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コアラだったら・・・。 [<九子の旅日記>]

旅というものは唐突に始まる。
次男Sが会社を辞めてオーストラリア放浪中なので、いつか彼が居るうちに会いに行きたいとは思っていた。
同じ事を長女N子も考えていて「いつか一緒に行こうよ。」と彼女からメールが来たのは4月ごろ。まあ、行きたいけどね。いつになるかしらねえ。
でもまさかそれがこんなに早い時期に実現するとは思わなかった。

ドイツには次女を連れて行ったから、今度は長女を、長女の苗字が変わらないうちに、一緒の思い出を作ってやりたかった。
「例のオーストラリア旅行の話、まだ生きてる?」という問いは、偶然8月の初めに九子が発した。
それに対してすぐにN子から勇んで返事が来た。
「12日から17日まで、休み取れるよ。」

半年先くらいを想定していたのに、彼女が休めるのは8月の12日からの6日間だけで、次の正月休みは難しいという。
え~っ、だってそんな急に。どう考えたって無理じゃない?あと10日も無いんだよ。

ところが世の中は変わっていた。パソコン上の旅行サイトでは、飛行機もホテルも、3、4日前ほどまで予約が可能だった!
長女も九子もパスポートは既に持っている。無理と言って断わる理由は無かった。

一泊は、例によって父が何十年か前にシンガポールで”where are you from?"のたった一言で写真を撮り、住所を交換したCさんのところに決めていた。
大変フレンドリーで(この言葉にきっちり合う日本語がまだ見出せないでいる。)、心優しく、心遣いの行き届いたご夫婦だ。
芸術家の奥さんから、世界でたったひとつ、彼女がすべてのページを描いた絵本を頂いている。
これからお世話になるだろう次男Sと顔つなぎも済ましておきたかった。

6日間あると言っても、成田からN子の居るところまでその日のうちに帰る事は難しく、成田で一泊しなければならない。つまりは3泊5日の旅というわけだ。

N子がどうしてもコアラを抱きたいと言うので、今現在コアラがたくさん居るサンシャインコーストのAustralia Zooが候補にあがる。しかもここは、次男が住むバックパッカー宿から車で1時間ほどだった!(次男は動物園の存在に全く気付かずに居た。その上たった一週間前に、おあつらえ向きに車を買っていた!)

これで行程は決まった。
成田→ブリスベン→アデレードのC家1泊→アデレード散策→ブリスベン1泊→動物園→ブリスベン1泊→成田へ

ところが!切符とホテルが取れて気が緩み、コアラを抱くのにチケットが要ることに気付かなかった。気付いたときにはもうsold out!
N子の悲しげな顔が目に浮かぶ。

なんとかならないかと思って、動物園にメールしてみた。そうしたら!!
コアラを長く抱ける切符はもう売り切れたが、ほんの少し抱くだけなら、一人25ドルで少し並べば抱けるとのこと。 やった~!

行ってみてわかった。そこはフジフィルムがやっているフォトスタジオで、25ドルはコアラを抱いた写真を撮ってくれる料金だった。
N子と次男S,九子の3人分だから、3枚で59ドルの割安を選んだ。
それにしてもフジフィルム、化粧品やったり、こんなところに目をつけたり、フィルムが下火になってからも頑張ってるんだねえ。

Cさんには「コアラはたまにおしっこするわよ。気をつけてね。」と言われたが、その場に居た誰も、被害にあった人は居なかった。
よく躾けられているのか、睡眠薬でも飲まされているのか???そう思いたくなるほど、コアラはおとなしく、眠そうだった。
koara.jpg
Australia Zooは、言うまでも無く上野動物園とはえらい違いだ!
すべての動物を極力自然のままで、即ちほとんどが放し飼いの状態で育てている。
九子など脚が痛くて卒倒する一歩手前くらいたくさん歩かされたが、広大な敷地の中で自然のままの生活が出来る動物たちは本当に幸せだ。
切符を買えば動物に餌付けも出来る。カンガルーのえさなどは切符など無くてもすぐに買えて、掌に載せればカンガルーが擦り寄ってきて食べている。日本で言えばそんじょそこらのウサギやハムスターと同じ感覚。

オーストラリア、オーストラリア。九子の中で長い間、この国はずっと異国だった。
外国と言えばアメリカかヨーロッパしか頭に浮かばなかった。ペンパルが住んでいるとは言え、コアラとカンガルー以外思いつかない遠い遠い国だった。

ところが今回実際に訪ねてみて、本当に良いところだった。
次男がかの地を選んだ訳がわかった。
彼は大学時代一月だけホームステイを経験した。その時彼は帰ってくるなり、「一ヶ月じゃ短かすぎた。最低一年は住みたい。」と言った。
それが6年越しの今回の放浪につながったわけだ。

世界で住み易い都市10のうちの4つがオーストラリアの都市なのだそうだ。
人々は皆フレンドリーで明るく、一度も人種差別の絡んだ嫌な思いをしなかった。
都市機能は充実しており、ホテルや家々の構造も、アングロサクソン系の大男大女がゆったりとくつろげる大きさと快適さを備えている。

アデレードに限って言えば冬とはいえど最低気温は5度ほどで、雪が降ることはない。
温暖な気候の故か、人々は皆気持ちがゆったりとしているようだ。

日本は島、オーストラリアは大陸の違いはあるとは言え、外敵の侵入を海と言う自然の防護壁が守ってくれるせいか、内なる平和のみを追求して来れた幸福な二つの国には、人々の優しさと言う共通点がある。

まずは他人を信じられること。同じイギリスを旅立って新大陸を目指した人々だが、残念ながら他人を信用できずに銃を持つに至ったアメリカと、オーストラリアの差は歴然としている。
オーストラリアには人を襲うような獰猛な動物が少なかったからだろうか。ワニは居ても彼らは人間のテリトリーを犯したりしない。

他人を信用して暮らせる国は、そしてそこに住む人々は幸福だ。人々が無防備であるというのは、その国の幸福を測る尺度かもしれない。


このところ女優の高畑淳子さんの売り出し中の息子が大変な罪を犯して話題になっている。
母親である高畑さんの記者会見を見て、いろいろな想いが胸をよぎった。
彼をたった一人で育ててきた母親の思いがほとばしるような会見で、まぶたが熱くなった。

彼女は息子に言い聞かせてきた事をこう語った。嘘をつかないこと。人様にご迷惑がかからないようにすること。人様に感謝すること。
日本人なら誰もが思い当たる、簡単なようで難しい、日本人として生きるための術だ。
日本人のたぶん9割が、この中の最低どれか一つは戒めとしていると思う。

高畑さんの息子は、ちょっとおかしな人と言われていたそうだ。空気読めない言動から、発達障害を疑われても居るらしい。
現在では「自閉症スペクトラム」と呼ばれるような人々は、みんな多かれ少なかれ人と違う得意なこだわりを持つ。そのこだわりの内容が人に危害を及ぼすものであれば、なるべく早いうちに矯正しておかねばならない。

生まれついたわが子が普通に育って、悪いこともせずただただ穏やかに眠っているだけのコアラのような子供だったとしたら、母親の子育てはどんなにか楽だろう。 だけど実際は、コアラじゃなくてカンガルーだったり、熊だったり、ライオンだったりする。そしてそういう本性は、母親の前では隠したがるもののようだ。

手塩にかけて育てたつもりのわが子がとんでもない罪を犯す。人様の身体や心にとてつもない傷をつける。そして、罰せられる。
親としてこれほど切ないことはないし、自分の子育てのどこかに誤りがあったという事実を突きつけられる。

忙しい合間を縫って弁当を作り、息子の遅刻が多く、成績が悪いのを案じる母の姿。そして、こんなに家族に迷惑をかけてしまった息子であっても、最後は自分の元へ戻っておいでと涙する高畑さんに共感を覚える人も多かろう。

女優さんだから、計算ズクで、心とは裏腹どんなことでも言えると考える人は、きっと誰かにに傷つけられたことのある人だろう。
平和ボケの日本で育ったうぶな九子は、とてもそんな風には思えない。物事をまっすぐにしか見られない。


高畑淳子さん、40歳近くなってからの遅い息子を良く一人で頑張って育てられましたね。
あなたがコアラだと思って育てた息子は、どうやらライオンだったようです。
最初からライオンとして育てられればよかったけれど、それを見抜くのは至難の業です。
見抜けなかったことは母親の罪なのでしょうか?

うちにも息子が3人居りますが、とりあえず3人ともコアラのような息子たちでした。もしもその中にライオンが1匹でも混じっていたら、今頃自分は安穏として暮らしていられたかどうか、甚だ疑問です。

コアラに見えてもいつ猛獣に変身してしまうかわからない危うさは、すべての人間が持っています。抱えています。

九子が若い頃、同じような事件に巻き込まれた大女優さんが居ました。荒木道子さん。きっとご存知でしょう。
息子がヒット曲を出して売れていた最中、女性に対する同様の罪で逮捕され、以来彼女は九子の知る限り、表舞台に登場することはありませんでした。

そういう時代だったのです。母親は何も語ることなく芸能界を去って行きました。着物の似合う真面目なおかあさん役が良く似合う名優でした。

あなたがああしてテレビカメラの前に自らをさらし、釈明されたのはいい意味でも悪い意味でも今の時代 を表していると思いました。
釈明の機会を与えられ、贖罪のために仕事を続けたいと訴えられた。
あなたには与えられた機会が、荒木道子さんにはたぶん与えられなかったのでしょう。
昔の人たちは本当に可哀想でした。

あなたの姿は、もしかしたら何日後、何ヵ月後、何年後の私かもしれません。
人事ではなく、頭に刻み付けておきたいと思います。


Australia Zooのコアラの感触をもうだんだんと忘れてしまいがちな九子である。
ただ、とても温かかったことだけは妙に記憶にある。
子供たちを抱いたとき、考えてみればいつもとても温かかった。夏などは熱くて汗が出るほどで、出来たら抱きたくなかった。

温もりは生きている証だったと父が亡くなった時に気がついて、はっとした。
血の通った生き物は、みんな温かいのだ。そして死んだ途端に冷たくなる。

 
「生かされている。その事ひとつに感謝して暮らせ。」とよく禅寺でも言われるが、なかなかどうして難しい。





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伊閣蝶

私はニュージーランドに行ったことがありますが、九子さんの記事のオーストラリアと同じような印象を持っています。
みんなものすごくフレンドリーでした。
オセアニア方面の島や大陸は、仰る通り獰猛な動物がいなかったため、生き物はみな穏やかに生きていくことができたのでしょう。
そうした環境を破壊したのはほかならぬ人間であったことを思うとき、なんだか暗澹とさせられます。

高畑容疑者の婦女暴行傷害事件。
レイプは、精神的な殺人といわれます。
被害女性にとって、正に取り返しのつかない深い傷を与えてしまったのではないでしょうか。
by 伊閣蝶 (2016-08-31 12:42) 

九子

伊閣蝶 さん,ニュージーランドにいらっしゃったのですね。
ニュージーランドも同じような感じなのですね。
ただ現地の人に聞くと、お隣同士でわりと、ありていに言えば日本と韓国みたいな感情はあるみたいですが・・。(^^;;

環境って本当に大事です。大陸の人の気性が荒いのも、戦乱の歴史がそうさせるのかと思えば、ちょっと気の毒になったりします。

彼はもう芸能界で生きていくのは難しいでしょうね。周りの人がそれを赦さないと思います。
ただ、おかあさんの方は・・。私は荒木道子さんみたいにはならないで欲しい気がします。
親と子供は別個の人格なので・・・。日本と言う国が少しだけ成熟した証に・・・。
by 九子 (2016-08-31 23:55) 

リンさん

九子さん、本当にお久しぶりです。
ご無沙汰しちゃってすみません~^^

オーストラリアは、その昔、新婚旅行で行きました。
コアラちゃん抱っこしました。
爪が鋭いから、コアラのぬいぐるみを抱っこしたコアラちゃんを抱っこしました。可愛かった~
ワラビーとも触れ合えて、すごく楽しかったです。

by リンさん (2016-09-07 13:26) 

九子

りんさん、こちらこそご無沙汰済みません。来て下さって有難う。( ^-^)
おお、新婚旅行でオーストラリア!進んでるう。
でもいいところですね。3日居ただけでファンになりました。
出来たらこれから伺いますが、りんさんはほぼ毎日あのペースでショートショートを書いてらっしゃるの?それもあのクオリティーで。
つくづく才能のある人なんだなあと感服します。
もう立派な作家さんですね。応援してます。( ^-^)
by 九子 (2016-09-08 00:30) 

mu-ran

心に深く響きます。
by mu-ran (2016-09-30 20:18) 

九子

mu-ranさん、コメント有難うございました。
今回の内容は飛躍しすぎていて伝わり難いなと感じていましたが、mu-ranさんにそうおっしゃって頂けて嬉しいです。
mu-ranさんのように何十年もヨーロッパに滞在されるのとはわけが違いますが、たとえ数年でも、若い頃に外国に住んだり働いたりする経験を積むことは次男の人生にとって、とても貴重な体験だという事に、やっと気づきました。応援してやろうと思います。
by 九子 (2016-10-01 21:04) 

Hirosuke

マエストロ村中大祐さん茶会に参加しました。(3回目)

順番に自己紹介を促されて僕は言いました。
「初めて指揮者mu-ranさんを知ったのは恐らく九子さんブログのコメント欄で…」
すると村中さんが笠原十兵衛薬局を説明し始めました。

ご縁に感謝します。

by Hirosuke (2016-10-03 01:03) 

九子

Hirosukeさん、お茶会に出られたのですね!
楽しかったでしょう。私も一度だけ出して頂きました。

そうでしたか。それはびっくり!!
感謝のサプライズです。

mu-ranさんはきっとHirosukeさんといろいろ音楽のお話が出来るのを楽しみにしていらっしゃるのだと思いますよ。私なんかまったくの音楽オンチですが、それでも、誰のいう事も受け入れて、咀嚼して、身になさる大きな器をもった方だと思います。

15日は私もM氏と伺う予定です。お会いできるでしょうか?( ^-^)
by 九子 (2016-10-03 13:25) 

Hirosuke

休みは(日)と月末だけなのです。
年度後半に入り、これからは出掛けるのも難しくなります。
お会い出来ず残念です。

by Hirosuke (2016-10-03 14:01) 

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