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美しいあなた [<九子の万華鏡>]

皆さんは「ピンポン外交」という言葉をご存知だろうか?
九子も言葉でしか覚えていなかったが、今は昔(^^;;、1971年愛知県で開かれた世界卓球選手権大会で荘則棟(そうそくとう)という世界選手権チャンピオンが、たまたま間違えて中国選手団のバスに乗り込んできたアメリカ人選手を温かく迎え入れ、それがもとになって米中関係が改善した・・という話だ。

その荘則棟さんが最近癌で亡くなったという記事が、2ヶ月遅れでわが信濃毎日新聞に出ていた訳なのだ。

何しろ当時、中国にはアメリカの選手とだけは接触していけないという鉄の規律があり、外国人と接した場合にはスパイ扱いされる時代だったのだそうだ。

それを彼は、「アメリカの選手と中国の人民は友だちです。」と言って握手をして、プレゼントまで差し出したという。
なるほど、大変勇気ある行為だ。

この出来事はマスコミに大きく取り上げられ、それがもとで両国首脳会談まで開かれ、当時冷え切ってい米中両国の関係を飛躍的に改善させたという。

たった一人の行動が、国を動かす。世界を動かす。
もちろん彼がただの市井(しせい)の人ではなくて、世界選手権のチャンピオンだったから・・という影響力は大きいだろうけど、美しい行為が人を動かすというのは、見ていて大変気持ちが良い。

ピンポン外交で西側諸国との国交回復の道筋を作った功績を認めらて、その後彼は、政府のスポーツ大臣にまで取り立てられる。
だが、これが彼の人生の頂点であった。

1976年、例の毛沢東夫人江青女史ら四人組粛清事件に際しては、政権の側にあった荘則棟氏もまた犯罪者として4年間投獄され、その際、妻子も彼から離れていってしまう。


彼がその後の名誉回復の後、結婚相手に選んだのは日本語の通訳を務めた日本人女性だった。
結婚に際しては、かなりの難関を乗り越えてのことだったようだ。


とまあ、ここまではあんまり面白い話じゃないけれど(^^;;、九子が注目したポイントは・・・?

あなたは、中国人や韓国人がお好きだろうか?
あっ、韓流スターのファンの女性もいっぱいいらっしゃるだろうから、こんな質問が不粋なのはわかっているのだけれど・・・。

中国はちょっとね・・と言う人、多いかもしれない。

あ~あ、こんな事書いちゃうと九子の好感度確実に下がるけど・・。(^^;;

我が家は実は、中国も韓国もどっちも、ちょっとね・・なんである。
いけないことはわかっているけど、う~ん・・・ってやつなのだ。

いつもは九子よりもよっぽどお人好しで、寛大な事この上ないМ氏がそうであるのはちょっと驚きだ。
いや、M氏には九子よりも強い拒否反応があるらしい。
曰く「中国でも韓国でも、大陸の人間はみんな同じだ。」

九子は韓国の人は儒教思想があるから、話せばわかるだろうと思っている。
事実、外国に留学して頼りになるのは、同じアジアの国の人、特に韓国や台湾の人という話は、いろんな人から何度も聞く。

実はМ氏のご両親は長い事満州で暮らして居て、終戦前に大変苦労して日本に引き上げて来た。
子供も一人、向こうで亡くしている。
М氏は日本で生まれたのだけれど、もしかしたら大陸で苦労した両親の体験が彼にそう言わせているのかもしれないし、そうだとすればこれはもう仕方がない。

だから我が家で、韓国映画がかかることはない。韓流スターや韓国歌手を見る事は無い。
出てくると、即、チャンネルが変るのだ。(^^;;

もちろん九子とて、そういう状況を良しとしている訳ではない。
もしも九子に、韓国人や中国人の友達が一人ずつでも居たならば、きっと事情は変っていたと思う。

娘たちは二人とも韓国大好き人間で、二人で旅行も一度ならずしている。もちろんKARAのコンサートにも行っている。
(だから、なんなの?(^^;;)

中国人や韓国人を好きになる・・とまでは行かなくても、もう少しだけわかりあうためには、荘則棟氏みたいに日本人と結婚した・・という話は、かなりポイントが高い。

宋文洲さんという、いつも声高に日本批判をしている中国人評論家ですら、奥さんが日本人だとテレビで明かしたその一言で、彼に対する意識が変ってくる。

「何よ、あの人!」と思っていたのが、「こんなに強がってても、家に帰ると日本人の奥さんに頭が上がらない可哀想な人なんだ!」と思うと、なんとなく彼に対してほのぼのした感情が湧き上がって来る。(^^;;

 

其のテレビ番組をなぜ見始めたのかよくわからない。
ゴールデンウィーク前半の夜のことだから、ご覧になった方々もたくさんおありだろう。

何しろいい加減この上無い九子のことだから、細かい点に若干違いがあってもお許し頂くとして、ビッグバンという韓国のグループに属してるV.1という青年が、日本の田舎を旅して、日本の食べ物を食べてそれをレポートするという企画だった。

九子はいつものようにチャンネルを変えてしまおうと思ったのだが、彼V.1が、無類の日本大好き人間であるというのを聞いて、気が変った。
もう少し見ていてもいいかなと思ったのである。

彼はいかにも人の良さそうなおばちゃんのいる田舎の食堂で、おばちゃんに振る舞われるままにうどんを食べ、大皿に山盛りのてんぷらを食べ、大きなバナナも1房平らげた。

田舎のおばちゃんはまだ食べ足り無いかとばかりに、次々といろんなものを出してくる。
V.1は必死の形相で、すべてを胃の中に詰め込んだ。「おいしいです。おいしいです。」と言いながら。

そして最後に待っていたのは、どんぶりにてんこ盛りの白ご飯!!!

彼はこんな事を言っていた。
「ボクが食べなかったら、せっかく作ってくれたおかあさんに失礼ですよね。だから、必死で食べました。」

「おかあさん」というのは言うまでも無い、中高年の女性に対してマスコミが作り上げた呼称である。そういうマスコミ用語まで、何年かかったか知らないが、上手に操れるようになるには、彼はきっと、日本語習得のためにかなりの努力をしたのだろう。偉いなあと思う。

次に訪ねたのは、お醤油の醸造所だった。

プロの職人さんに「素人には1分と持たない」と言われた大きな樽いっぱいの種を満身の力を込めて押し付け、こね回す作業も、5分近くも汗だくで頑張り通す。
彼が頑張り屋であることは、もはや疑いようが無い。

そうやって機械ではなく人の力で作られた特製のしょうゆを、最後に普通のしょうゆと食べ比べることになった。

二つのお皿に二つの豆腐。そのそれぞれに、市販のしょうゆと醸造所特製のしょうゆがかけてある。

最初に市販のしょうゆがかけられた豆腐を食べたV・1は、「うん。普通においしいです。でもどこにでもある感じ。」とコメント。

次に特製しょうゆの方は、「やっぱり味が深い!ぜんぜん違います。」と美味しさを強調。

そこで、事件が起こった!

テレビ局のスタッフと思われる人が突如、雪崩れ込んでくる。
「女将さん、大変です! 手違いで、お皿、逆だったんですよ!つまり、最初の方が特製しょうゆで、後の方が市販しょうゆなんですよ。」

これには女将さんもビックリだ!

えっ!そんな!まさか、そんなこと!と思いながら、もう九子は笑いが止まらない。

V.1は、呆然として立ち尽くしている。
彼の、困ったような顔が、悪いけど可笑しくてたまらない。
これってドッキリカメラなの?

後から考えた。これは間違いなく「やらせ」に違いない。だって本当に間違えたものなら、あのまま知らん顔して続行していれば、なんの問題も無く、誰にもわからずに撮影し終えることが出来たはずなのだから。

V・1はそんな場面でも、母国語ではない日本語で、なんとか醸造所のしょうゆの美味しさを伝えようと必死だった。

「ボクの心は、こっちの(特製の)しょうゆが美味しいと言ったんです。でも、ボクの舌が嘘を言いました。ボクは嘘をつくべきではなかった。ごめんなさい。」


九子はもうお腹の皮がよじれるほど笑った。
そして、V.1君の必死の形相の中に、日本への確かな愛情を感じて心が和んだ。

九子はこれからV・1君が出ているテレビは、他局に回さないでおこうと思う。

人間の心なんて、こんなにも単純だ。


結局隣り合う二つの国は、世界中のどこを見てもあんまり仲がよろしくないのだ。
相手国の利益は自国の損。つまり国益というものがどうしても競合しあってしまうからだ。

或る国では、戦争の歴史を、為政者の都合の良いように国民に教え続ける。
その甲斐あって国民は、隣国に敵対心を剥き出しにし、本来ならばしかるべき政府批判をなおざりにする。

或る国では、戦争の歴史など、教科書でほんの数行しか取り上げない。
だから、大人になっても本当の真実がわからない。


そして戦争は、遠いかなたに過ぎ去ってしまった。
元気でいる人々の中で、戦争を体験した人などごくわずかである。
自分が体験していないことについて、人々はなんと無関心なことか!

だから戦争について話す資格は九子には一切無いし、そもそも話す事なんて出来っこない。
ただ、力づくの倫理、どっちが強いの弱いのと言う事では、必ず負けた方の心に痛みを生じさせるけれど、そうではない物差しが必ずあるんじゃないかと思う。

そう。その人が、その行為が、美しいか、美しくないかという規範である。

荘則棟(そうそくとう)さんもV・1君も、それぞれに美しかった。
そして、彼らの行為を美しいと感じた人々の意識を、行動を、確実に変えた。

人は、美しいものを見て、感じることによって、変わる事が出来る。
それは間違いの無い確かな事実だと思う。


折も折、京都大学に特別講義に来た村上春樹が、「ボクの小説を読んで泣けるという人はたくさんいるけれど、僕はむしろ笑って読んで欲しい。笑いというのは人の心を変える力があるから・。」というようなことを言っていた。
まったくもって、これにも九子は大賛成だ。( ^-^)

そして九子は、こんな「美しいあなた」に憧れる。
九子もいつか、出来る事ならばそうなりたいと願う。


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コメント 4

伊閣蝶

標題を拝見し、どのような内容だろうと拝読しました。
本当に「美しいあなた」という標題がぴったりですね。
ピンポン外交のことは私も聞いたことがありました。
一つの世界で頂点を目指す才能を有する人は、基本的にコスモポリタン的な思想を持っておられるのではないか、私は漠然とそう感じてきましたが、人は誰しもそうした心情を持っているのではないかと改めて思いました。
私も、韓国人と中国人の友人を持っていますが、いうまでもなく彼らは、本当に人間的に優れていて、心底から尊敬しております。
中国や韓国を取り上げるニュースを見ると、いつも気持が暗くなりますが、どうもマスコミ(ネットが特に酷い)の論調は、センセーショナルな部分をことさら恣意的に取り上げ我々のような一般大衆を必要以上に煽動しているような気がします。
そのことにも改めて気づかされました。
by 伊閣蝶 (2013-05-13 21:33) 

九子

伊閣蝶さん、こんばんわ。
いつも考えさせられるコメントを頂戴し、心より感謝申し上げます。

>一つの世界で頂点を目指す才能を有する人は、基本的にコスモポリタン的な思想を持っておられるのではないか、

確かにそうだと思います。私も長野オリンピックの時にボランティアで選手村に詰めましたが、彼らは母国語のほかに少なくとも一ヶ国語は話が出来て、いつも心を外に向けているという感じがしました。

>人は誰しもそうした心情を持っているのではないかと改めて思いました。

確かに基本的にはそうかもしれませんが、なかなか努力が必要かもしれません。

>私も、韓国人と中国人の友人を持っていますが、いうまでもなく彼らは、本当に人間的に優れていて、心底から尊敬しております。

素晴らしいことですね!!私もその方々にお会いしてみたいです。( ^-^)

確かにマスコミの流し方ひとつで、かなり違うと思います。
そしてもっと言うなら、中国の日本についての教え方が少しでも変ってくれたら・・っていう部分もかなりありますね。
by 九子 (2013-05-14 21:33) 

mu-ran

素敵なお話、ありがとうございます!
by mu-ran (2013-05-16 17:30) 

九子

mu-ranさん、お忙しいところコメント有難うございます。
「美しいあなた」になるのは絶望的に大変なので、「美しいあなた」のそばにいるって方にしようかと思い始めています。(^^;;
by 九子 (2013-05-16 23:28) 

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