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井上陽水 in  長野 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

九子がまだ子供だった頃、団塊の世代と言われた人々は学生運動に加わり、東大の安田講堂なんかを占拠して毎日のように流血騒ぎを繰り返していた。

全学連=ゼンガクレンという言葉が流行り、誰やらの息子はアカ(左翼)で、ゼンガクレンに入っていて、親父が頭を抱えて困っている・・などという台詞をあちこちで耳にした覚えがある。

そう。昭和を象徴する風景にもなっているヘルメットとタオルでマスクをした集団が、シュプレヒコール(スローガン唱和)を繰り返すデモ行進の白黒フィルム。スローガンはいつも「安保反対!」
そして、彼らを取り巻く警察機動隊との小競り合い。

日本人も、昔はあんなに血の気が多かったのか、あれがわずか40数年前のことかと首を傾げたくなる。

それと時を同じくするように、反戦フォークというフォークソングのジャンルが出来、多くの歌手やグループが歌で反戦を声高に叫んでいた。

きっとビートルズや、ジョーン・バエズや、ボブ・ディランや、そういった人々の影響だと思う。


高校生になってフォークグループに加わり、「翼を下さい」などのんびり歌っていた九子も、さすがにこの曲にはびっくりした。
「戦争をしましょう」というフォークソングにお目にかかった時だ。

加川良?とにかくカガワリョウ。
「今すぐ戦争の用意をしましょう。今すぐアメリカを攻めましょう。戦闘開始いたしましょう。そして、そして、勝ちましょう。」

今でも歌詞がすらすら出てくる。それほど高校生の心臓をばくばくさせるような内容だったが、良く考えてみるとすべてが反語の反戦ソングだったのだ。


浅間山荘事件を最後に連合赤軍もゼンガクレンも解体し、反戦フォークなども次第に消えていったように思う。


井上陽水と言う人は、団塊の世代の終わりの方に生まれ、でも日本の国の貧しかった時代をつぶさに見てきた人なのだと思う。


絶頂期の井上陽水を聴いておきたかった。ひたすらそう思った。
そして今と聴き比べたかった。


彼はいい意味で枯れていた。
最初の方は続けざまに、と言ってもいい程の勢いで10曲、ヒット曲を中心に歌いまくった。

知らないでいたら、この人はおしゃべりが不得手なんじゃないかと思うほどだった。


伸びのある声も抑えて出している感じで、もういい年だからエネルギーを温存しているのかしら・・・と最初は思った。


それが、トークが挟まれる頃から変ってきた。

彼のトークは落語家を思わせる。
高音のまとわりつくようなよく通る声が美しく、絶妙な「間」がある。

別段笑うような面白い話ではないのに、なぜか笑ってしまう。笑わされてしまう。


井上陽水の音楽の特徴っていったい何なのだろう?
彼が曲を、歌詞を通じて伝えたいメッセージって何だろう?

彼が書く詞は、とらえどころがない。
どこまでが現実で、どこまでが夢なのか・・。

夢という単語をたぶん彼は好んで使う。

また、彼なりの造語のようなものも多く、たとえば「少年時代」に出て来る「風あざみ」という単語は、現実の花の名前ではないそうだ。


九子も昔ちょっと「生活感の無い男」に憧れた時期があったけれど(^^;;、そういうことを言うならば、井上陽水が書く詞の世界にはあんまり生活感が無い。

恋物語を描いても好いた惚れたの切迫感は少ないし、「ジェラシー」などという最強のタイトルがついた曲でも、「はまゆりが咲いているのをみると どうやら僕らは海に来ているらしい。」と、もちろんそれだけ回りのものに関心が寄せられない心情を巧妙に歌っているのだろうが、どこか彼の中に醒めた感じが漂う。

 


そういう多くの曲の中にあって、異彩を放つ曲たちがある。
コンサートの中で歌われた「灰色の指先」と「ビルの最上階」だ。

「灰色の指先」を九子はこの日生れて始めて聴いて、どこか懐かしさを覚えた。
最初に考えた事が「ああ、こういう曲歌う人が少なくなったなあ。」だった。


去年の年末の紅白歌合戦で、美輪明宏さんが歌った「ヨイトマケの唄」が話題になったと聞いた。

お正月になってからどこかの局で流していたのを九子も聴いて、聴く前からこの歌の事は知っていたけれど、米良美一さんなんかも歌っていて、こういう時代があったことを今の若い人たちはどの程度理解するのだろうと思っていたのだけれど(九子自身にとっても遠い話であったから・・)、美輪さんの歌は鬼気迫るものがあって胸打たれた。

内容はもう皆さんご存知だろうが、ヨイトマケ、つまり土方をしながら苦労して息子を育てたお母さんの話で、息子はいじめられながらも必死に勉強して大学に入り、大卒のエンジニアになる。

こちらの方はいわばサクセスストーリーだ。


それに反して、「灰色の指先」には救いが無い。
彼の仕事はプレス加工。来る日も来る日も機械のように同じ仕事を繰り返し、
指先はいつしかアルミニウムの灰色に染まり、指紋も取れてしまう。
働けど働けど、暮らしは一向に良くならない。

真面目に暮らしているのに努力が報われない。
そう、「不条理」だ。

「不条理」を歌う歌手が、現在(いま)見当たらない。
恋の切なさを歌う歌はあまたあれども、社会の底辺にいる人々の悲しさ切なさに寄り添う歌はほとんど聴かない。

40年前はそんな歌が少なくなかった。
きっと貧しい人々が今よりもずっと多かったからだ。
そういう歌を歌えば、たくさんの人々が自分の生活に重ね合わせて聴いてくれたからだ。

今はみんなあの頃よりも確実に豊かになった。
そんな歌を歌ってみても、身につまされる人なんかあんまりいないし、歌番組そのものが減ってしまってテレビやラジオというどこにでもある媒体でそんな曲を聴くチャンスなど無いのかもしれない。

一年間に何億円も稼ぐであろう井上陽水という言わばサクセスストーリーの頂点に立つ人が、こうやって不条理の歌を歌う。

なんだか皮肉めいた話だけれど、彼には貧しかった日本の生き証人の一人として、ずっと歌い続けてもらいたい。

もう一つの「ビルの最上階」は、これはまた別の意味で不条理の歌だ。

話はまずテレビ局の入っているあるビルの14階から始まる。

その下の13階は法律事務所で、離婚訴訟中の妻と夫がいがみ合う。

12階は子供たちで賑わう高価なペットショップ。
11階はキャビア、フォアグラ トリュフなど高価な輸入食品を扱う輸入会社。

10階はあまり人の入らない映画館で、7階から9階まではラブホテル。
6階はアフリカの知らない国の大使館、5階4階は警備会社。
そして1階から3階まではコンビニが3つ集まっている。

なんと地下3階はギャングたちのギャンブル場。

この何とも怪しげなビルの最上階の15階がどんな階であるのか、誰が住んでいるのか、実は誰も知らない。

こんなビル、あるはず無いと思いながら、いや、もしかしたら都会の片隅にひっそりと佇んでいるかもしれないとも思わせる。

このビルの階の配置のセンスの見事さ!

もしかしたらギャングがすべてを支配している・・と思わせて、案外ビルの15階にいるのはギャングもひれ伏す政界の大物だったりして・・・。


貧しさの対極にあるような都会の生活にも、不条理はまごうことなく存在する。
井上陽水はそれを鋭くえぐる。

 

いつも会場の最前列に陣取って、応援を先導するおっかけ集団が当日は見当たらなかった。
彼らが立てば客席も立ち、彼らが手を振れば後ろもみんな手を振る寸法になっていた。

その彼らが不在・・またはおとなしかったためか、長野のステージでは、誰も立ち上がったり手を振ったりの人が居なかった。

さすがの陽水さんも、あまりにも静かな、高齢者の多い聴衆が心配になったのか、途中で「みなさん、お元気ですか?」と声をかけて下さる始末・・。(^^;;


それが突然変ったのが、アンコールになった時。

やけに長い間合いで、こちらも拍手をする手が痛くなってしびれを切らした頃、やっと陽水さんも赤いシャツから真っ白なシャツに着替えて再登場だ。


最前列がそれと時を同じくして総立ちになった。
ドミノ倒しの動画を逆回ししているように、前の方から後ろへと、人々が一斉に波のように立ち上がる。

追っかけの人たちと何か約束でもしてあったのかしら?
たぶんお年寄りが多いから、立つのはアンコールの後だけでいいんじゃないの?・・とか。(^^;;

とにかくアンコールはきっちりと3曲もやってくれた。
その間中、会場は立ちっぱなしだった。
誰も腰掛けようとはしない。

エネルギーを温存してたのは、陽水さんじゃなくて客席の方だった。
それも大多数が長野県民!
根が真面目だから見事な統一感で、まるでどっかの国の兵士のよう。(^^;;

あれ?そういえば隣の席のМ氏がいない。
あとから聞いたら、最後列の更に後ろで、万感の思いをぶつけて身体を動かそうとしているところだったみたい。結局係りの人に席に戻されたのだそうだ・・。(^^;;


ははん。なるほどね!
誘った時は気乗りし無さそうな感じのМ氏だったけど、やっぱり陽水の歌にいたく感じるところがあった訳ね。

そう。不条理!

М氏の場合の「灰色の指先」は、プレス加工のアルミニウムの色じゃなく、歯科保険適用の被せ物「金銀パラジウム合金」の灰色にまみれた彼自身の指。
同じことを自費の金属を使って治療すれば、10倍も高く請求が出来るのに・・。

患者さんはそこそこの数来て下さるのに、窓口請求はせいぜい一人数百円。
基本的に、高い自費診療はやらない。または、縁が無い。

患者さんの中には長野の有名企業の社長さんだっているが、保険治療ばっかり薦めてきたせいか、いつも「保険でいいよ。」とあっさり言われ、この間はこんどこそ自費の患者さんが来てくれたと喜んでいたら、一度来られただけであっけなく急逝されてしまった。  

保険個別指導に当たると、普通なら高額請求の注意を受けるのに、指導員さんからは「ここも、こっちも請求漏れ。先生、お金儲け下手ですね。」とあきれられる始末。

お金にはめっぽう縁の無い彼! 
馬車馬のように働けど 、働けど、 わが暮らし、楽にならず。じっと手を見る・・ってとこだけど、良く考えたら彼の場合は「不条理」じゃなくて、わが身が招いた当然の結果。(^^;;

でもまあ彼に言わせると、生れてから今日まで、お金持ちだったためしの無い人生で、ついたあだ名がビンボー神。(^^;; その彼が、底辺の暮らしを余儀なくされてる人々に共感を持つのは当然なんだろう。

М氏はそれでも毎日意気揚々と、働けば働くほど赤字の増す診療所に明るくご出勤で、ちっとも困ってる風を見せず、いつもにこにこ笑顔を絶やさない。

う~ん、我が家のビンボー神・・じゃなくて、ミスター不条理!
М氏の心の中がなんてったって一番の不条理!(^^;;

 

 

 

 

 


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ぼんぼちぼちぼち

初期の陽水さん 大好きでやす♪
氏の詞はまさに文学だと思いやすね~!

逆説的反戦フォークだと 高田渡さんの「自衛隊に入ろう」もキョーレツだなぁと感じやした。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-19 12:06) 

九子

ぼんぼちさん、コメント有難うございます。( ^-^)

そうでしたね。名曲たくさんありました。
でも私、あの頃あんまり詞をよく読まずにいたように思います。

「昼寝をすれば夜中に眠れないのはどういうわけだ・・」とか。
私、お昼寝しても夜中もしっかり眠れましたから・・。(^^;;

でもこの際、しっかり読んでみようと思います。
まだまだ若かった陽水さん!安心しました。( ^-^)
by 九子 (2013-04-19 21:45) 

リンさん

独特な世界ですよね。
中学の時によく聴いていました。
by リンさん (2013-04-21 16:48) 

九子

リンさん、こんばんわ。( ^-^)
確かに独特な世界です。
彼の美声に圧倒されて、彼の詞はよく読まなかったのですけれど、今回聴き直して見て、詞の方も読み直してみようと思いました。
by 九子 (2013-04-21 19:06) 

Cecilia

井上陽水さん、私はあまり聞いてないのです。(流れてくるものを耳にする程度。)
私の高校時代は「ワインレッドの心」が流行っていましたね。うちの娘たちも陽水さんをそんなに聴いていませんが「少年時代」が大好きです。

私はたぶん九子さんと同世代(少し下?)ですが、九子さんほどフォークと関わりがなく最近までフォークがなんなのかよくわかっていなかったと思います。小学校の時にフォークが好きな子がいましたがたぶんその子もわかっていなかったかも?私は歌謡曲とイコールだと思っていました。(さだまさしとかの曲なんだろうなあ、と思う程度。)思想的なものが背景にあるということを知ったのはだいぶ経ってからです。思えば中学時代に「戦争を知らない子供たち」というフォークソングを学校の合唱コンクールで歌いましたが、ああいう曲を公立の学校で歌うようになったということはちょっと考えさせられますよね。「赤い風船」も教科書に載っていましたが、フォークソングにはまった世代の方々からたいへん驚かれました。
by Cecilia (2013-04-24 08:55) 

アールグレイ

いい曲は、時代を経ても色あせないですね。
by アールグレイ (2013-04-24 13:41) 

九子

ceciliaさん、こんばんわ。( ^-^)

いやいや、ceciliaさんのほうがぐっとお若いはず!(^^;;

フォークソングって、今から考えると何でしょうね?
さだまさしなんかも含めると、どこからどこまでが・・というのがわかんなくなっちゃいますね。

たしかに赤い風船や、戦争を知らない子供たちが教科書に載ってると聴くと、なんで?って感じですよね。まあ「赤い風船」は罪が無い歌だと思うし、「翼を下さい」もどうってことないけど・・。

もう「戦争を知ってる大人たち」の方がずっとわずかになってしまって、無理やり「戦争を知らない子供たち」って言うのも変だよね。そういう人たちが大半なんだから・・。
その当時はそれが新鮮だったんだろうけど・・。

音楽の教科書の内容は何年で変るのでしょうか?次はどんな曲が取り上げられるのか、ちょっと楽しみですね。( ^-^)

by 九子 (2013-04-24 22:58) 

九子

アールグレイさん、こんばんわ。( ^-^)
本当にその通りです。
今はyoutubeなどという便利なものが出来て、昔の歌が気楽に聴けるからいいですよね。
( ^-^)
by 九子 (2013-04-24 23:10) 

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