SSブログ

あさま号にて [<正統、明るいダメ母編>]

その朝長野は、凍てつくような寒さだった。

めったにスカートなどはかない九子であったが、上京するとなればいつものおばさんファッションと言う訳には行かない。(^^;

九子が心なしか不機嫌だったのは、寒さのせいばかりではなかった。

いつもなら旅行好きな三男Yのおススメ通り、朝6時台の電車に乗る事が条件で、長野東京間往復が9900円と、普通に買うより五千円も安くなる東京週末フリー切符を買うところなのだが、三男Yが間際に買いに行ったため、指定席が取れず、割引切符が取れなかったのである。

何が嫌いかといって、定価で物を買うのは損したみたいな気分になる九子であるゆえ(^^;、虫の居所は確かに悪かった。

「Yのやつ!だから、『早く買いに行ってね!』って言いつけといたのに・・・・。」

九子さん、あなたいつもパパさんに言ってたよね。
「人に物頼んだら、絶対結果に文句言っちゃいけないんだよ。文句言うくらいなら、自分でやりなよ。」

その言葉、そのままあなたにお返し致します。(^^;


やっと扉が開いて、並んでいた人々が順々に乗りこむ。
長野オリンピックと時を同じくして開業した新幹線に、九子は長い間乗る事がなかったが、ここへ来て立て続けに乗る用事が出来た。

北陸新幹線開業のあかつきならいざ知らず、長野止まりの現状では、始発の長野駅で乗れないと言う事はまずない。

二人掛けの座席の窓際に、九子は急ぎ乗りこむ。
とりあえず席は確保した。ほっ。( ^-^)

出発の時間が迫ってくると、空いた座席はほとんど無くなる。
そこへ「ここ空いてますか?」と、たぶん年の頃なら九子と似たり寄ったりの女性が・・・。

「どうぞ!」と九子はよそ行きの笑顔。( ^-^)

着くなり女性は、足元にどんっ!と重そうな紙袋を置く。
一番上に載っているのは、新聞紙にくるまれた生の独活(うど)か何か。
彼女が作ったものだろうか?

「これから娘の所へ行くところなんですよ。この荷物、すごいでしょ?」

女性は屈託無く話しかけて来る。
九子は、心の中で困ったなと思う。

何しろ九子は、あんまりおしゃべりが得意という訳ではない。(ホントよ、ほんと。(^^;)
たかが1時間と少しと言えど、一応読みたい本も持ってきたし、このおばさんのおしゃべりに付き合ってたら、なんだか何にも出来ないうちに東京に着いてしまいそう。

言うまでも無いが、九子もこの女性も、最初に言ったように同年輩なのである。
自分はおばさんでは断じて無い!と信じ込んでいるくせに、よそ様は「おばさん」なのである。
この矛盾に、本人はあんまり気づいていない。(^^;

九子はにっこりと微笑むと、無言で外を見る。
これが即ち、九子の出した結論である。
曰く、「会話はちょっと・・・・。ごめんなさいね。」

隣の彼女もすぐに了解し、無言の時間が始まる。

するとなにやら悩み出すのが、九子の優柔不断な性格なのだ。
「やっぱ悪かったかなあ・・・。今ならまだ話しかけられるよ。定番通り『良いお天気ですねえ。』でもいいし『娘さんどこにお住まいですか?』でもいいよね。う~ん。でもなあ・・・。」

だんだん外を見てるのにも疲れて来た。
そうだ!やっぱり本を読もうか・・・。
でもなあ、そうすると会話の機会は永遠に失われる訳だ・・・。
でもまあっ、いいか!

意を決して九子は、おもむろにバックの中から本を取りだす。
本はご存知、リーダーの条件であった。( ^-^)

しかしこういう状況に陥ると、がぜん自意識過剰になって、本に集中できない九子である。

え~と、書き出しは面白かったのに、そっから先はイマイチな本だねえ。
(本のせいにするな!(^^;)

ああ、隣の彼女も足元見つめて退屈そうにしているよ。
やっぱ、話しかけるべきだったよねえ。
だけど今となっては、きっかけって言うもんが見つからない。

それにしてもこんなに野菜ばっかり持っていって、娘さん一人で調理出来るんだろうか?
独活(うど)なんて、うちの子供達、食べたこともないよ、きっと。(^^;

考えて見れば話すことはいくらだってあるのだ。
もともと同世代だ。子供だっておんなじくらいだろうから、きっと会話は盛り上がったよ。

そのうち九子の心に、途方も無い考えが芽生える。
「ひょっとしたら、ひょっとして、この人ってとっても有名な評論家さんとか、その道の達人主婦とか(その道ってどの道?(^^;)、九子が足元にも及ばないような地位と身分の人で、もしここで会話が成立してさえ居たら、思いもよらない展開が期待されてたかも・・・・。」

う~ん。う~ん。どうしよう。どこでどうやって話しかけよう。
こうなるともう、読書どころではない。

その先更に悶々とする事、数十分。


彼女は、大宮駅で降りて行った。深々とした会釈を最後に・・・。

あ~あ、行っちゃったよ~。
なんか、どっと疲れたね。
九子は崩れるように、あさま号のリクライニングの座席にもたれかかる。

「チャンスの神様の・・・・・後ろ髪は短い!」だったっけ?
昔子供達が小学校に居た頃、副校長先生がそんな話しをされていた。

チャンスと言うのは急いでつかまえないと、後から追いかけても決して掴めない。

そんなチャンスを、九子は何度逃してきただろう。
そして逃したチャンスの背中というのは、やけに大きく見えるんだよね。

ねえ、あの時のお隣さん。
2月26日土曜日、長野発朝7時50分、あさま2号東京行き、自由席禁煙車両で、大宮で降りた女性!

ああ、あの時隣に座った美人(^^;がひょっとしたらこの日記を書いてる九子さんって人に違いないわ!と思い当たったあなた!(誰がそんなこと思い当たるか!(^^;)

もしこの日記を読んでいらしたら、どうぞ九子にご連絡下さい。
あなたがもしかして有名人であった場合は尚の事。(^^;
雲切目薬をプレゼント致します!m(_ _)m

・・・・・・・・って、ダメ?
その人が、マイナーなこの日記を読んでくれる確率ってもんを全然考えてない?
やっぱり・・・・。(^^;
nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

よぽぽ

[縁は自然とつながるものです。]
「後悔さきにたたず」とも言いますから…。

>チャンスと言うのは急いでつかまえないと、後から追いかけても決して掴めない。

と言われればそうかもしれませんが、こと人のご縁というのは、不思議なものです。本当にご縁のある方は、またいつぞやの機会にお会いすることもあるのではないでしょうか。
何かのきっかけで日記を読んでくださるかもしれません。
そのときはしっかりチャンスをつかまえましょう。(^^;

ちなみに私、生まれてからこのかた、長野新幹線はおろか、新幹線と呼ばれるものに乗ったことがありません。
それも、生まれる前の年に東海道新幹線が開通していたにも関わらずです。(-_-;
うちの夫に
「それはもう、国宝級だから一生乗るな!」
と言われてます…。
by よぽぽ (2005-03-13 22:38) 

九子

[そうかもしれませんね。( ^-^)]
確かに、偶然が2度重なる事って、なさそうで結構あったりしますよね。
そして2度目の時は、「不思議な御縁」を感じますよね。( ^-^)

>ちなみに私、生まれてからこのかた、長野新幹線はおろか、新幹線と呼ばれるものに乗ったことがありません。

え~っ!これはびっくりです。
修学旅行とかでも乗らなかったの?
確かに国宝級に珍しいかも・・・。

でも、一生乗るな!はひどいわよねえ。(^^;
by 九子 (2005-03-14 21:01) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

ごくせんの秘密東京駅にて ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。