保険薬剤師研修会 [<薬のこと、ダメ薬剤師のこと、家のこと>]
九子んちのそばにマンションが出来る。九子は心配でたまらない。
随分前から計画はあったのだが、この不景気でのびのびになって、たぶんこのままもう建たないんじゃないかって思われてたのだが、最近になってマンション販売のチラシが入ったり、笠原十兵衛薬局に雲切目薬を買いに来た人がマンション販売の人で、「ひとつよろしくお願いします。」と挨拶されたので本当なんだと思う。
まだ草ぼうぼうの荒地だが、マンション名ののぼり旗が並び、対抗するように反対派の人たちの「建設計画を見直せ!」やら「絶対反対!」やらの勇ましい黄色いのぼりが道路のあちこちに立っている。
マンションが出来上がればたぶん長野市で一番という位、善光寺に近いマンションになるはずだ。
最初の計画では13階建で、屋上は善光寺東側の城山に立つ老舗の割烹と同じ高さになるという話だった。
もちろんマンションのすぐ前の、こちらも小林一茶の時代からある本屋さんも一日中日差しから取り残されることになる。
ところでマンションのうんとそばって訳じゃなく、日照権の影響からも騒音の問題からもとりあえず外れている笠原十兵衛薬局の九子がなんで心配してるのかって?
それは簡単明瞭!
マンションが出来るって事は、人がいっぱい増えるって事でしょ?
新しく来た人ばかりだから、薬局って名前がついてる以上何も知らずに(^^;;笠原十兵衛薬局に処方箋を持ってくる人があるかもしれないじゃない!
えっ?普通の薬局ならそれは商売チャンスとばかり喜ぶところじゃあ?
普通の薬剤師さんがいる普通の薬局ならまあそうだけど・・・。
(なるほど!九子さんはダメ薬剤師。雲切目薬売ってるだけで、処方箋調剤は苦手だもんね。(^^;;)
たとえば子供が風邪ひいたときのシロップ剤。今はドライシロップという顆粒状のものが主流だけれど、昔ながらの液体のシロップ剤もまだ残っている。液体の薬は水剤と言われるのだけれど、粉薬以上に作るのに気を遣う。
子供が多くなればアトピーの子も喘息の子もいるだろう。
喘息の吸入薬なんか九子のとこで今まで出した事が無いから器具の使い方とかうまく説明できるだろうか?
それ以上にアトピーの軟膏を2剤合わせてリント布に広げて渡すと言う指示を皮膚科の先生が出して来ることもある。不器用な九子にとっては半日仕事になるかもしれないのに、手数料は一切無し。
まあ仕上がりを見ればとてもそんなに時間をかけたとも、手数料取れるとも思えないんだけど・・・。(^^;;
そうそう、倍散というのもある。
たとえばリン酸コデインという咳の薬はとても強い薬だから100倍散(100グラム中に1グラムのリン酸コデインが含まれるように調整した薬)でも劇薬扱いだし、10倍散は麻薬になる。
(風邪薬によく入ってるリン酸ジヒドロコデインとは別物です。)
100グラム中99グラムのその他の部分は賦形薬といって乳糖やでんぷんが使われ、原薬には間違えない様に色素で色をつけておく。これで混ぜ方が均等かどうかがわかるという仕組みだ。
まあ今は、問屋さんに頼めばメーカーが作った10倍散でも100倍散でも1000倍散でも用意されていると思うから、そんな事する必要がないのかもしれないが・・。
それでも九子はそれなりに準備はしようと思った。だから保険薬剤師研修会のファックスが入ってきた時「これは行かなくちゃ!」と思ったのだ。
長野県薬剤師会は松本市にある。長野市から一時間ほどなのだけれど、ふだんはなかなか行く事も無い。サイトウキネンや「神様のカルテ」で有名になった松本の街は、独特の風情があって本当にいい街だ。
九子はてっきり、みんな保険調剤初心者の若い人ばかりかと思っていた。
ところがまずその人数の多さにびっくりした。
「え~っ?九子みたいに出来ない薬剤師さんってこんなに大勢いるの?しかもかなり年配の人まで・・。」
もちろんこれは九子の勝手な思い込みであった。(^^;;
入り口に近いほうに並んでた人たちは、実は長野県薬剤師会の講師の先生方だった。20人くらい。
30代40代が中心の中堅どころで和気あいあいのとてもいい雰囲気だった。
長野県薬もこれなら安心だね。( ^-^)
その講師の先生方の一人に、九子は見覚えのある顔と名前を発見した。
熊谷信先生。日経DIに良質なブログを寄せていらっしゃる。もちろん九子日記のように薬剤師が見てもなんの役にも立たず、軽蔑されるだけの代物(^^;;とはきちんと一線を画し、日々の薬局業務に直接関わる有益な情報が満載で多くの読者が居る。( ^-^)
信州大学経済学部を卒業されて一旦社会人になってから薬大に入り直して薬剤師になったという変わった経歴の先生に、まさかお会い出来るとは思わなかった。
何人かの先生方の講義の後、患者役と薬剤師役の二人の先生のお芝居があって、それを題材に薬歴の書き方を学ぶ。
3人~4人がけのテーブルが20こ弱。偶然並んだその面々で薬歴の書き方や薬剤情報の伝え方などを話し合う。
薬歴というのは、薬局が処方箋を受けた時に必ず書いておかなければいけない患者さんの個人情報を含む薬やその他の情報だ。
九子のテーブルは3人掛けで、九子の左側は松本のクリニック勤務の美人薬剤師のMZさん。
医師とも対等に話が出来るという彼女は、好奇心旺盛な頭のいい人だ。
右側のおとなしい若者は、しかしグループ討論が始まるとしっかりした知識を持った薬剤師さんだったことがわかる。
今日のテーマでは、「たまたま通りがかりで来店したAさんにワーファリン(血液さらさらにする薬)が出た時」に、Aさんにどういうふうに薬の説明をするかを考えた。
手元に渡された用紙に自分なりの薬歴を書き出して、最後にそれを3人でつきあわせる。
一目でわかること。他の二人のは長いが、九子のは短い!(^^;;
特におとなし気な若者は、SOAPと呼ばれるシステムを導入して書き込んでいた。
subjective(主観的理解) objective(客観的理解) assessment(評価) plan(今後の計画)
これだけのことを患者さんの訴えから読みとって今後の計画まで導き出す。
さすがあ!
九子が書いた答えはこんな感じ。
ワーファリンは朝飲んでも夕食まで影響が出るので納豆はずっと食べないように注意してください。
(これは自分が誤解していて、一時期まで夕食の時に少しならOKとか言ってた時期があったので(^^;;)
それと、「処方箋はなるべくいつものかかりつけ薬局へ持って行きましょう!」
あれ?普通、薬剤師さんってそこに食いつきますか~?
そうだよねえ、普通じゃない薬剤師の九子さん、かけ込みで笠原十兵衛薬局へ処方箋持ってこられても困っちゃうよねえ。(^^;;
参加者は大手の調剤薬局勤務の人が多かった。実は処方箋の多い薬局には保険指導というのがある。一ヶ月に何千枚もの処方箋を扱う薬局ならば数年に一度は回ってきて、処方箋と薬歴簿を持って集団指導やら、更には個人指導まであるらしい。
笠原十兵衛薬局は驚くほど返戻レセプト、つまりどこかが間違ってて戻ってきちゃうレセプト(保険調剤請求書)が多いのだが、決して保険指導にかかることはない。
たかだか○枚の処方箋の請求書を指導するほど薬剤師会もお役所も暇じゃないからだ。(^^;;
だからこういう講習会ではレセプトや薬歴の書き方の話が特に重要になるのだ。
もう、おわかりだろうか。
九子が期待していた調剤技術の講義というのはまったくなかった。
倍散の作り方も、軟膏の混ぜ合わせ方も、なあんも教えられなかった。
考えてみればそんなことは新卒の段階でどこかの調剤薬局へでも勤めて、先輩薬剤師さんから習えば事足りることなのだ。
九子だって、一応修行のために調剤薬局に勤めたことはあった。だけど当時の九子は坐禅に出会う前であまりにも未熟な人間だったため、人間関係を構築するだけで手いっぱい。
せっかく素晴らしい職場に勤めさせてもらったにもかかわらず、ほとんど何も学べずに退職してしまった。
その後何十年、九子はいいご身分で、最初のうちは子育てが忙しいと言い訳し(実際は出来すぎ母に何でもやってもらっていたのだが)、当時は景気の良かったビンボー神M氏やら父の収入に頼りきり、薬剤師としての仕事などな~んもしなかったし、それが今は、おかげ様で少しは雲切目薬が売れるようになって、お昼寝しながら雲切目薬を売っているお気楽生活!
その上ちょっと頑張ろうとするとうつ病が来るから無理も出来ないって訳で、お膳立ても完璧だ。(^^;;
数年前もこんな事があった。
長野日赤病院の皮膚科のH先生が退職されて、どこかでクリニックを開業されるらしいという噂が流れた。
実はH先生のご実家は笠原十兵衛薬局の目と鼻の先。しかも当時、洋品店をされていた先生のご両親は時を同じくして店を畳まれたのだ。
きっとH先生、ご実家で開業されるんじゃない?
九子は生きた心地のしない何ヶ月かを過ごした。(^^;;
結局H先生は、ぜんぜん別の所へ開業された。ほっ~~~。( ^-^)
ところがこの間、となりの八百屋のおじさんがH先生の処方箋を笠原十兵衛薬局に持ち込んだ。
「おい、九子ちゃん!これ急いでやってくれよ。」
愛すべき八百屋のおじさんは薬大生2人を抱えたわが家の経済状態をいつも心配してくれて、用も無いのに(^^;;あちこちから処方箋をかき集めて持って来てくれる。
いつもならなんとか備蓄センターから薬を取り寄せて大汗かいてやるのだが、さすがに今回のは困った。
d-カンフルと l-メントールを軟膏と混ぜ合わせるというものだった。
近所の他の皮膚科さんの処方箋を扱ってる薬局に問い合わせたが、そこでも材料が無いという。
いわんや、笠原十兵衛薬局おや。(古典の反語でありましたねえ。ましてや笠原十兵衛薬局にあろうか。いや、あるはずが無い。(^^;;)
ここで秘密の話を致しましょう。
実は元祖雲切目薬の中にもd-カンフルがたくさん入っておりました!
カンフルというのはいわゆる樟脳(しょうのう)の結晶、昔はたんすの中に防虫剤としてよく入っていた。
ところがこれを細かくするのがとても大変で、目薬作りの難関だったそうだ。
ところがある日、16代十兵衛の兄の忠造さんから朗報がもたらされた。
忠造さんは東京帝大へ入り、帝大の友達から「カンフルはエタノールによく融けるよ。」と教わった。
以来カンフルはエタノールに融かしてどろどろにするというのがわが家の定番になったそうだ。
その後忠造さんは政治家になったので、弟の九子の祖父が16代十兵衛を継いだと言う訳だ。
だから、とにかくその処方箋を見た途端、たぶんカンフルとメントールは合わせてエタノールで融かすのだろうと言う事を九子は即座に理解したのだ。エッヘン!(^^;;
そんな事わかっても調剤が出来ない以上どうしようもない。
結局八百屋のおじさんにはH先生のすぐそばの薬局まで戻ってもらった。
神出鬼没のおじさんは軽やかに去って行った。
あ~あ、もしH先生が近所に開業されてたらこんな処方箋を毎日受け取ってたかと思うとぞ~っとするよ。先生もこうなる事を予想して遠くに開業されたんだろうか?(^^;;
研修会でもう一つ九子の興味をそそったのが薬剤師の調剤拒否権。
以前だったら薬剤師の調剤拒否は認められていなかったはずなのだが、ここへ来て薬剤師が処方箋に疑問を感じて処方医に処方箋内容の照会を行い、その回答に納得がいかなければ調剤を拒否してもいいということになったらしい。
いやあ、これは薬剤師の面目躍如だねえ。
もちろんそれは、豊富な知識を持ってて医師にも確たる態度で説明が出来る薬剤師さんの特権だけど・・・。
えっ?九子も経験あるよって?
店に出た途端、いつもどおりの雲切目薬のお客様だと安心するんだけど、処方箋渡された途端に胸がばくばくして呼吸が早くなる。
それって調剤拒否じゃなくて、調剤に対する拒否反応!(^^;;(^^;;
だんだん克服しましょうねえ。( ^-^)
九子さま
先日の研修会、長時間にわたってお疲れさまでした。
しかし技術面での研修がなく、ちょっと期待外れだったでしょうか…。確かに、座学ばかりが先行してしまって、調剤手技の部分はそうした研修が行われていないですよね。
例えば、ブランクがあってその後、現場に復帰したいといった人は、技術面でのサポートがあれば心強いですしね。また、現状は各薬局でのOJTがメインで、なかなか標準的な方法というのがないのかもしれません。
その辺り、確かに薬剤師会でサポートするべきこと、今後の課題として検討事項にあげておきたいと思います。
九子さまのところの雲切目薬、気になる存在です!根強いファンがいらっしゃるのでしょうね。長野方面に行くことがありましたら、お伺いしたいと思います。
by くま☆ (2011-09-18 08:24)
あらら、くま先生!
わざわざおいで頂いてしまい恐縮です。連休明けにご報告に伺うつもりでしたのに、先に見つけて頂いて本当にありがとうございます。
それから、先日の研修会、すごく工夫されていらっしゃったのが良くわかりました。最後に受講者にABCの評価をつけさせるなんて前向きだなあと思って感心してしまいました。
劇も楽しかったし・・。( ^-^)
調剤手技の研修会、またやって頂けるなら是非参加したいと思います。
くま先生のところは下伊那でしたっけ?長野まではかなり遠いと思いますが、善光寺などおいでになる機会がおありでしたら是非薬局へお越し下さい。( ^-^)
私、実は普通の薬剤師さんのブログにはなるべく立ち入らないようにしています。だって自分が惨めになるし(^^;;、あちらにも迷惑かなあとか考えちゃって・・・。
それにくま先生のとこへ書き込んだら日本中の薬剤師さんに見られちゃうでしょ?(^^;;
そんな訳で申し訳ありませんが ROMだけで、何かありましたらメールさせて頂きますね。
これを機会にくま先生、よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
by 九子 (2011-09-18 23:48)
ご訪問、ありがとうございました^^
ユーフォ相方
by ユーフォ (2011-09-25 10:00)
ユーフォ相方さん、こんにちわ。
ピッピちゃん、可愛いですねえ。
相方さんのブログ、おいしそうですねえ。(^^;;
Thriller聞かせてもらいました。ちょっと不思議な感じになるんですね。
あの中のお一人?
by 九子 (2011-09-25 15:27)
ご訪問ナイス、たくさんつけていただき
ありがとうございましたヽ(*´□`*)ッ
by ダイナ (2011-09-25 17:23)
あっ、ダイナさん!( ^-^)
いえいえ、こちらこそ素敵なブログを読ませて頂いて嬉しいです。
マイケルやその他の方々の胸に響く音楽を聞かせていただけるのも嬉しいです。
それにしてもマイケル、あんなに若くてもったいないよねえ。
マイケルにも主治医にも油断があったのかもねえ。
by 九子 (2011-09-26 22:37)