「日本人の背中」と「とてつもない日本」 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]
北京オリンピック開会式の夜、華やかなセレモニーの途中で九子はテレビのスイッチを消した。
なんだか面白くなかった。
これでもかこれでもかと国の威信をかけた、どうだ! 人と金ならいくらでもあるぞ!という中国のやり方が、過去数年間に報道された一連の反日運動とあいまって九子に不快感を抱かせた。
それってコンプレックスじゃないの?
少なくとも力をつけた中国に対する嫉妬心だよ。
言われるまでも無い。
だけど日本だってしゃんとしてるんだよ・・って何かを、歴然とした証拠がどうしても欲しくなって、夜の夜中車を跳ばして本屋で手にしたのがこの二冊だった。
まずは「日本人の背中」
作者は井形慶子さんといい、20代で「Hiragana Times ひらがなタイムス」という外国人向けの冊子を創刊したイギリス通だ。
この本の冒頭には、九子が求めていた誇るべき日本人の姿が数多く出ている。
何といっても最高のエピソードがこれだ。
筆者が偶然フランクフルトの空港でドイツ人夫婦の大喧嘩に出くわした。
かんかんに怒った奥さんの方は大荷物を夫に押し付けて走り去って行ってしまった。
夫は妻の名前を大声で呼んで後を追おうとするが、荷物が邪魔をして追いかける事が出来ない。
気の毒に思った筆者が「少しだけなら私が荷物を見ていましょうか?」と声をかけた。
すると夫は得体のしれないアジア人の出現に警戒心をあらわにし、後ずさりをはじめた。
すかさず彼女はパスポートを取り出して、彼に見せた。
すると彼は「ヤパーナリン、ヤパーナリン(日本人だ、日本人だ)」と繰り返し、「5分で戻る。」と言って荷物を彼女に預け奥さんを追いかけたのだという。
その夫婦のその後も少々気になる。
奥さんに「荷物は一体どうしたのよ!」と詰め寄られて、「実は隣に親切な日本人がいたから預かってもらった。」という話になり、「へえ~っ。あなたもなかなか気が利くのねえ。」なんて調子で仲直りしたのなら最高だったのだが、実際はどうだったんだろう・・・?(^^;;
まあともかくそれだけ日本人は海外でも信用されているって言う訳だ。
とにかく「まじめ、勤勉、清潔」と言うのが日本人のうたい文句。
海外でもホームステイさせたい留学生ナンバーワンが日本人だったり、アルバイトで日本人留学生を雇いたいという店主は数知れず。
計算に強くルールを守る。躾がいいから万引きなど絶対しない。
だから「一度日本人を雇ったら他の国の学生は使えない。」という事になるのだそうだ。
おお、おお、いいぞ~、日本人!
まあただそこから先は、決して諸手をあげてばんざあい!と言う話ばかりではないし、すでに言い尽くされている事が多くて、だからどうする!という具体策にも目新しいものが無い。
ただ長年に渡り諸外国を行き来してきた人の体験談というのはやはり面白い。
悪名高い(九子もひっかかったおれおれ詐欺(^^;;)にしても、これほど多くの日本人がやすやすとひっかかってしまうというのがフランス人には(たぶん西洋人全般には)全く理解できないと言うのを聞いて、九子はてっきり、彼らが大阪のおばちゃんと同じで疑い深くて詐欺に引っかかりにくく、日本人一般が人を信じやすいからなんだろうと思っていた。
ところが、もちろんそういう側面も多少はあるだろうが、そもそも西洋人には子供が起こした事故の賠償金を親が払うなどという考え方事体が欠如していたのだ。「ふざけるな!自分でなんとかしろ!」でおしまい。
親子関係そのものが決定的に違う訳だ。
(同じアジアの例えば韓国では一体どうなんだろう?)
電通総研が2000年に実施した「自国の文化に誇りを持っているか?」という調査で日本は60カ国中57位。
下位3国は自国民でない人の割合が高いため、実質上は日本が一番誇りを持てない国という結果がでているそうだ。
えっ?日本ってそんなに悪い国なのかなあ? ちょっと点数辛過ぎない?
面白くは読めたけれど少々物足りない思いを抱いて次に手に取ったのが次期総理候補の最有力とされる麻生太郎氏の著書「とてつもない日本」だった。
そう言えば、政治家が書いた本というのを九子が読むのも始めてのことかもしれない。
安倍晋三氏の「美しい国日本」も隣にあったが、こちらを選んで大正解というところか・・。
タイトルの「とてつもない日本」は麻生氏の祖父である吉田茂元首相が折に触れよく言っていた「日本人はとてつもないエネルギーを持っている。日本は必ずよくなる。」という言葉から採ったそうだ。
読むほどに麻生太郎という人の頭の柔らかさに感心させられた。胸のすくような弁舌というのに久しぶりに出会った。例えばこうだ。
氏は高齢化というのを逆手にとって、元気なおじいちゃんおばあちゃんにはまだまだしっかり働いて税金を納めてもらおうという自説を唱える。
年甲斐もなく・・とか、いい年こいて・・などと言われても気にせず、学生時代に乗りたくても買えなかったオートバイを六十歳になってから買って乗り回す。若い人じゃ買えないようなモトグッチとか、ウアンビーンなんていうイタリア製のオートバイを購入して、逃げた女房は忘れて、合コンなんかで知り合った女性を後ろに乗せて、ダンディーにツーリングを楽しむ・・・、そんなことができれば、高齢化社会はバラ色ではないか。
「逃げた女房は忘れて・・」ってとこがどことなく可愛らしい。( ^-^)
この「超」がつくほどの楽観論が彼の真骨頂だ。
彼には出来の良い弟が居て、ずっと勉強の出来ない落ちこぼれ兄貴として、なんとかして弟に喧嘩だけには負けないようにしたのだと言う。
同じ父母の間に生まれ、同じ屋根の下で育っても人間は平等には育たないという事を幼少期に知ることが出来たのは貴重な体験だったと彼は述べている。
そもそもマンガ好きで知られ、おたく文化の良き理解者という麻生氏だが、バブル以降減少の一途をたどっているとばかり思っていた海外の日本語熱が、マンガやファミコンの攻略本がまず一番に日本語で出版されるという理由で日本語学習者の量を押し上げて、一時期の二倍にも増えているなどという思ってもみなかった現実を教えてくれる。
また、日本が世界の半数にも及ぼうと言うロボットを所持するロボット大国になったのは、西欧諸国ではロボットは人間と対立し、やがて人類を支配するという暗いイメージであったのに対して、「鉄腕アトム」と「ドラえもん」が日本人に温かいロボット像を教えてくれたからではないだろうかと彼は推論する。
そうかと思えば靖国参拝の問題には、具体的かつ独創的なアイデアがいろいろ披露される。
(九子個人的にはA級戦犯分祀の方が判りやすいと思うのだが・・。)
一冊読むと、麻生太郎に総理大臣を任せてみようかという気になる本ではある。( ^-^)
ただし、「日本人の背中」にも麻生氏は登場し、外人記者クラブでの英語のスピーチが居丈高でけんか腰だったと評されていた。気分屋なのかもね。(^^;;
立場も背景も違う二人の本であったが、結論の部分は良く似通っていた。
日本も諸外国のように強くなれ!というのでもなく、必要以上に自己主張せよというのでもない。
日本人の持つ世界に比類ない「和」を重んじる心とか、真面目さとか、そういった長所をもっと自覚して更に伸ばして行こうという事だった。
もちろん変えなければいけない部分は変えた上で、私たち自身が気づかないでいる私たちの長所を、美徳を、もっともっと評価して、自信を持って生きようということだった。
言わば「仏になるという事は、他人になるのではなく本来の己になるのだ。」という仏教の説く人間の在り方に近い感じがした。
例えば日本の自衛隊は、世界各地に派遣されて現地の人に日本人の真面目さや律儀さを印象づける外交官の役割を果たしているのだという。
彼らは別に特別なことをしている訳ではない。日本でやっていると同じ事を、現地で行い、時にはそのやり方を現地の人々に教えているに過ぎない。
わたしたちが「当たり前」と思っている諸々の行為の美しさを、重要性を、そろそろわたしたち自身も気づき、そこに込められたかけがえのない日本人の魂を感じ取り、古来の文化に胸を張るべきではないだろうか。
二冊を読み終えて、やっと九子は北京オリンピックをまともに見る気になった。
まともに見出したら、やけに中国ばかりが強いので、またまた不愉快になった。(^^;;
用意周到な九子は(えっ?)、実はそんな事もあろうかと、もう数冊中国と日本の関係を考える本も買っていた。
中国と日本は、なぜ反目しあうのか。そしてこれから一体どうしたらいいのか。
・・・・なあんていう難題には活路は見出せそうもないので(^^;;、九子が少しでも中国を好きになるような知恵の幾つかでも見出せたらいいなあと思っております。( ^-^)
麻生太郎
[初めまして]
オリンピックにまつわる話題、禅の御話、音楽の記事など、興味深く拝見させて頂きました。
徳永さんの音源はこちら界隈でも評判で、杏里の「オリビア~」が入っているやつが廻ってきました。
有難う御座います。
by gakudan (2008-08-18 20:42)
[私にしたら素早い!・・お返事。(^^;;]
gakudanさま、早速お越し頂き誠に有難うございました。
昨日は長野市にご滞在で、小菅亭さんや元屋さんのおそばを食べてらっしゃったのですね。( ^-^)
元屋さんも小菅亭さんの本店も、我が家から歩いて5分ちょっとの距離なんですよ。( ^-^)
gakudanさんは行動派の旅行好きなんでしょうね。生涯長野から出るのはあと何度???位に出不精の私には雲の上の人に思えます。
徳永さんの声はセクシーなんですよね。( ^-^)
by 九子 (2008-08-18 23:35)