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九子の災難  山本貴志とベルリン交響楽団 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

言うまでもないことであるが、山本貴志氏とベルリン交響楽団のコンサートの内容は言うに言えないほど(と申し上げるのがこの際一番適切であろう。)素晴らしいものであった。九子の災難は、彼らの演奏の質とはなんら関係の無いところにあったのである。

そもそも山本貴志氏は、長野市出身の数少ない逸材で、何を隠そう「信州大学教育学部附属長野中学校」、九子の母校である俗に言う「信大附属中」の出身である。

うちの子供たちの在学中は果たせなかったが(同年代ゆえ)、数年前にショパンピアノ国際コンクールで3位を取った山本氏は直後に、故郷に錦を飾る形で信大附属中学校の体育館で演奏を行い、山のような人だかりが出来たそうだ。


大変申し訳ない事ながら、名前だけは知っていたものの彼の演奏など聴いたことも無く、しかも「地元が生んだってレベルでしょう?」・・くらいにしか思っていなかった九子は、観客の中にKMさんの姿を発見して驚いた。そう。以前九子ん家の前に住んでいたピアノの先生のKMさんである。もっと言えば、長野県で第一号の大手術を受けられたKMさんである。

彼女の元気そうな姿に安心するとともに、ピアニストの彼女が聴きに来るってことは、山本氏はかなりの弾き手なんだ!と再確認する九子。


九子たちの席はステージに向かって一番左側のはしっこ。前から10番目くらいである。
演奏の始まる前、通路を隔てて九子の少し後ろの方に座っていられたご老人に何やら話しかける人が居る。

「お孫さん、おめでとうございます。凱旋公演ですね。」
どうやら山本貴志氏のおじいさまのようである。


ここでまた、元高校管弦楽団員のM氏が講釈を垂れる。
「ピアノの音を聴くには真ん中あたりがいいんだよ。こっち側だと音が少し弱くなっちゃうんだよねえ。」

まあ、どんな音でも聞こえる席で聴けたんだから、文句言っちゃいけないわよね!
この九子の言葉は、これから九子に降りかかる災難を思うと、切実に聞いて頂けると思う。(^^;;


ベルリン交響楽団・・というのは、あくまでもベルリンフィルとは違うのだそうだ。
天下のベルリンフィルが長野くんだりに来ることはまず無い訳だから、せっかく遠くから来て下さった総勢50人ほどの演奏家の方々には心より敬意を表する。

その上、松本と違って、言いたくないが文化不毛の地である長野市で演奏会をするには、この上なく考え尽くされた初心者向きの選曲であった。

誰でも名前は聞いたことのあるベートーベンの「運命」とシューベルトの「未完成交響曲」
そしてその間に、山本貴志氏の力量を余すことなく伝えられるショパンのピアノ協奏曲1番が挟まるという寸法だ。


少なくとも昭和の人間にとっては、ベートーベンの「運命」とシューベルトの「未完成交響曲」と言えば、もちろんそれぞれの作曲家を代表する大曲であるとともに、両方のレコードを持っているというのはちょっとしたクラシック通として巾を利かせられるくらい大そうな事だった。(んじゃないかな?) もちろん父も持っていた。(^^;;

「運命」の有名な「ジャジャジャジャーン」というさびと、「未完成交響曲」のいかにもドイツ人・シューベルトらしい美しい序曲は、何十年もの間、九子の頭の中にそこだけ取り出されて鮮明なまま姿をとどめていたはずなのに、考えてみると1曲を通してしっかりと、しかもドイツ人のオーケストラの演奏で聴いたことなど、今まで一度も無かった。

先日高橋義人氏の「ドイツ人のこころ」という本を読んで以来、ドイツ人の作曲家の曲から「森」やら「憂鬱」やら「ローレライ」やらが感じられるかどうかが気になるようになった。

ドイツ人のこころ (岩波新書)

ドイツ人のこころ (岩波新書)

  • 作者: 高橋 義人
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
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それだけを目当てにして聴くだけでも、今日の演奏会は甲斐があると思っていた。

一曲目、シューベルト未完成交響曲。目をつぶるとドイツの森が浮かぶ。
シュバルツバルト。黒い森。
楽しさも喜びもおぞましさも恐れも、すべてを包み込む深い深い森の懐。


さて、本日のクライマックス、山本貴志氏のピアノ演奏による ショパンピアノ協奏曲 第一番 ホ短調。

「未完成」の演奏が終わったばかりのステージに、ピアノが運び込まれる。
そのためにだけドイツから付いて来たのか、一際目立つドイツ人のピアノ運搬人の男性が日本人の職員に混じってピアノを運び入れる。


さて、山本貴志氏の演奏だ。

最初から、力強く尚且つ流れるようなタッチ。

それにしても彼の演奏姿勢は一風変わっている。
鍵盤の上に背中を丸めて、鍵盤を抱え込むようにして演奏する。

あれでは鍵盤の他は何も見えない。
指揮者のタクトも、共演者との合図も、どうやってわかるのだろうか?


だけど、音は凄い!素晴らしいの一言だ。


彼はきっと小さい頃、先生から演奏姿勢を何度も注意されたに違いない。
そんな姿勢じゃあ大らかな演奏が出来ないよ・・とかなんとか。

だけど彼は頑なにその姿勢を護り続ける。
そのうち先生の方が根負けする。

長じてから出会うもっと偉い先生方は、さすがにもう何も言わない、
彼にすべてを任せている。

そして彼は有名になる。
彼の演奏する一風変わった姿は、人々の話題だ。
そしてついにそれは彼の「スタイル」だと言われる。
そして彼はますます有名になる。

「下手。それは素晴らしい!」と言ったのは画家の佐藤勝彦氏だが、自分の思うままを突き詰めていくと、そのぶれない強さがあれば、周りの人間たちの方が譲るものらしい。


と思った途端に、突然咳が出始める。
どうしたんだろう?

仕方が無い。いつもの咳だ。


九子は昔から気管支が弱くて、風邪でもないのに咳が出て、しかもなかなか止まらない。

不意にfitという英単語を思い出す。「発作」と言う意味だ。
確かにこれは咳のfitだが、そういえば九子も乗ってる車の名前は、なぜ「発作」なのか?
「発作」と言う名前の車が日本中を走っているなんて!!!・・・などと変な事を考え始めると、咳はいよいよ激しくなる。

仕方が無いので他の方々の迷惑にならないように一応会場の外へ出ることにする。

会場の入り口は二重扉になっている。
そんなことすら、今日の一件が無ければ九子は一生気づかなかったかもしれない。(^^;;


九子が外に出たと思ったところ、そこは扉と扉の内側で、若い男性職員が一人立っていた。

聞かれもしないうちに「すみません。咳が止まらなくて・・。」と言い訳する九子。

落ち着いてきたのですぐ中に入ろうとすると、彼が冷たく言い放つ。

「すみませんが、今は中に入れません。演奏が中断するまでこちらでお待ち下さい。」


えっ?そんなあ。

扉一枚隔てると、格段に音量は低くなる。
耳をそばだてても、半分も聞こえない。


ずいぶん長い間、そこで待たされてた気がする。
だって九子は山本氏の演奏をまだ5分も聞いていなかったんだよ。


その上こんな暗い空間に、若い男性と二人だけ!っていうのもすごく居心地が悪い。

そう言えば、こういう居心地の悪さ、どこかで感じたことあったなあ。

そうだ!人間ドックで超音波の検査受けてる時!
お腹の辺りにゼリーを塗られて、あちこち圧迫されながら検査を受ける。
検査する人が若い男性で、へんてこな気分になったっけ。
もしかしたらこの人、九子をモノにしようとしてたりして(^^;(^^;(^^;


するとそこに奇跡のようにわずかに音の途切れる数分間があった。

ああ、なんで九子はこの隙に、会場に入ってしまわなかったのだろう?


九子は日本人だったのだ。
そしてたぶん、彼の男性職員も・・。

九子は男性職員の指示を待っていたのだ。
彼が「今、いいですよ。」と言ってくれるのを今か今かと・・・。

彼からの指示は何もなかった。
しいて言えば、彼も指示していいものか思いあぐねていたようだった。

ああ、そんなものどうでもよかったのだ!
彼に何と言われようが、入ってしまった者勝ちだったのだ。

でも根っからの日本人である九子は、中へ入れなかった。
その挙句、またしても息の詰まる十数分間を扉の外で過ごす羽目になった。

結局九子は、山本氏の演奏を始めの5分間以外聴けなかった。
素晴らしかった最初の5分間を思う時、九子が聴けなかった残りの大部分はさぞや聴衆に物凄い感動と狂喜の渦をもたらしたものであろうと想像するのみだ。

今日の教訓 その1!
コンサートの最中にもしも咳がしたくなったら、極力会場内に留まろう!
回りが少々迷惑しても、退避するなら隅っこでいいからあくまで会場内の、舞台の音が普通に聞こえるところに。

その2、
あなたが本当に必要な事であったら、誰かの指示など待たずに、誰にとがめられようと、かまわず、飛び込め!!

これであなたも、後悔しないですむ!・・かもよ。
(^^;(^^;;




 ★ブログ「ママ、時々うつ。坐禅でしあわせ」 頑張って更新中です。是非お読みくださあ~い。(^-^)




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伊閣蝶

ベルリン交響楽団は、ベルリン・フィルと違いあまり知られてはいませんが、クルト・ザンデルリンクのバトンの元での、ショスタコーヴィチやマーラーの交響曲の演奏は誠に素晴らしいものでした。
殊に、マーラーの交響曲第10番(クック完全版)の演奏のCDは、恐らくこの曲のこの版における最上級のものと、私は確信しています。
ベルリン交響楽団が日本各地の地方都市で精力的にコンサートを開いてくれることに感謝しなければと思います。
それにしても、演奏の冒頭で咳が止まらなくなってしまったのはあまりに残念なことでしたね。
会場係も、外に出て頂くことは了承したものの、再度の入場は「曲の途中」ということで遮らざるを得なかった。
協奏曲は普通3楽章ありますが、楽章の切れ目も音楽の一部ですので、基本的には入れません。本当にお気の毒ですが、これは日本人だからということではなく、コンサート会場では大抵そのような扱いになると考えます。
むしろ、咳を我慢しつつ会場内に留まるほうが良かったのかもしれません。
本当に残念なことでした。

by 伊閣蝶 (2014-09-14 13:36) 

九子

伊閣蝶さん、こんばんわ。
そうなんです。もう2ヶ月も前のことなんですが、今でも悔しくて・・。(^^;;

ベルリンフィルじゃなくても、ドイツの楽団はどこも素晴らしいんですね。伊閣蝶さんがそうおっしゃってくださると、聴きに行った甲斐があります。( ^-^)

ああ、ではあの若者の対応も正しかった訳なんですね。

残念ですが、これでまた山本氏をもう一度聴きに行く理由が出来ました。
今度こそしっかり聴いてきます。( ^-^)

いろいろ教えてくださって有難うございました。
by 九子 (2014-09-15 00:15) 

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