SSブログ

無償の愛 [<正統、明るいダメ母編>]


無償の愛と言う言葉は、例によって薬大の哲学の講義で詳しく習った。



本来この言葉は「アガペー」というキリスト教における神の愛と同意語で、神が私達を平等に愛し給うように、分け隔ての無い、何物も見返りを求めない尽きる事の無い愛であるという。



たとえば幼い我が子が車に轢かれようとしている時、後先考えずに母親が身を投げ出して子供を救おうとする行為がそうなのだという。つまり、自分の身の危険など省みずに居ても立ってもたまらずに夢中でしてしまう行為の事なのである。



去年の今頃、大学に入学間も無い末娘のM子から「男子バレー部のマネージャーになった。」という電話がかかってきた時、九子が取った行動はまさしく無償の愛だと思った。

もとより身の危険などはさらさらないが、居ても立ってもたまらずに夢中でしてしまう行為には違いなかった。



九子は鷹揚な母親がそうするように、何事も無かったように娘の電話を聞いた。そして受話器をがちゃりと置いた途端、(我が家では九子がケータイを携帯する習慣がいまいちついていないので、子供達は薬局の電話にかけてくることが多い。)九子はあわてて調剤室に走り、それを探し回った。



いつも整理整頓の行き届かぬ調剤室だが(^^;;、そんなに備蓄薬品が多いわけではないので在り処はすぐにわかった。うちの前にアメリカ人のSさんが住んでいた頃、彼女が医者から処方されていたホルモン剤、低用量ピル、つまりは避妊用のピルである。



あれからもう4年以上になる。ピルの期限はもうとっくに過ぎていた。

それでもいい。どうしても送りたかった。そうでもしないと気がすまなかった。



だから早速、速達で送った。



送ってみたら、どうにも妹にだけそんなものを送って、N子に送らないのはN子に対して失礼ではないかという思いがしてきた。それでN子に電話することにした。



「Nちゃん、ごめんね。Mちゃんがさあ、男子バレー部のマネージャーになったんだって。それでさあ、ママ心配になって居ても立ってもたまらずに、期限切れのピル送ったんだよね。考えてみたらNちゃんにも送んなきゃ失礼だったのかなあと思って今電話してるんだけど・・。」



「アホちゃう!期限切れのピルなんて、何の意味あんの?」すっかりにわか仕立て関西人のN子に関西弁でまくしたてられて、それもそうかなあと思い始めたのだが、とにかく期限切れではあっても威嚇射撃程度には役に立ったのではなかろうかと今になっても思っている。



長野はいろんな事で都会とはだいぶ違っている。

ブログを始めて、都会ではお子さんが高校生くらいになると彼氏や彼女が出来て当然という感じなのをやっぱり驚きの目で見てしまう。



考えてみるとうちの子供達は皆一様に晩生(おくて)みたいである。(そう思うのは親ばかりかもしれないが・・。)

長男は、ちょっと可哀そうなトラウマがあって女の子との付き合いがうまく出来ない。

次男は一番もてそうだが、女の子と付き合うより男の子と付き合う(変な意味じゃなくて(^^;;)方がいまだに楽しいらしい。

三男は職場でクビになるかならないかだから、それどころじゃあない。

長女は女子の多い薬学部で、勉強と部活と自動車学校で忙しくて、たぶん恋愛どころではないだろう。



次男、長女、次女は規律がやかましい私立高校出身だから、長野に居る間は恋愛沙汰はご法度だった。

さて自由な大学に進んでから、彼らは、特に次女はいったいどうなるのか。



でもまあ兄妹が居る分、異性に免疫があるっていうメリットはあったと思う。

お兄ちゃんが洗濯して妹の分も干してたりしてたから、家のあちこちに散らばってる女の子の下着なんか見てもなんとも思わないと思うよ。(^^;;

妹達も、男の子の中に一人で居てもなんとも思わないみたいだし・・。





まあ、あんなそんなが功を奏したのか、今まで無事にほぼ1年が過ぎた。

そうしたらこの春休み、久しぶりに猫なで声でM子から電話がかかってきた。



「あのさあ、バレー部の先輩達がさあ、長野へ遊びに行きたいって言うんだけど、うちに泊めてもいいかなあ?私を入れて5名。男の子が3人と、女の子が1人なんだけど・・・。」



もちろん九子は鷹揚な母親を気取って「もちろんよ。」と答えた。

M子のヤツの嬉しそうな声!



さあ、大変だ!

何しろ掃除嫌いの九子は、何かある時しか掃除などしない。

特に洗面所たるや、お客様がたまに見えても泊まりでもしない限り使う事はないので、安心して汚れ放題だ。(^^;;



そもそも上の兄姉4人は、全くといっていいほど大学の友人を家に泊めなかった。もちろん「家が汚いから。」だ。端っから母親など信用していなかった。(^^;;



それをM子は「泊めてもいい?」と聞いてきたのだ。少しはこのダメ母を頼ってくれたって訳である。

ここで断ったら主婦九子の沽券に関わる。(えっ??)



大掃除は予定の週の月曜日から始めた。お泊りは土曜日である。



まずは洗面所とお手洗い。ここが汚くっちゃ、主婦の名折れ!(日頃やってることと言ってることがかみ合わないような。(^^;;)



「洗面所とお手洗い」と軽く言ったが、実は月曜日がお昼寝しながら洗面所、火曜日がまたお昼寝は欠かせずにお手洗い、水曜日はそれでも疲れてお休み・・・みたいな九子スケジュールである。(^^;;





いくら不器用で手がのろくても、一日経つとさすがに見違えるほど綺麗になる。

汚れ放題、散らかし放題のうちが、そんじょそこらにある小汚い家くらいにはなる。(^^;;

最初からこうやってたら良かったんだよね。( ^-^)



木金と土曜日の午前中かかって、こんどは二階の部屋の掃除である。



二階はもともと明治時代から一番の客間に使っていた部屋と善光寺を模した仏壇がある仏間があって、まあ、わがや唯一の格式のあるところである。だからM子も友人が来るたび彼らを必ずこの部屋に通していて、その他の部屋には何があっても決して立ち入らせなかった。(^^;;



今度も当然のように、この部屋で夕食をとり、皆で歓談し、この部屋に男の子3人を寝かせ、女の子二人はM子の部屋の二段ベッドで休ませるというのが当初の計画だった。

つまり部屋に布団を積んでおいて、あとは男の子に適当に敷かせればいいやと九子はたかをくくって居た訳だ。



ここで登場したのがM氏である。

現在M氏は男の子の寝場所のすぐ隣の息子達が使っていた二段ベッドで寝ている。

だから九子は、「用心棒も居るし・・。」という訳で安心していた。



ところがこれに難色を示したのがM氏であった。

「俺、そんなうるさいとこじゃあ眠れない。いっそのこと俺が寝てる二段ベッドを提供して、前にひとつ布団をしけば男3人眠れるからそうすりゃあいいんじゃないか?」と言い出した。そして言うが早いか、息子達の部屋の掃除を始めた。



九子が次に行って見た時、息子達の部屋はすっかり片付いていた。

「ほら、これで九子も楽だろ?」



う~ん。こうなると一人一人の布団の準備を九子がしなければならず、座敷で雑魚寝してもらったほうが男の子にやらせればいいから楽なんですけど・・。(^^;;



まあでもここまでやってもらった以上、文句は言えない。





土曜日は雪交じりの冷たい雨が降っていたけど、彼らは予定通りやってきた。

お昼頃にM子からの電話があって、そのあと「部長さんに代わるから・・。」という訳で、代表者と思しき男の子から礼儀正しい挨拶を頂いた。

わが後輩と思うと、30年経っていても身びいきしたくなる。「清廉潔白な可愛い男の子達じゃないの!」



電話があった事をM氏は知らない。

なんだかしらないが、いやに慌ててホームセンターに行ってくると飛び出して行ったから・・・。



30分ほどして戻って来たM氏は、今度は二階に篭りっきりになった。

だからM氏は、ご一行様が到着して薬局に挨拶に来た事も知らなかった訳だ。

彼らはその後すぐに予定通り松本に繰り出すと言ってまた車で出掛けた。

(せっかく長野に来てくれても、善光寺を見ればあとはお終いというのが寂しいのよね。)





ところでM氏は?と下で聞いていると何やらトンカチ、音がする。1時間も経ったように思ったが、もう少し短い時間だったかもしれない。降りてきたM氏は満足そうな顔をしていた。



「やっと出来た!これで安心だぞ!」



「えっ?何やってたの?」



「M子の部屋に中から鍵かかる様に、鍵付けてたんだよ。何あるかわかんないだろ!( ^-^)」



「!!」





九子の無償の愛が、M氏の無償の愛に完敗した瞬間でした。(^^;;(^^;;


nice!(1)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学校

nice! 1

コメント 6

お夕

[我が家の心配]
九子さま、お疲れさまです。

我が家にも二人娘がおりますが、全くもって異性とのおつきあいがなく、逆に心配しております。
このままこの家に居座るのではないか?私の老後の楽しみはどうなる?計画が狂います。
実際、結婚なんてめんどくさい。このまま独身の方が気楽。などと、私を観察して学習したのか、と思うような言いぐさ。(結婚してても十分気楽なんですけどね)
異性の友達どころか同性の友達もほとんどなく、いつも一匹狼(いや、娘か)状態。一人でも平気で、「王将」の唐揚げ定食を食べているぐらいです。
九子さんのご心配はよくわかりますが、一生に一度は隙を見せないと、縁も遠くなるかと……。
そういう我が旦那も、長女が深夜までカラオケで遊んでいたのを、3軒ほど店を探し回り、連れ戻したという無償の愛を演じていましたが……。
by お夕 (2010-04-11 14:36) 

九子

[お夕さん!( ^-^)]
コメントありがとうございます。お返事遅れてごめんね。

>全くもって異性とのおつきあいがなく、逆に心配しております。

う~ん、地方に居ると逆にこういう風に心配することがおおいかもしれませんよね。

>私を観察して学習したのか、と思うような言いぐさ。(結婚してても十分気楽なんですけどね)

いやあ、お夕さんはお仕事と家庭の両立でお忙しいんだから、お嬢さんたちの気持ちもわかるわよ。(^^;;

>九子さんのご心配はよくわかりますが、一生に一度は隙を見せないと、縁も遠くなるかと……。

たしかに・・。でももう若干遅くてもまだ大丈夫では・・とか思ってるんですが、そのうちすぐに大丈夫じゃなくなっちゃうのかもね。(^^;;

ご主人様の無償の愛も、わが夫同様、尊いですねえ。( ^-^)

娘と言うのは、母親が思う以上に、父親にとっては可愛いものらしいですよねえ。(^^;;
by 九子 (2010-04-12 20:19) 

秋桜

[我が家の場合]
うちは 女 男 男の3人兄弟で 娘はもう嫁いでいますが 他のお宅のように、主人は小さい頃から 娘だけを特別可愛がることがありませんでした(;^_^A 主人曰く小さな時は、男の子のほうが幼稚で可愛いいから…らしいのですが そんな父親もいるんです(。・ω・。) それでも娘が学生の頃は 割と自由奔放だったので さすがに無関心ではいられませんでしたが。兄弟性格はそれぞれですが 真面目過ぎても 自由過ぎても 困りものですね。 追伸ですがここ四日間くらい 寝てばかりで 朝もなんだかモヤモヤして やっぱり春なのかと実感しています。九子さんも ご自愛下さいね
by 秋桜 (2010-04-13 17:13) 

九子

[秋桜さん!( ^-^)]
> 主人曰く小さな時は、男の子のほうが幼稚で可愛いいから…らしいのですが そんな父親もいるんです(。・ω・。)

たしかに言われてみるとその通りですよね。女の子はしっかりしてますもん。(^^;;
そんなお父様も、お嬢ちゃんが年頃になると・・。やっぱりね。
( ^-^)

>真面目過ぎても 自由過ぎても 困りものですね。
そうなんですが、ちょうどいいっていうのがまた難しいわけでして・・。(^^;;

4月5月6月、私もどうもいまいちです。別にひどくだめと言う訳では無いのですが、人に会ったりする気力が湧きません。
ちょっとここんとこ調子が良かったから若干無理したのかもしれませんが・・。

なんたって寝るのが一番ですよね。
それで楽になるんだからこれほどいいことはありません。
( ^-^)

秋桜さんも無理しないでね。( ^-^)
by 九子 (2010-04-13 22:29) 

あずーる

[賞味期限ぎれピルは笑ってしまいました!]
でも、娘さんに送るなんて進んだお母さん。
その手の話題、母と話したことないです。

九子さんもお掃除きらいなんですね~ 
意外だわぁ。。。
私も大嫌い。暇があっても絶対しないんですよ。^^
by あずーる (2010-04-22 22:22) 

九子

[あずーるさん!( ^-^)]
>その手の話題、母と話したことないです。
あずーるさんもですか!私もです、良く考えてみたら・・。

あずーるさんと私を年齢的に同じくくりにするのはご不満でしょうが(^^;;、うん十年前はそういう時代だったように思います。

はい!私は正真正銘のお掃除嫌い!何しろダメ母でありますゆえ。(^^;;
あずーるさんのお掃除嫌いの方が、私にはちょっと意外でありました。でもまあ、本に埋もれて幸せな顔してるあずーるさんというのも絵になりますよ。( ^-^)
by 九子 (2010-04-23 12:15) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。