孫の心配 [<学校の話、子供たちの話>]
タイトルを見て「九子さん、お孫さんいたんだあ!」と驚かれた方、そして続けて、「きっとお孫さんが病弱なのね・・」と想像された方。あなたの想像力は評価いたしますが・・・・・、
ブッ・ブー、残念ながら不正解!(^^;;
もしかしたら九子さん、孫がなかなか出来ないのを気に病んでいるのかも・・。
それもこの際、不正解!
正解は・・・、最後まで読んでみてね。( ^-^)
笠原十兵衛薬局は、母が取り仕切ってる頃、いろんな人が出入りしていた。
それも、薬の相談を超えて、母と世間話や人生相談などをしに来る人が・・・。
慎ましやかに置かれた二つの椅子には、多くの人々が手荷物のほかに、大小の心の荷物も置いていった気がする。
母が俳句と言う形ではなく、小説やエッセイにして心の中の有象無象(うぞうむぞう)を吐き出す人であったなら、母と薬局に来る患者さんの会話は、きっと面白い物語になったに違いない。
医者と小説家の二足のわらじを履く人々が、日常に転がっている命の物語をつむぎ続けるだけで、割合簡単に小説が出来るように・・。
ところが九子が18代店主になって以来、笠原十兵衛薬局の椅子はほとんど使われることがない。
もちろんほとんどのお客様が、雲切目薬だけを目当てに来て下さって、用事が終わるとすぐに引き上げて行かれるからであるが、まあこの九子に、何か相談しようなどという気になるかと言われたら、そりゃあ金輪際(こんりんざい)そんな気は起きないだろう・・ということは、本人が一番よくわかっている。(^^;;
ところが極々たまあに、椅子の主になってくれる人が見つかることがある。
今日の笠原十兵衛薬局のお客様は、珍しく子供だった。
それもおしゃれな小公女。
彼女はHNちゃんと言う。
義姉のところのお孫さんだ。
もちろん義姉に連れられてきた。
HNちゃんは生まれた時から嫁の鑑(かがみ)と呼ばれる義姉を見て育った。
何でも義姉の真似をしたがり、お客様がみえると義姉と一緒に手を付いてお迎えした。
そんなHNちゃんは、いつもは100%義姉と行動を共にするのだ。
ところが今日は様子が違った。
義姉に「今日はHNちゃん、おばちゃんとこで待っててね。」と言われ、
「うん。わかった!」と素直にうなずくHNちゃん。
本来九子は、HNちゃんのお父さんの叔母である。それを一世代下のHNちゃんにも義姉は「おばちゃん」と呼びかけてくれた。それは、まずちょっと嬉しい。
( ^-^)
い、いや、待てよ!そんな単純なとこで喜んでる暇はない!
義姉は一人HNちゃんを残して、急ぎの買い物とやらに出かけてしまった。
えっ?義姉が帰って来るまで、九子はHNちゃんと二人っきり???
HNちゃんは薬局の椅子の上に、もうちょこんと座っている。
HNちゃんは髪の毛を編み込みにして、空色のリボンで左右を結んでいる。
それがすごく可愛いらしい。美容院でやってもらったと嬉しそうだ。
リボンの空色がなんとも高貴で、だから小公女・・と九子は思った。
う~ん、沈黙が怖い九子。相手が子供であっても、その原則は同じである。
自分からぺらぺら話してくれる子供ならばまあ楽なのだけれど、HNちゃんはいかにも育ちのよい、おとなしいタイプの女の子だ。
ここはなんとか間が持つように、会話を続けて行かなければならない。
ところが九子は、小学校低学年の女の子と共通の話題などほとんど持ち合わせていないのだ。
そこで九子は必死に考える。
「HNちゃんは、いつも何して遊ぶの?弟のHT君とけんかしたりはしないの?」
「う~ん。ゲームのことでけんかすることはあるよ。」
「へえ、どんなゲーム?」
「○○や、××や、△△」
九子はゲームの名前など、「スーパーマリオ」ひとつしか知らない。
だから無理やり、「スーパーマリオはどう?」と水を向けてみるが、
「スーパーマリオのどれ?」と返されちゃあ、あとが続かない。(^^;;
う~ん、もっと何か言わなくちゃ!
するとHNちゃんが助け舟を出してくれた。
「このスカートねえ、さっきおばあちゃんにデパートで買ってもらったの。これスカートに見えるけど、本当はズボンなんだよ。」
「あら、本当だ!フリルがついて可愛いけど、ズボンなんだねえ。おばあちゃん、いいの買ってくれるねえ。」
う~ん、また会話が途切れてしまった。
そうだ!
「そういえば、HNちゃん何年生になるんだっけ?」
「二年生だよ。」
「何の授業が好きなの?」
「体育!」
「そっか~。陸上やってたパパに似て、体動かすのが好きなんだ。」
うん?その後に続く言葉は・・?(^^;;
ここで九子に、天啓のようにある事がひらめいた。
HNちゃんの通う小学校は、以前ケンミンショーでも取り上げられた「漢字の組名を持つ小学校」だったのだ。
「HNちゃんの学校さあ、組の名前が面白いんだよね。HNちゃんは何組?」
「私は「せいぐみ。」」
「えっ、せいってどういう字?」
「せいって、正しいって言う字。となりのクラスはめい組。あとはびん組とわ組。」
「めい組はどんな字?びん組は?わ組は?」
めい組は、明るいって言う字。わは平和のわ。びんは難しい字。毎日の毎って言う字が左側にあって、え~っと右側は・・・・。」
「ああ、わかった、わかった!HNちゃん、文字の説明上手だねえ。」
その他の学年のも聞いた。三年生は「仁 義 礼 修」だそうだ。
親戚のおじちゃんと同じ字があるので、覚え易いらしかった。
一年生のが難しすぎて可哀想とHNちゃんが言っていた。
あとでネットで調べてみたら「勤 節 操 道」だった。
確かに小学校2年生が説明するにも難儀する字が並んでいる。
「真 善 美 徳」あたりだと誰にも思いつくけれど、「恭 倹 敬 省 直」あたりになると、文字の意味すら怪しいこともある。
百年もの歴史を誇る小学校だから、子供がお父さんやおじいちゃんと同じ組などという事もしばしば起るそうだ。いいなあ、そういうのって!( ^-^)
漢字の話題もそろそろ尽きて、さてどうしようと思ったところで、HNちゃんがまた気づいてくれた。
「この靴もねえ、おばあちゃんに買ってもらったんだよ。」
靴と言うより、つま先まで隠れるかかとに引っ掛けるタイプのサンダルだ。
水色のサンダルに、ミニーちゃんのピンクのリボンがついている。
「おばあちゃん、お金持だから何でも買ってもらえていいねえ。」
オット!これは言うべきじゃなかった。
HNちゃんちがお金持ちなのは、HNちゃん家にいたビンボー神が、うちにオムコさんに来たからなんだよ・・ってのは、もっとどうでもいいことだった。(^^;;(^^;;
「この靴と同じ靴、○○ちゃんも、××ちゃんも持ってるんだよ。」
「ああ、そうなんだ!ミニーちゃんって人気あるんだね。」
と言いながら、九子の中の天邪鬼(アマノジャク)がむくむくと頭を持ち上げかける。
「だけどさあ、HNちゃん。お友達と同じのを持ってるって、そんなにいいことなのかなあ?」
ご安心召され!最後の一言は小2の女の子相手に言っても、こんな!目されるだけ・・って事ぐらい、九子だってわかる。
そのくらいの空気は読める。(^^;;
だからもちろん、喉元まで出かかったけど、我慢した。
「あっ、おばあちゃんだ!!」
めざとくHNちゃんが、帰ってきた義姉の姿を見とがめて喜ぶ。
「あっ、本当だ!HNちゃん、良かったね!!」
義姉の姿に、HNちゃんよりももっと喜んだのは九子の方だったかもしれない。
(^^;;
何しろ聞き分けのいいおとなしい女の子と一緒のたった20分が、こんなに疲れるものとは知らなかった。
九子を知る人が、一様におまじないのようにつぶやく言葉がある。
「一人で五人、二人で十人、三人で十五人」
この言葉を聴くたびに、地獄の呪文を聞かされるような気がして、九子は背筋がぞっとする。
そう。5人の子持ちの九子の、生まれるべき孫の人数である。
もちろんすべてが結婚するとは限らないし、子供が出来るとも限らない。
だけど・・・。
九子の孫の心配とは、子供を五人も生みながら、出来すぎ母にすべてを任せてすごしてしまった九子に、果たして孫の世話が出来るのかしら???という心配でした。(^^;;(^^;;
残暑お見舞い申し上げます。
お元気ですか。
楽しく読ませていただきました。
仕事柄、その手の人種(笑)とはおつき合いしていますが、仕事以外だとちょっと苦手かもしれません(笑)。今は夏休みなので、あんまり会いたくないのが本音です。
おしゃべりだけだと間が持ちませんので、一緒に遊ぶのが一番。
それも意外と、レトロな遊びが逆に新鮮に思われたりするものです。
私は、子どもの前でお手玉をしただけで、すごく尊敬されました(笑)。
こちらが気を遣うと、相手も子どもながらに気を遣っていると思いますよ。
結構、以心伝心だったりして……(笑)。
by お夕 (2013-08-17 00:38)
あまりに卓抜したお話の運びに、最後まで楽しく拝読しました。
小学二年生くらいの子供は我々が及びも付かない発想をしばしば展開しますから、おお!っと驚くことが結構あります。
HNちゃんは、きっと普段から大人の人ともやりとりがあるのでしょうね。
小さな子供なりに気を遣っている様が見て取れました。
でも、可愛いだろうな。
九子さんとお二人の情景を想像しながら、思わず微笑んでしまいました。
九子さんのご苦労も知らず、勝手なことを申し上げますが。
それにしても、HNちゃんの通う小学校、漢字で組の名前を付けているのですね。
それも、何だか「千字文」を思い起こすような字ばかり。
すばらしい伝統だなと思いました。
by 伊閣蝶 (2013-08-18 09:27)
あっ。お夕さん!こちらも毎度の事ながらご無沙汰申し上げ、失礼致します。
子供たちも帰省していたので、お返事も遅くなりました。ごめんね。
いやあ、お夕さんお苦手と私の苦手は格段の違いがありまして・・。
そもそも私は、体を動かして遊ぶってのが何より苦手で、そもそも外で友達と遊んだことの無い人間なので、「遊び」自体が思いつかない!(^^;;
>こちらが気を遣うと、相手も子どもながらに気を遣っていると思いますよ。
結構、以心伝心だったりして……(笑)。
これは、わかる!きっとそうだろうなと思ってました。HNちゃんは賢い子だから・・。
まあでもね、孫という存在は刻々と真実味を増して迫り来る大問題で・・。
あと数年後の私、どうしているのでしょう???(^^;;
by 九子 (2013-08-19 14:52)
伊閣蝶さん、こんにちわ。
いつも素敵なコメント、有難うございます。( ^-^)
>HNちゃんは、きっと普段から大人の人ともやりとりがあるのでしょうね。
そのとおりです。とてもお客様の多いうちで育ってる子なんです。
M氏の実家なのですが、代々お客様がとても多くて、M氏もそうですが、そういう中で育つと社会性が身につくんでしょう。
ああ下氷鉋小学校。ところでこの字御読みになれますか?
「しもひがの」と読むんです。
本当に良い伝統ですよね。それになんだかカッコイイ!( ^-^)
少なくとも自分のクラスの一字についてはしっかりと覚えるでしょうから、特別に道徳の時間などに覚えなくてもしっかりと身につきますよね。
いやあ、本当に良い伝統だと思います。
by 九子 (2013-08-19 15:03)
久しぶりにクスッと笑わせていただきました。
九子さん、案ずるより産むが易しですよ。
「なぁ~んにもしてない」なんて言いながら、
しっかり5人も産まれた九子さんが見事に体現されていらっしゃるじゃありませんか!
思わず私も念仏のように唱えてしまいました。
「一人で二人、二人で四人、三人で六人」
うーん、私は早く孫に会いたいです。だって責任無いんだも―ん。
あちこち引きずりまわして、遊び倒して、
「ばぁちゃんスゲー」(この場合は高校生ぐらいの男の子の想定)と言わせたい!!
私の秘かな野望です。
by 浅葱 (2013-08-19 16:34)
浅葱さん、こんばんわ。( ^-^)
いやあ、浅葱さん、九子は生んだだけ!育てたのはほとんど母ですから・・。(^^;;
今から思えば私もせめて「一人で二人、二人で四人、三人で六人」程度に留めておくべきでした。それだって大変だもんねえ。
>うーん、私は早く孫に会いたいです。だって責任無いんだも―ん。
ああ、こういう声が断然主流みたいですね。だから可愛いんだってね。
実際に会えばそう思うのかなあ。まずそこから心配!(^^;;
今時の男の子だけじゃなく、女の子も「ばぁちゃんスゲー」くらいのことは言いそうだから、浅葱さんはきっとお孫さん全員に「ばぁちゃんスゲー」と言われる事間違いなし!!
かっこいいおばあちゃんになりそう!( ^-^)
by 九子 (2013-08-19 23:39)