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僕はパパを殺すことに決めた・・・草薙厚子 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

  • 作者: 草薙 厚子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/05/22
  • メディア: 単行本

この頃なんだか自信を失いかけているように見える日本だけれど、「平等」という点で言えばかなり世界に誇って良い要素は沢山あると思う。どんな家庭に生まれようとも本人が努力すればどんな職業にだって就く事が出来るわけで、そういう意味では自由度が高い。

そんな中で、誰もが一度は憧れるであろう医者と言う職業には、階級社会が根強く残っているらしい。

頂点が内科医というのはずっと長い間動かぬ事実。その下は皮膚科医、眼科医、耳鼻科医・・辺りになるのか、この頃のしてきた精神科医になるのか?
精神科医は十数年前までは一番下だったらしいので大躍進だ。
患者からは神の手と崇められる外科医たちは、なぜかランクが低いらしい。
こういうランク付けは諸外国でも同じらしく、イギリスでもphysicianと言われる内科医がsurgionと言われる外科医よりも圧倒的に上位に位置するそうだ。(ちなみに歯医者は医者ではありません。)

同じ科の中でも、出身大学が国立大なのか、私立大かというのでも更に差がつくというのをこの本で知った。
「僕はパパを殺す事に決めた」世間を騒がせた奈良エリート少年自宅放火事件についてのいわくつきの本である。

作者の草薙厚子氏が警察の供述調書を不正な手段で入手したとされて販売中止になった。
本の7割以上が供述調書の中身みたいな本だからそうされても仕方が無い。

しばらくの間入手が難しかったが、何度かリクエストを出していたらたまたま手に入った。
販売中止になる前に結構世の中に出回っていたと見え、中古本になった今でもそんなに高価な訳でもなかった。

事件を起こした少年の父親が少年を医者にするために厳しい体罰を与えながら毎日少年の勉強を見たというのが話題になったが、そもそも私立大出の医者であった父親は、少年の実母であった前妻やその両親の家系が医者の家系であり、自分が私立大出身というコンプレックスがあったため、少年を難関の国公立大医学部に入学させて見返してやろうと思っていたという記述があった。

医者という激務のなかで息子の勉強を見る時間を毎日作るのはさぞかし大変だっただろう。しかも中学までは息子に簡単に教えられる事が出来たがさすがに難関高校のテスト問題となると父親の手にも負えなくなり、父親自身も参考書を買って必死で勉強していたというから驚きだ。

それだけのエネルギーをなぜもっと違う形で活かすことが出来なかったのかと悔まれる。

親が子供に自分が果たせなかった夢をかけるというのは本当に難しい。
うまく行けば卓球の福原愛ちゃんや五島みどり、龍姉弟のように才能が開花することもあるかもしれないが、まあたいていは途中で反発されるか、後々まですごく恨まれる。


小林照幸氏が今信濃毎日新聞に毎月曜日に「ペットを飼う」と題するエッセイを寄せられているのだが、その中に「ドリームボックス」という言葉が出て来る。ドリームボックス、夢の箱?どんなに居心地の良い空間なのかと思えば、それは捨てられた犬猫を殺処分する装置の名称なのだそうだ。夢を見ているうちにあの世に行けるという事か。

ドリームボックスの中にはやがて二酸化炭素が充満し、犬達は窒息する。夢を見ているほど安楽に死ねるとも思えないが、最終的に死体となった彼らは焼却されるのだそうだ。


「ドリームボックス」を「ドリームハウス」に置き換えたくなるようなむごい事件だった。
父と子が医者になることを夢見たドリームハウス。その夢は息子の放火によって無残に費えた。

何の落ち度も無い犬や猫達が理由もなく殺されるのと同様に、血の通わない息子に精一杯の愛情を注いだ女医であった義理の母と、兄を慕っていたという幼い弟妹が理不尽にも犠牲になって焼け死んだ。


終章に少年が広汎性発達障害であったことが思わせぶりな調子で出てくる。まるでこの事件の原因がそこに在るかのごとき書き方だ。

確かに彼の行動にはつじつまが合わない事、ちぐはぐな事が散見されるかもしれない。百歩譲ってそれらが発達障害のせいであっても、この事件がそのために起きたというのは無理がある。

少年が憎しみの対象であったはずの父親の居ない日に事件を起こした事や、愛情を持っていた継母や弟妹が焼け死んでしまう可能性に対して余りにも無頓着だった事は確かに障害の影響かもしれない。

しかし、どんな正常な判断力を持った普通の子供でも、これだけ毎日勉強を強いられて、たびたび体罰を受け、精神的にも肉体的にも追い詰められれば誰だってこういう凶行に及んでしまう可能性はあるのだ。

直接の少年の犯行動機が、英語の点数が平均点より20点下で、思わずついてしまった「英語は良く出来た。」という嘘が懇談会でバレるのを怖れたため・・・というのがなんとも稚拙で悲しい。

少年は4歳の時から父に厳しく勉強を教えられていたそうだ。12年間。16歳まで耐えたことのほうがある意味驚異だ。

発達障害というのは悪いことばかりではない。障害のあるお子さんは性格が優しいとよく言われるが、少年の中にもそういう優しさというか、人を信じて決して悪く思わない純朴さというのが見て取れる。彼が父親の暴力に対してもそれまで従順にじっと耐えてきたのもそのためかもしれない。学習障害の三男Yにも通じる人の良さだ。

彼が少年院を出て来る日を待って、父親は猛省して少年とまたやり直す覚悟でいるそうだけれど、感情のままに手を挙げる癖がそうすぐに直るとも思えない。

むしろ実母と亡くなった継母のご両親の存在が救いだ。

女医さんだった継母は一人娘で、ご両親は教育者だった。
一人娘が医者になる。しかも地元の公立の医大に入学する。さぞかし自慢の娘であっただろう。

その大切な一人娘と可愛い孫達を一度に奪われてもなお、彼らは恨むことなく少年に愛情を注ぐ。娘の代わりになって少年の将来を気遣う。

また少年の実母であった前妻は、前夫との約束により少年に一度も会うことなく事件の第一報を聞いて愕然とするが、彼女は密かに医師の資格を取り、研修医として勤務を始めていたところだった。
その理由は、少年がいつか医者になった時に自分も医者になっていたなら、母を探しやすかろうという切ない親心からだった。

こういう人たちが支えになってくれて少年がもう一度人生をやり直せるのであれば、救いの無い事件の中の一筋の希望だ。


教育者の家に育った一人娘は、自分からこつこつ勉強して望んで医者になる。
一方医者の家に育って医者になることを運命付けられ、そのために毎日毎日暴力までふるわれて勉強を押し付けられたIQ136の少年は、はからずも大きな罪を犯して犯罪者になる。子供を育てる人間の責任の重さを痛感せざるを得ない。


哲学者の鶴見俊輔氏の言葉が信濃毎日新聞に載っていた。
「私は母に『あなたは悪い子です』と殴られて育った。今も『おれは悪い人間だ』との意識が根底にある。」

これは実に、実に重い言葉だ。鶴見俊輔氏は現在八十八歳。八十八歳の現在まで母の言葉『あなたは悪い子です』が彼の人生に大きな影響を与えているというのだ。

自分のことを考えると、九子はもう30年も前にある人に言われた一言に傷ついて、以来その人を嫌っている。その人は九子にそう言った事さえ忘れて、そんなに嫌われているなどと思いもしない。まあ、よくある話だ。

それが親子となるとどうだろう。
まずはある時点まで親子の関係は対等ではない。親が子を支配する主従関係だ。
友人と違って毎日のように顔を合わす。交わす言葉の量も自ずと多くなる。
家族であるという甘えから、遠慮もせずに感情をぶつける。躾と称して時には叩く。
親の言葉や態度に、親が思う以上傷ついている子供は結構多いのかもしれない。


こんな日記を書いていると、さぞや立派な子育てをしたのかと誤解される方があるかもしれないが、とんでもない!失敗の連続だ。
何十年も一緒に暮らして居ても、よかれと思って言った言葉で傷つけて、自分がしたことのしっぺ返しで恨まれる。
自業自得。まあ殺されなかった分だけまし!

憎しみは愛情の裏返し・・という便利な言葉に希望を託して、さて後何年かは憎まれ続けてみましょうか・・・。


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Muran

今コーヒーブレークしてました。。。

新しいお話に興味しんしん。

人間が社会の奴隷となるほどに
思いつめる現実を目の当たりにして
コーヒーブレークどころではなくなり。。。

思い込みなのでしょうか。

あるいは洗脳といえるほどに
周到な不自由化が進み
ひとはがんじがらめ。

その中で泣き笑いながら
生を受けた喜びもまたはかなく潰えるのでしょうか。

狭い島国です。昔から。

でも自由になる方法はきっとあるはずです。
すべての既成概念から。

この家族の思い込みのかたちは
被害者の家族に凄惨な事件を生んだだけでなく

そこに関わるすべてのキマリゴトの上で
胡坐をかいているひとの自由をも
実は奪っていると思います。

みな怖い。恐れを植えつけられている。
そこから自由になったとき
必ず光はみえるはずです。
かならずそうなります。
by Muran (2010-12-11 18:00) 

九子

ブログ更新直後のコメント、誠に有難うございました。m(_ _)m

本当に痛ましい事件でした。mu-ranさんはイタリアにおいでの頃でしょうか。

>思い込みなのでしょうか。

あるいは洗脳といえるほどに
周到な不自由化が進み
ひとはがんじがらめ。

親が子供に夢を託すと言うのはやはり良くない事の様な気がします。
夢を託すのも良くありませんが、親の価値観を子供に押し付けたり、子供とはこうあるべきだというのを子供に強要してしまうのもよくありません。

偉そうに言いますが、これは私の反省です。

>狭い島国です。昔から。

でも自由になる方法はきっとあるはずです。
すべての既成概念から。

そうですよね。mu-ranさんのお言葉にはいつも救いがあります。だからなんだかほっとします。( ^-^)

書店では手に入らないはずの本がこうしてネット社会のお陰で簡単に手に入るようになり、本自体の重みはともかく、少年や家族の供述調書が読めたことは(本来は違法なのでしょうが)とてもよかったと思いました。

あのままでは少年は救われないと思っていましたが、少年に愛情を注いでいる人々が居てくれる事がわかって・・。

書き忘れましたが少年の実母は薬剤師だったそうです。もちろん医者と結婚した薬剤師の多くがそうであるように彼女も免許を棚にしまって専業主婦
をしていたようです。

その彼女が卒業して10年以上も立ってから医学部に入りなおし、若い学生に混じって実習するなんて、並大抵の事ではありません。
もちろん私には絶対に出来っこありません。

医者となった少年にとにかく会いたいと思った彼女の母としての心の強さがそうさせたのでしょうね。

つくづくこの実母が少年を引き取っていたならと悔やまれてなりません。
by 九子 (2010-12-12 22:49) 

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