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'教授’in 松本 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

本当は「松本の教授」というタイトルにしようと思ったが、あまりにもわかり難いので上記に落ち着いた。'教授'がコンサートの最中に「自分がつける曲名(タイトル)はその場の雰囲気でいい加減につける。」と言っていたからだ。'A flower is not a flower'という、曲の美しさとは程遠い訳わかんないタイトルを例に出して・・・。

☆ところでこの曲、もしかして「相棒」の挿入歌かなんかで、金管楽器バージョンで使われてませんでした?? 

そう。つまり九子は、松本へ坂本龍一を聴きに行ったという訳だ。
ウツの治りが思わしくない時期に、ものの弾みで買ってしまったチケットなので、行けなくなって誰かに迷惑をかけるといけないと思い、一人で行った。
平原綾香岩崎宏美に続く三度目の「まつもと市民芸術館」である。

 

申し訳ないのだけれど坂本龍一という人の根っからのファンという訳ではないし、どちらかと言うと直前に読んだ「文芸春秋」の記事に軽い憤りを覚えて、「こういう事言う人ってどういう人なんだろう?」という怖いもの見たさと、「世界の坂本」が長野県に来ることはなかなか無いんじゃないのかな?という思いが合わさって、ウツの治りきらない九子の気持ちを駆り立てたのだと思う。

文芸春秋の記事というのは去年の2月号。「坂本龍一60歳 還暦の悦楽」と題して寄せられた口述筆記だ。

 

とにかく人生に残された時間の一滴一滴を無駄にしたくないという思いがどんどん強くなってきました。
うっかりマズイものを食べると、「あと何回食事ができるかわからないのに、こんなもので満腹になり、カロリーを無駄に取ってしまった」と、すごく損したような気分になります。

 女性についても、昔は欲求だけ満たされれば、どんな女性でもよかった。
でも「あと何回恋するだろう?」と思うと、極端に厳しくなる。「申し訳ないけど、私にはもうあなたと付き合っている時間はない」となってくる。もちろん相手から見ても、同じことを言いたくなるのかもしれませんが。

 

 

冷静に考えてみると、彼は非常に正直にインタビューに答えただけだ。もちろんインタビューだからして、すべての人の気持ちに思いを巡らして発言するというのはその場では難しかろう。
それに彼は、九子が抵抗を感じてしまった最後の、女性と交際する場合という部分にも、ちゃんと相手の女性に対する気遣いは見せている。

にも関わらずなんだかなあと思うのは、ひとつは彼がまずい食べ物の話の直後に、つきあう女性の話をしている点。彼の中で女性は食べ物と同等で、カロリーだけ高いジャンクフードと、ヘルシーフード・・・でしか無いのかなと思うと、ちょっとカチンと来た次第。

カチンと来るのはもちろん九子自身が、付き合う相手から「君と会っていても得ることが無い。」「君と会うのは時間の無駄だ。」と言われる可能性が高いということを自分で良くわかっていて、それを無意識に恐れているからである。(^^;;

何しろブログを読んでくださってもお判りの通り、九子の話は前置きが長すぎて、まどろっこしい。その上、脱線が多くて何が言いたいのかよく解らない。(^^;;

最大の問題が、話題が少なくて話下手というところだ。だから、M氏みたいにたわいの無いことを(どうでもいい・・とも言う(^^;;)恥ずかしげも無くのべつまくなくしゃべってくれている相手が楽なのだ。


でも「とにかく人生に残された時間の一滴一滴を無駄にしたくない。」という気持ちは、年とともにわかるようになってきた。彼のような天才であるならば、尚更その思いは強かろう。

そもそも'教授'のコンサートを聴きたいと思ったのだって、「この次いつ彼が長野県に来てくれるか、はたしてその時九子は元気で聴きに行くことが出来るのかわからない。」という気持ちが強く働いたことは否めない。

買い物ひとつにしたって、20代に着ていたセーターなんかを今でも平気で着ている九子の事ゆえ、これから新しいものをいくつ買うだろうかと考え始めると、自然と変なものは買えないなあと思ってしまう。

なあんだ! 言ってること、’教授’と一緒じゃん(^^;;


とにかく、そんなこんなで始まった’教授’のコンサートであった。
九子の席は前から5番目の一番右の端っこという微妙な席だったが、’教授’の顔は良く見えた。

'教授'がピアノで、チェロが一台(この中南米出身の人は以前から’教授’と組んでる人らしい。)とバイオリンが一本(彼女はオーディションを勝ち抜いた新人さんで、名前からして中国系らしかった。)それとシンセサイザーの人が見えたけれど、あくまでも主役は「坂本龍一トリオ」。

始まってほどなく、赤ん坊の泣き声が演奏に混じった。ひどくうるさいというほどではなかったが、きっと誰の耳にも聞こえたことだろう。

「あれ?このコンサートは5歳以下入場不可じゃなかったっけ?どうして子連れで入場できたのだろう?’教授’のご機嫌を損なわなければいいのだけれど・・。」
九子はちょっとしかめっ面をしてそう思った。

曲の合間のコメントで’教授’はこう言った。

「お子さんの声がいい感じで曲にからんで、よかったです。」

その瞬間、坂本龍一という人が、九子の中でランプの中の魔人みたいに大きくなった。
「わあっ、’教授’って、なんていい人なの!!」

人様のことは知らないが、そもそも九子という人間は、言葉で相手の印象を判断することが多い。
その上、最新の言葉が、上書きされてその人の印象になる。

坂本龍一がかつて女性について語ったことは、もうこの際どうでも良い。(^^;;
子供について、そして子供を連れて来てしまった事に対して後ろめたい思いをしているであろう若いお母さんに対して、優しい言葉を投げかけられる坂本龍一って、やっぱり凄い!!

彼がもし3、40代の青年であったなら、この対応は難しかったかもしれない。
実生活の上でもしかしたらおじいちゃんであることが’教授’の器をさらに一回り大きくしたのではないか。

 ☆ あとからwikipedia 読んでわかりました。坂本龍一氏はもともとコンサートに年齢制限を設けていなかったのですね。
子供の泣き声には寛容な人みたいです。
そして九子よりも、赤ちゃんを連れてみえたお母さんのほうが、ずっと’教授’をわかっていらしたという訳なのでした。(^^;;


大好きな「戦場のメリークリスマス」のテーマが流れる。
最近大島渚監督が亡くなって、この映画が取り上げられることが増えた。

 

坂本龍一もたけしも、デビッドボーイも、みんな若かった。
なんていうか、日に焼けて脂ぎっていた。
気持ちも身体つきも、みんな張り詰めて充実していた。

だが目の前の坂本龍一は、ほぼ白髪といっても良いぼさぼさの髪だ。
表情からもぎらぎらしたところが消え去って、穏やかな笑顔である。
’教授’こと坂本龍一は、いい具合に年を重ねているらしい。


若者がぎらぎらしているのは、もちろん若さのエネルギーがそうさせるのだけれども、張り切って主張しないと若いもんの言うことなど誰も聞いてくれないという部分がありはすまいか?

年嵩(としかさ)の人間の言う事は、それがたとえ静かにゆっくりとした口調であっても、人は自然と耳を傾けたがるもののようだ。

そんなことを考えながら、誰も逃れられない「老い」には苦しみばかりじゃあないんだよと無理やり自分を納得させている九子であった。(^^;;


コンサートの最中に強く思ったことがある。
それは、ピアノという楽器の大らかさ、器の大きさだ。

いざとなればいつでも主役を張れる力量を備えているのに、バイオリンがキーキー騒げば進んで彼女に主役の座を明け渡す。(バイオリンは絶対にどの国でも’彼女’だと思ったのに、女性名詞なのはドイツ語だけみたいでした。)そして主張することなく、しかし思いっきり存在感を発揮して、脇を固める。いい役者だねえ。( ^-^)

特に坂本龍一の場合は、自作の曲を自分のピアノで演奏するわけだ。
古典音楽の大御所たちが作った曲を演奏する時よりも、きっと自分が’教授’じゃなくて神になったみたいに、すごく余裕を持って演奏できるのだと思う。


文芸春秋にはこんなことも書かれている。


三年前、日本とヨーロッパでツアーを行ったのですが、その最後のほうのロンドンでのコンサートのときでした。
ピアノを弾いていて、ポンっとそれまでとまるで違う境地に行ったんです。
それまで何百回何千回と弾いてきた曲をそれまでと同じように弾いているのに、一音一音が耳だけでなく内面にまで響く。
その瞬間から自分のピアノが変りました。その後は、その感覚を持ち続けていることができています。五十年弾き続けたから、ピアノの神様がご褒美をくれたのかもしれません。


ああ、これは、坐禅で言うところの悟りの境地、「三昧(ざんまい)」だなと思う。

天才の坂本龍一がピアノを引き続けて、50年でやっと悟りに行き着いたというと、凡才の自分には悟るなんて夢の夢のように思えるけれど、こればっかりは縁のもので、中には坐禅をはじめたその日のうちにそういう境地に行き着く人もあるそうである。

何も坐禅ばかりが悟りではない。
自分が地道に努力を重ねてきた道を極めたい。
今までどうしても踏み込めなかった領域に一歩でも踏み込んでみたい。

そういう時には、まず一心不乱にその道を突き進む。その事自体を「三昧」とも言う。
この一心不乱という心意気が無いと、もしかしたらいつまで経っても「三昧」は訪れないかもしれない。

九子にいつまで経っても「悟り」が訪れないのもきっとこれが原因である。(^^;;

だけど九子はこうも思う。

たとえ「悟り」は訪れずとも、一生懸命坐禅をすれば、何かの道を極めようと一生懸命になりさえすれば、きっと次の生(しょう)ではゼロからのスタートじゃなくて、駅伝の時間差スタートみたいに、前世の頑張りが認められて、きっと安楽な人生を、結果の出る人生を過ごすことが出来るんじゃないかしら?

そう考えれば、きっとみんな希望を持って頑張れる。

ところが九子は更に思う。

もしも今のこの人生が、前世の頑張りの賜物として、大きな貯金の上に成り立っているのだとしたら(うんうん、道理であなたは強運ですよねえ。)、貯金を使い果たしちゃった次の生って、いったいどうなっちゃうのかしら?


そして九子はトリツカレタように、今回のウツの発症以来ずっと怠けに怠けていた坐禅をまたやり出した。(^^;;

 

 


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伊閣蝶

坂本龍一さんのコンサートをお聴きになったのですね。
羨ましいことです。
学生時代から、既成の体制や方法論に対して反旗を翻して来た方で、その意味では、反核や反原発、CCCDの拒絶、などの行動はやはり一貫しているのでしょう。
「戦場のメリークリスマス」は、初めて手がけた映画音楽ですが、抜群のセンスでこれをなしとげ、それ以降の素晴らしい作品群へと繋がっていると思います。
それにしても、文春のインタビュー。
何とも興味深いものですね。
特に、先の方で書かれた部分は、とても凡夫には吐けない言葉です。

by 伊閣蝶 (2013-01-23 23:37) 

九子

伊閣蝶さん、こんばんわ。
坂本龍一さんのコンサートに行ったことを伊閣蝶さんに羨ましく思って頂けるなんて、無理して行って正解でした!( ^-^)

確かに反体制派という感じですね。
ところでCCCDの拒絶というのは、コピーされても一向に構わないよということなのでしょうか。

彼、握手会もされていたのですが、その時厳重にケータイやカメラ禁止と言われていたので・・。

あっ、そうか。自分の作品はいくらでもたくさんの人に聴いてもらえばいいけど、プライバシーは流さないよ・・ってことなのでしょうか。

とにかく、すごくポリシーの在る人ですね。

>特に、先の方で書かれた部分は、とても凡夫には吐けない言葉です。

そうですか。普通の人でも言う人いるかもしれないと思ったのですが・・。
もちろん伊閣蝶さんみたいな紳士は決しておっしゃらないでしょうが・・。

どちらにしても、この言葉が似合う男性は、かなり才能があるか、自信家の(^^;;人でしょうね。

by 九子 (2013-01-24 22:27) 

あゆさこ

YMO時代からみると、容姿もだいぶ落ち着いて、人間としてもレベルアップされたのでしょうね。(*^_^*)

わたしも、坂本龍一のコンサート、行ってみたいです。
山形では、行きたい人のコンサートなんてほとんどありませんからね。(^_^;
行くとしたら、仙台まで行かなければなりません。
今は、まだ、自由に休めない勤め先なので、夢のまた夢なんですよ。(苦笑)
by あゆさこ (2013-01-24 22:40) 

九子

あゆさこさん、こんばんわ。( ^-^)
あゆさこさんも行きたかったの?なら、私はいい時にいいコンサートを聴きに行ったということで、選んだ私を褒めてあげましょう。(^^;;

山形って、とても落ち着いて素敵な町という印象です。長野こそなんにもない田舎なんだから・・。

でも東京に近い分、特に松本にはコンサートやらなにやらいい人たちがたくさん来ます。
おっかけも多いみたいだけど・・。

仙台もいいところみたいですよね。私は電車で通っただけですが・・。

でも、山形、私すごく行ってみたい町の一つです。( ^-^)

そうそうあゆさこさん、九子にメールを頂けませんか?
アドレスは左欄に書いてあります。
お待ちしてますからね。( ^-^)
by 九子 (2013-01-25 22:35) 

アールグレイ

訪問してくださり、ナイスや丁寧なコメントをありがとうございました。
前世療法という本を以前読んだことがあり、
前世とのつながりが、今に至っているのだなとも思ったことです。
そして、今の生活を大切に生きることが、また後につながるのだとも再認識したことです。
座禅は、心が落ちついて良いでしょうね。
by アールグレイ (2013-01-29 09:41) 

九子

アールグレイさん、こんばんわ。
前世療法なんていうのがあるんですか!
きっと次の生の私は、九子のこと恨むでしょうね。(^^;;

日本人って、無宗教と言いながら、結構わかってるんですよね。( ^-^)

はい。坐禅はようございます。( ^-^)
でも、必要ない人には必要ないのかもしれません。
「自分が嫌い!死んでしまいたい!」と言う人にお勧めです。( ^-^)

そうそう、アールグレイさん、もし良かったら九子にメールを下さいませんか?左欄上のほうに連絡先が出ています。

お待ちしていますね。( ^-^)
by 九子 (2013-01-29 22:48) 

youzi

坂本龍一が大好きで、戦場のメリークリスマスも
見に行きました。
坂本龍一、とても素敵でしたが、私が一番印象に残っているのは
ビートたけしの最後のセリフでした。
by youzi (2013-02-03 21:09) 

九子

youziさん、こんばんわ。( ^-^)
坂本龍一、お好きだったんですね。
私も今回コンサートに行って、すごい才能だなあと思いました。
大島渚監督が亡くなられて、たけしさんのMerry Christmas, Mr.Rolence!が何回も流れてきましたね。すっかりあらすじ忘れてましたが、なんとなく思い出しました。たけしさん、最後はいい笑顔でしたね!
by 九子 (2013-02-04 22:32) 

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