前だけは知ってましたが貴族の家柄なんですね。

確かに源氏物語は時代背景が分かって読むのと読まないのでは理解に格段の差が生じてくるのかもしれません。

いつか本物に挑戦してみたいです。( ^-^)
by 九子 (2007-12-07 12:40) 

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