名画の謎 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]
九子なんかが言うまでもなく、学問というジャンルで1位のアクセス数を誇る彼女のことだから皆様もうとっくにご存知のことだろう。
nikiさんが教えて下さる目の覚めるほど美しい絵に彩られたヨーロッパの神話や、王様、お姫様のお話をいつも九子は楽しみにしていて、「なるほどなあ。」とその度に感心するのだけれど、いかんせん記憶力記銘力に難があるので、毎回のように出て来る長ったらしい名前を覚えきれずに、いまだかつて誰と誰がどんな間柄であったのか曖昧模糊(あいまいもこ)としていて、頭の中に雲切目薬を点したいくらいである。( ^-^)
nikiさんご自身が英語、仏語、韓国語など、(もちろん日本語も)語学の達人だから、クリアな脳細胞の中にさまざまな知識を溜め込んでいらっしゃって、彼女にしたらそれを小出しに出して下さるだけの事なのだけれど、九子の頭の中では許容量一杯でパニックを起こしてしまうことも多い。
今回ギリシャ神話の絵について解説されたこの本を買ったのは、nikiさんの膨大な知識の中から、せめて神話だけを取り出して読んでみたら、頼みの綱の人間関係、少しはわかるんじゃないかと思ったからだ。
ちなみに著者の中野京子氏、テレビや本に引っ張りだこの早稲田大大学院講師で、ドイツ文学者である。
まず、本のカバーに使われているジャン・レオン・ジェローム作「ピグマリオンとガラテア」がはっとするほど美しい。
どう見ても麗しい女性にしか見えないその人の足には石膏の台座が付いていて、膝から下はまだ白い彫刻の色をしている。
そう。この女性こそ、キプロス島のピグマリオン王が仕上げた理想の女性の彫刻で、ガラテアと名づけられている。
贈り物をしたり、服を着せたり、挙句にベッドで添い寝までするほど彼女に執着していたピグマリオンの願いが神に聞き届けられて、ガラテアは生身の人間となり、二人は結婚するのだが、まさにこの一瞬、彫刻であったはずの彼女の裸の後姿が、上半身を思いっきり捻って着衣のピグマリオンに口づけする。
垣間見えるピグマリオンの天にも昇らんばかりの表情!
光に照らされた彼女の裸身の艶かさ。男性でなくともドキっとする。
ピグマリオンとは言うまでもなく、「マイフェアレディ」や「光源氏」よろしく、理想の女性を自分で教育して作ってしまう男たちの総称に使われる。
また教育心理学には「ピグマリオン効果」という言葉もあって、「教師の期待度が高ければ、生徒はそれに応える。」という事らしいが、それはちょっとねえ。(^^;;
男という生きものは教えたがり屋で、相手を粘土みたいに捏ねて自分好みに作り変えたがる。ピグマリオン平安時代版が光源氏であることに、誰も異論はないと思うが、源氏の君は十歳の紫の上を長年かけて教育し、立ち居振る舞いから話し方、着物の選び方から教養、嫉妬の仕方(嫉妬しない仕方)まで(自分にとっての)理想の女性になったところで妻にした。
女性はふつうこんな考え方はしない。(略)
では文化の問題なのか。悪しき男性優位社会が、悪しき女性優位社会へ変われば、女もまたピグマリオンになるのだろうか。それとも女性はすでに子育てという彫刻によって、自分好みの息子という究極の恋人を太古の時代から作ってきたので、今さら他人で試すことには興味を示さないのか。
要するに男が人間を作りたがるのは、出産の代用か。
いや、単に男は女に比べて勘の働きよろしからず、女が何を考えているのかさっぱりわからないため、少しも謎のない恋人がいたらどんなにいいか、と妄想しているだけかもしれない。
ああ、わかった!この本が女性たちに支持されている理由が!
なかなか言えなかった胸のすくようなセリフを代弁してくれてるからだね。( ^-^)
言っときますけど、これ書いたのは九子じゃなくて、中野京子氏ですから。(^^;;
ところで表紙のピグマリオンの絵を表側から描いた、たぶん同じ作者の絵を見つけた。
やっぱり背面からの方が美しい!(^^;;
有名なボッチチェリの「春」。
この絵の真ん中に描かれているヴィーナスは、本来のヴィーナスとは違っているのだそうだ。
何が違うのか?
彼女は服を来ている。その上受胎しているような、聖母マリアと見紛うような描かれ方をされている。
本来のヴィーナスは「愛欲」の女神であり、常に全裸で、その一生衰えることのない美しさで男たちを翻弄した。
男性にとっては、ヴィーナスが最大人気なのは間違いない。何しろ完璧な肉体美の上、いつもオールヌードときては目の保養だ。 ただし遠くから愛でるにはいいが、関わると厄介なのがこの女神。「愛」ではなく「愛欲」を司るので、短い恍惚は与えてくれても先には嫉妬やら憎悪やら煩悶やら焦燥やら、ありとあらゆる負の感情がおまけとして付いてくる。必ずしも幸せはセットになっていない。
彼女はその誕生からしてドラマティックだ。
発端は、大地の女神ガイアが、末息子クロノス(=サトゥルヌス)に鎌を与えて夫ウラノスを殺させたこと。切り刻まれたウラノスの身体は七つの海へ投げ入れられたが、そのひとつ、男性器を呑み込んだ海が白い泡を吹き(ギリシャ語アプロの意味は「泡」)、そこからアプロディチ、つまりヴィーナスが生まれたのだった(生まれた瞬間からもうすでに成人女性で、赤ちゃん時代や少女期といった生育歴が全くない!)
ヴィーナスが海の泡から生まれたというのは知っていたけれど、まさかそれが息子に殺された父親の性器が沈んだ海の泡だったなんて!
本にはもうひとつのボッチチェリの名作「ヴィーナスの誕生」も載っているのだけれど、こちらはお待ち兼ねの全裸で、帆立貝の小船に乗っているおなじみのものだ。
今回九子が最大級にびっくりしたのが「ウルカヌスに見つかったヴィーナスとマルス」(ヤーコポ・ティントレット作)だった。
ヴィーナスは戦争の神マルスとベッドでお遊びの最中。(^^;;
そこへ夫のウルカヌスが帰ってきて、マルスは慌てて床に隠れる。
醜男(ぶおとこ)の夫は妻の浮気を疑い、あろうことか、妻の下半身を覆う薄物の点検までする。
下半身をなまめかしく開いたままのヴィーナス。
この章のタイトルは「ヴィーナスのあっけらかん」と言うのだけれど、あっけらかんを通り越して「あんた!何やってんのよ~!ばっかじゃないの!」という声まで聞こえてきそうである。(^^;;
愛欲の女神に反省のあろうはずのないことは、しれっとした態度と大胆なポーズに示されており、この後おそらく彼女はぬけぬけと夫をベッドに誘うのであろう。妻の不貞に怒り心頭だったはずのウルカヌスは、手もなく彼女の色香に迷い、間男のことなど頭から吹き飛んで、誘われるままになるに違いない。(略)
他人から「あなたの奥さんは浮気ばかりする悪女ですよ」と告げ口されようとも、本人が妻に満足している限り、何が問題だというのだろう。ノープロブレムでは?
中野京子さんの目は鋭い。
かなりの観察眼だと思う。
たとえば、「ヴィーナスとアドニス」(ピーテル・パウル・ルーベンス作)1638年頃の美しい絵。
ヴィーナスは胸周りもふくよかで、顔の表情も完璧に美しいが、中野さんによると重大な過ちがあるのだそうだ。
この絵を一目見てそれがわかる人はただものではない。
それはなんと!外反母趾。
当時のモデルが外反母趾であったところまで忠実に似せて描いてしまったからという。
(裸足のヴィーナスが外反母趾になるはずがない。)
まだまだたくさんある美しい絵の数々を見ていると、神話の時代はもちろん、神話が描かれた時代もなお、女性は大変生き生きとしていたなあと思う。
アダムとイヴの物語では、すべての悪の根源は女性にあるような言われ方だけれど、題材が神話でさえあればどんな脚色も許されたという当時の人々の遊び心あふれる絵画のあちこちに、女性たちはのびのびと、自分の意思を持って、肯定的に描かれていて、きっと彼女たちは実際幸せに暮らしていたのではないかと思えてくる。
神話の世界は何でもありだ。ヴィーナスばかりが好色という訳ではなく、最高神のゼウスからして無類の女好き。隙あらば神にも人間にさえ手を出す節操のなさだ。その上、近親相姦など当たり前。
そして神の逆鱗にふれると瞬く間に罰せられる不条理。
ヨーロッパの社会がこういう「ゆるい」神話を持っていたというのはとても幸せなことだと思う。
どんな独裁者が出てひどい圧政をしたとしても、神話で不条理を学んで居れば対処の仕方もあるってもんだよね。
日本の神話って、九子が知らないだけかもしれないけど、あんまりわくわくしない気がする。
なんていうのかなあ。地味で想像力が不足している感じ。
そう。なんとなく堅苦しい気がしてしまうのだけれど、真面目な日本民族ならではか?
「遊びをせんとや生まれけん。」というのが、視聴率で苦戦しているらしいNHK大河ドラマ「平清盛」のテーマらしいけれど、遊び心って本当に大事だと思う。心が自由でなければ遊べない。
遊びは自由度のバロメーターだ。
子供は遊びがうまい。何物にも囚われず、何物も怖れず、自由だからだ。
ところが九子みたいな子供は遊べなかった。誰かに指示されないと、何をしていいか全くわからなかった。
大塚国際美術館という遊び心満載の美術館が四国は徳島に出来たのだそうだ。
2000年以上色褪せない1000点の複製名画が所狭しと飾られているらしい。
この本にある美しい名画の数々も、この美術館が所蔵している。
九子がネットで拾ってきた絵に比べると、少し暗い感じで重々しさがある。
そうか!この手があったのか!
何も本物にこだわる必要はなかったんだね。
バブルの頃、お金に糸目をつけずに世界中の名画を買い漁っていた日本人。
考えてみると見っとも無かったよね。
お金持ちじゃなくなったのなら、清貧に、豊かに生きる術がある。
新しい美術館はそれを教えてくれているんじゃないのかな?( ^-^)
私の脳もかなりぽんこつ気味ですよぅ( ´艸`)
絵に描かれたメッセージを読みとるのって、面白ですね。
ちなみに光源氏のようなヒトがいたら、私はかかわらないようにしたいと
思いますww
by niki (2012-07-24 15:01)
nikiさん!さすが、ご報告する前に探してくださって有難う。( ^-^)
リンク忘れてたので、これからすぐにしますね。
光源氏に関わりたくない?
九子はすぐに関わりたいです。(^^;;
nikiさんみたいな大人の女性なら、光源氏を手なづけちゃったりしてね。(^^;;
これからも素敵なお話を聞かせてくださいね。( ^-^)
by 九子 (2012-07-24 15:13)
ギリシャ神話は本当に面白いと思います。
様々に断片的な記憶が、どんどん繋がっていくような喜びもありますし。
日本の神話も、例えば日本書紀や古事記は実に面白いと思います。
神様の数も多いし、エロティックな表現もたくさんあったりしますから。
by 伊閣蝶 (2012-07-26 23:29)
伊閣蝶さん、こんばんわ。
ああ、やっぱりそうだったんですね。日本の神話もぞくぞくするほど面白いのがあるんですね。
この本に出てたのが大国主命やら、因幡の白兎やら、かちかちやまくらいで
なんか御伽噺めいていてロマンが無いと思ってしまいました。
今度古事記や日本書紀、考えてみたら読んだことなどありませんでした。
読んでみますね。
物知りの伊閣蝶さんにいろいろ教えて頂いて、感謝です!
by 九子 (2012-07-26 23:51)
西洋史って、ギリシア神話と聖書だと思います。ティルモピレイの戦いの善戦、サラミスの海戦でギリシアが勝利をしなければ世界史はもしかすると変わっていたかもしれませんね。アテネのテミストクレスってすごいです。 ^^
この本も面白そうです。あはは、そうですね、女性は理想の男性を息子でって面白い。光源氏・・・、平安時代だからですよね。
草食系の現代では、絶対にありえません・・・ ^^;
目薬、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
by moz (2012-07-29 15:40)
mozさん、コメント有難うございます。( ^-^)
さすが、mozさん、物知りでいらっしゃるのですね。
知らない名前ばかりでしたが、wikipediaでちょっと読んでみる限り面白そうですね。テミストクレスに出てくる陶片追放の際に書き込まれた名前!凄いですね!さすが英雄だけあって、尋常ならざる生涯を送られた人なのですね。
今の時代、女性を自分好みに作り変えるって、ハンパなく難しいですよね。(^^;;
、雲切目薬、お気に召して頂き、嬉しいです。( ^-^)
by 九子 (2012-07-29 19:59)
ご無沙汰しておりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
ギュスターブ・モローに魅せられ、続いてラファエル前派の画風が好きになり、その延長でテーマとなる神話や伝説の魅力を知りました。
ヨーロッパ美術は神話をテーマにする作品が多いので、ちょっとでも知っていると面白いですね。
神話や伝説に出てくる神様やヒーローって、すごく人間くさくって親近感が湧きますね。…って、人間がストーリーをつくっているんですから、当然といえばそれまでですけど……。
私が好きなのは、神話や聖書に出てくる「ファム・ファタル」と呼ばれる女性です。
多分、絶対に自分にはなれない存在なんで、憧れるんでしょう。
どう考えても、、「運命の女」ではなくて「混迷の女」ですから……(笑)。
by お夕 (2012-07-31 01:41)
わあ、お夕さん、すみません、ご無沙汰ばかりで・・・。
いよいよ夏休みですね。でも大変そう!
お夕さんはヨーロッパ美術にも興味がおありだったんですね。
紋次郎さんとはちょっと違うかなという気もしましたが・・。(^^;;
「ファム・ファタル」かっこいい!
私も「ファム・ヘタル」位ならなれるかもしれません。
何しろ夏ばてですぐにへたるので・・。(^^;;
神話や絵のこと、またお話に来てくださいね。( ^-^)
これからそちらに伺います。
by 九子 (2012-07-31 13:12)
素人ギャルがアナタの前に降臨!!(人・ω・)☆ http://sns.44m4.net/
by 女性募集 (2012-08-09 08:15)