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二人の郵便局員   後編

とにかくそうやって、集配科へまわされて今日は非番のWさんと、Oさんが二人で顔を出してくれて、九子はほっと胸をなでおろした。

彼がいつ来るかわからなかったため、「まとまったお金」は家に置かれていた。持ちつけないお金が家の中にある・・・という事は、極めてゆゆしき事態であった。万が一火事にでもなれば、おしまいである。

焼跡で「ここここ!この辺りに『まとまったお金』が確かにあったのよ。」などと騒いでみても、真っ黒な炭と化してしまえば銀行だって信じてくれないであろう。いつもは火事の可能性など考えたこともないのに、にわかに現実味を帯びてくるのが不思議だ。

Wさん、Oさん、そして九子、3人には実は共通点があった。WさんとOさんは高校が同じ、そして九子の次男Sも同じ高校を昨春卒業したところだ。

ところが大きな声では言えないが、Wさんだけは今の長野N大高の前身の長野C高の卒業であった。

ああ、長野C高!かつて長野の町中を肩いからせて歩いていた、他の学校と試験のそりが合わなかった生徒が集まる学校であった。(^^;
しかしN大と準付属高提携をしてからは、だいぶ様子が変わって来たようだった。

Wさん,すまぬ!ここでWさんの悪口を言いたいわけでは決してない。Wさんは前にも書いたように、本当に立派な郵便局員だ。

ただ、最初にWさんが「え~っ?息子さん、長野N大高?そうなんだあ~。オレと同じじゃん。後輩かあ。なんか親近感感じちゃうなあ。」と見るからに人の良よさそうな笑顔を浮かべて、嬉しそうにそう言った時、「そうなのお?偶然ねえ。」と言いながら、九子は無意識に指折り数えてしまった。

え~と、彼はたぶん何歳?・・・っていうとお・・・。
九子の指が見えたのかどうかは知らない。(^^;
その時Wさんがぽつんと言った。「まあ、オレの頃は長野C高って名前だったんだけどね。」

思わず笑いをこらえてしまった九子の狭量を、どうかなじって欲しい。

次男Sは、実は兄妹一のスマートな奴なのだ。スマートという日本語と、スマート=頭が良いという英語の両方のスマートさで、一応我が家の期待の星だった。
五人も子供がいるんだもの。一人くらいそういうのがいなくっちゃ、九子の苦労(?)は報われない。

その期待の星が、勉強不足がたたり、長野一の進学高の受験に失敗して、入った先が長野N大高だったのである。

Wさんの名誉のために言っておく。彼はもうちょっとの頑張りで、推薦でN大へ進めば進める成績でありながら、敢えて就職の道を選んだ。まあ、勉強が嫌いだったのだそうだ。

現在長野N大高からは全校生徒の半数以上の約200人がN大に進むことが出来る。だが当時の長野C高からは、たぶんN大へ進むのは限られた人数であったに違いない。

そしてOさんも、N大進学組であった。そしてかたや高卒、かたや大卒であっても、高校の先輩後輩という上下関係はそのまま維持され、また性格的な要因も手伝って(^^;、二人の身分関係は傍から見ても歴然としていた。

またしても話が脱線したようだが、とにかくWさんの指図で、Oさんは「まとまったお金」を今後数年分の積み立て金として使うように書類を整えてくれている。

Oさんのすることは、どこか九子に似ている・・・と見ているとつくづくそう思う。

書類を作るとき、話しかけられると手が止まる。それをWさんがすかさず注意する。

「あのさあ、話しながら、手動かすってこと出来ないわけエ?もう君も3年もやってるんだからさあ・・・。」

「良く言われるんですよね、それ。でも、僕、なかなか出来なくて・・・。」

「あたしもそうだから良くわかるわ。」と九子。そして広がる連帯感・・・。(^^;

ようやく書類と計算をし終わって、では本日はこれこれの金額を頂戴いたします・・・とOさん。

九子が「じゃあ、そこにある「まとまったお金」の束から取ってください。」と言うと、四万円だけを2回数えて「はい、たしかに○十六万円お預かりしました。」と言うOさん。

その後ろで、慌てたように、本当に○十六万円が確かにあるかどうか、一枚一枚数えているWさん。

Oさんにはその姿は目に入らないだろうが、なるほどなあと九子は肯く。

私だって、たぶんあの年頃には同じ事してたわ。(さすがに今はもう少し大人になったけど・・・。(^^;)

まとまったお金が、本当にきっかりまとまったお金かどうかわからないんだもの。ひょっとしたら、誰かが1枚や2枚くすねてるかもしれない。そういうこと考えたら、やっぱりWさんみたいに、手間がかかっても一枚一枚数えなくっちゃ。

ますますOさんに親近感が湧いてくる九子なのであった。(^^;

「それはそうとさあ、WさんとTさんって、そり合わないでしょう・・・。」突然の九子の確信に満ちた言葉に、いつも落ち着き払ってるWさんが少々たじろいだ感じで「そんなことないっすよお。」と答える。

そこですかさず反応したのはOさんであった。

「二人の会話って、聞いてるととっても面白いです。漫才みたいで・・・。
( ^-^)」

「してやったり!」みたいな、満足げなOさんの様子に、「まんざらはずれでもなかったかな?」と九子は思う。

お陰で向こう2年位は、月々の掛け金が軽減され、ほっとしているところへ、さすが元保険の達人のWさんが一言!

「大部楽になったところで、すみませんが一本だけ新しいの、最低で良いから入っていただけませんかねえ。」

いろいろ世話になってる手前、無碍に断る訳にもいかず、「そうねえ。」と承諾してしまう九子。

やつはやっぱり、敏腕保険マンだったのか!!

でもWさんの次の一言に、彼の男義を感じた。

「おい、O君。こちらで新しくかけて頂く分を上へ報告するときは、ちゃんと私が一人で契約してきましたって報告すんだぞ。くれぐれも、Wさんに助けてもらいましたなんていうんじゃないぞ!」


そして12月の始め、子供達の大好物のジュースの缶詰がお歳暮で届いた。差出人は、「えっ?中央郵便局Wさん?」

郵便局の人からお歳暮を頂くなんて始めてだからびっくりした。慌ててお礼の電話をした。

「いつもお世話になってるから気持ち贈ってみたんすよ。わざわざ電話もらうようなことじゃないっすよ。でも、喜んでもらってこっちも嬉しいけど・・・。」

「あら、だって、これTデパートの包み紙じゃない。困るわあ、そんな。もしこれが、パチンコの景品だったら喜んで受け取るけど・・・。(Wさんは、実はパチプロであった。(^^;)」

「あっ、それそれ!そういうことにしといて下さい。」



「学校の優等生、社会の優等生にあらず。」
祖父の言葉が正しかったことを証明する人がここにも一人いた。( ^-^)

(ジュースにつられたわけでは決してない。(^^;)
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