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困ってるひと・・・大野更紗 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

困ってる? お金に?仕事に?恋愛に?はたまたストーカーに?
とんでもない!彼女が困ってるのは、死ぬか生きるかの問題!彼女は難病女子である。

困ってるひと

困ってるひと

  • 作者: 大野 更紗
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2011/06/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


大野更紗女子(あえて女史ではなく女子と呼ぶ。)は、彼女がムーミン谷と呼ぶ福島県の原発から遠くない電車もバスも通らない山の中で生まれ、たぶん一人っ子で(違ってたらごめんなさい。)、共稼ぎの両親の下、じっち、ばっぱやひいおばあちゃん、近所の「子育ておばさん」に預けられ、物心ついてからは野山に放り出され、野草や筍、栗などを食し、裏の秘密基地(おお!なんと麗しい響き!)を駆けずり回り、川で泳いだ少女時代!

子育て時代の九子だったら、なんて理想的な育ち方!と目をうるうるさせて羨ましがるようなたくましい戦前の日本人の育ち方をした少女だ。いや、はっきり言ってしまえば、九子の出来すぎ母が育った状況と酷似していた。
出来すぎ母の場合は、男の子と一緒になって信州稲荷山の野山を走りまわっていたのであるが・・・。

九子はもうこれを聞いただけで、その後の彼女の決して枯れる事の無いエネルギーを予感し得た。
出来すぎ母が少なくとも亡くなる一年前、自由に自分の足で歩けていた頃までは、尽きせぬエネルギーをみなぎらせていたのを知っていたからだ。

大野女子は成績優秀で、村からただ一人、県下指折りの進学高に進む。そこで規律に反発し、制服を改良し、白ソックスを黒タイツに履き替え、金髪、フルメイクに至るまで、若さゆえのちっぽけな反抗を企てる。

一浪後、ワセダもケイオウも蹴っとばして上智大学外国語学部フランス語学科に入学。クラスのほとんどが帰国子女か高校で第二外国語としてフランス語を取っていたかのどちらかで、フランス語の基礎をある程度身に付けていた生徒ばかりだったから、まるっきり最初からの彼女はかなり苦労したらしい。留年組も多かったそうだ。

いつの頃からか彼女は、「とりすまして似合わないわらじの足に無理やりハイヒールをはかせるような」フランス語の授業に違和感を覚え始める。

同時に、おっかけをしていた教授の著書からアジア難民の人権に目が向くようになり、ビルマ難民の人々と知り合い、普通に暮らしていながら投獄され、拷問を受け、難民として日本で暮らさざるを得ない悲惨な状況の彼らを招いて講演会を開く事に奔走する。

いつのまにか彼女の生活は集会、NGO活動、難民認定裁判の傍聴、国会議員のへのロビイングでなどなどで埋め尽くされ、実際にタイ、ビルマに出向く日々も増えて、多忙を極める。
彼女の生活は「限界」に達しつつあった。

大学院に進んだ夏、ついに病魔が牙を剥く。

最初は両腕に出来た内出血のようなしこりと赤い発疹。そのうち痛みがどんどん増して、布団から起き上がれなくなる。全身の力が入らず、身体中が真っ赤なゴム風船みたいにパンパンに腫れる。触るだけで痛い。
関節ががっちがちに固まってぜんぜん曲がらない。これだけでも大変なのに、38度の発熱がどんな市販薬を飲んでも下がらない。

こんな状況下だったら、九子は毎日寝てる事しか出来ない。自分の不運を呪い、仏様に恨みつらみのありったけを言って(^^;;、わんわん泣きわめく。そんな事しか思いつかない。

ところが大野女子は違った。
たらい回しにされるばかりで診断一つ杳(よう)としてつかない日本の病院に愛想を尽かし、愛すべきタイにもう一度渡る。(タイービルマ国境に難民キャンプがあり、タイ経由で行くのが一番楽であるらしい。)熱は38度近く、手が腫れて、スーツケースを自分で持てなかったにもかかわらず・・。

結局体調の悪化は彼女の夢を余儀なく中断させ、彼女は日本に帰らざるをえなかった。
だがその時の彼女と言えば、抗癌剤を飲んでる訳でもないのにごっそり抜ける髪の毛、口の中は潰瘍だらけで辛いものは一切受け付けず、指もどこもかしこも潰瘍で、何も持てない。

手足の関節を少しでも曲げようとすると激痛に襲われるが、他人にはいっさい痛みを訴えずに我慢する。そして動くと出る39度の熱をタイの病院でもらった強い洋薬で紛らわす。まさに満身創痍だった。

飛行機に載るのもままならずに車いすのお世話になり、空港からはお年寄り用の杖にすがって病院まで直行!ところが前にも診てくれた医者は、「安静にしていれば、よくなります。」の一言!
ああ、難病ってこういうものか!

結局、麻酔も無しに筋肉を2時間も切り刻まれるなど、非人間的な拷問のような検査を経て、一年もかかってわかった彼女の病名はふたつ。<皮膚筋炎>と<筋膜炎脂肪織炎症候群>=FASCIITIS-PANNICULITIS SYNDROMEの併発なのだそう。両方とも自己免疫疾患と呼ばれる、自分の身体を敵とみなして自分の免疫が攻撃するというタイプの難病だ。

「お尻事件」などという信じられない悲惨な出来事もあった。

なんだかんだで話題になるステロイド。これは強力に免疫を抑制する薬だから、毎日ものすごい量(ふつうはプレドニン5MGくらいのところをを、60MGくらい飲む。)を一生飲み続ける。当然副作用もきついが、背に腹はかえられない。

大野女子はステロイドを飲まねばならなくなった時、決意した事があるのだそうだ。自分の中の恋愛感情を司る部分を永遠に封印すると・・・。誰かを好きになっても自分が傷つくだけだから・・・。

でも彼女は一番信じていた医師の裏切り・・と彼女は言うが、要するに不用意な発言で傷つけられるという彼女にとっては耐え難い苦難の時、もう生きる気力をすべて無くして死を選ぼうとしたまさにその時、「あの人」の存在によって死の縁から救われる。

「あの人」とは、同じ難病病棟にいる背の高いおにいさんだ。
彼のおかげで生きる希望を無くしていた女子は、一夜にして180度の大変化で俄然生きたくなる。

こういう展開、いいなあ。( ^-^)

でも二人の前途は多難だ。いつ何時、どちらかが突然死んでしまう危険といつも隣り合わせだ。

彼女は9ヶ月の病院生活の後、病院を出て一人住まいを決意する。そこに至るにはさまざまな行政の壁が横たわっていた。いわゆる書類に継ぐ書類の山と、移転先毎に異なる書類を書かねばならない行政の非効率。

でもすべての壁をどうやらこうやらうち破り、難関の引っ越しも友人家族や「あの人」の協力でなんとか乗り越え、彼女は病院に来た時と同じくたった一人で、病院のドアを外の世界に向かって歩き出す。

2年前、健康だった彼女の靴音はコツコツ、ガンガン、ガツガツというものだったが、当時は他人の痛みなどまったく理解できなかったと彼女は言う。

だが今は、杖のコツッという音のあとに続くズルッという自分の身体をひきずる音。歩く時はその繰り返し。
病状から言って、彼女の靴音が元どおりに戻る可能性は極めて低そうだ。
だけど彼女は言う。

「今は少しだけわかるよ。ひとが生きる事の、軽さも、重さも、弱さも、おかしさも。」

ここからが、すべてのはじまり。

さあ、生きよう。語ろう。


ああ、九子の拙い要約じゃあ残念ながら伝わらなかったと思うけど、大野更紗さんの勇気、少しはわかって頂けたでしょうか?わかって下さった奇特な方も、わからなかったとおっしゃるアタリマエな方も、どうか「困ってるひと」をぜひ一度実際にじっくりとお読み下さい。


アマゾンの書評を読むと、文体が軽すぎて合わないとか批判めいた意見も確かにある。

批判してる人が全てそうであるという訳では決してないが、精神的に弱く生まれついた九子のような人間からすれば、どんなに身体がデコボコに傷ついていようが、太陽みたいに明るく自分の病気を笑い飛ばしてしまえる大野女子の精神の強さは、憧れを通り越して怖さすら覚える。

身体の至るところが痛んで熱が下がらないんだよ。その上肩に2トントラックのっけたような倦怠感だそうだ。

九子なんぞ、りんごの皮ひとつ剥くのにナイフで指の皮まで切り(何年主婦やってんの?(^^;;)、痛い痛いと大騒ぎをして二日くらいは動かし惜しみをする。
37度の熱が出れば喜んで布団にもぐり込み、ウツでだるいと言っては一日中寝ている。

この人間としての落差は何よ!(^^;;

自分には決して到達できないであろう精神の高みに立ってしまった人への羨望とか嫉妬とかのネガティヴな感情があることはよくわかる。九子もかつて、自分の嫌らしさにヘドが出た。過去形で人事みたいに書いたけど、坐禅を知って少しはましになったとは言え、自分だけがおいてけぼりをくらったような苦い敗北感があるんだよね。

ましてや彼女は若くて美形でインテリだ。さぞや大学時代はもてただろうと思う。勝ち組だった人へのやっかみも若干混入する。

ただ、最後まで読めば彼女が病院を出て一人住まいを始めた6月のあの日のような太陽の暖かみをほのぼのと感じる事が出来ると思うんだ。


身体のどこにも、痛みも腫れもだるさも辛さも無くて、フツーに生きていられるってことがなんてありがたい事なのかを・・。
そして、自分も彼女に負けないように頑張らなくっちゃって。

あっ、ウツ病持ってる人は頑張らなくていいですよ。( ^-^)


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