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勝負師にはなれない [<薬のこと、ダメ薬剤師のこと、家のこと>]


九子の出来すぎ母は腹の据わった人だったときたさんがよく言う。

「あの小さい身体でさあ、ちょこちょこ動いてよく働いて、そうかと思えば出るところへ出れば度胸が良くて堂々としていた。ありゃあ大したもんだった。男に生まれていりゃあどんなに良かったかなあ。」



確かに母は勝気だった。ひるむという事がなかったし、後を振り返る事もなかった。

そして博打好きだった。(^^;;



九子がM氏と結婚して家族が4人になり、車の運転手があらわれて(^^;;あちこち出かけられるようになったことも母の楽しみの一つだったが、何よりうちの中で家族マージャンが出来るようになった事に目をらんらんと輝かした。そしていつも言うのだった。「ねえ、タダなんかでやっても面白くないから何か賭けようよ。」

そしてお堅い父にたしなめられるというのが常だった。



プロレス、プロ野球、バレーにテニス。相撲はなぜか嫌いだったが、勝ち負けのはっきりしたスポーツは全て大好きでテレビにかじりついて一人で騒ぎながら見ていた。



株も大好きだった。好きではあったが見事になんの理論も無く、株屋の言う事だけを頼りに何百万かそれ以上の博打に打って出た。信用買いというのもやっていた。期限付きで元手の10倍のお金を動かす事が出来るというやつだ。今でもまだあるのだろうか。

案の定かなりの損をして、それ以来やらなくなったようだ。



どちらにせよ売ったり買ったりしてお金を手にするのが楽しみだった訳だ。

本当にお金そのものの好きな人で、古銭とか古い紙幣とかも箱いっぱい束にして取ってあった。



配当で手堅く稼ぐというのは一番嫌っていた。

まあ所詮博打だからして、そんなもん長い目で見れば儲かるはずはない。(^^;;



母は高価な買い物も好きだったので、九子が一度も袖を通した事が無い名だたる作家の着物だとか、とても普段には使えない宝石だとか、一応ものとして、形としては残った。

何のことはない。現金が要らない品物に化けただけだ。



現金で残してもらったほうがどれだけよかったかと今は恨めしく思う。(^^;;





難しいことは父母に任せて後の方でのうのうとしていればよかった薬局の一人娘は、父母を亡くして否が応でも前に出なければならなくなった。



いつか誰かに聞いたことがあるけれど、日本はまだまだ男社会だから女一人の店は軽く見られる。

行政でもなんでも、女一人だとわかると掌を返したように高飛車になるということだ。



その真偽のほどはまだよくわからないけれど、時には闘う姿勢を見せる事も必要なのかもしれないと思う。



闘うと言ってもしがない薬局の場合、もちろん喧嘩することではなくて交渉することだ。

まあ主として値段交渉。何のことはない。営業職の人なら毎日やってることだと思う。



雲切百草丸が風前の灯火だ。

原料のオウバクの高騰と人件費の値上げなどなど。

それと飲み薬だから例のネット販売規制にひっかかっていて、「第二種」の表示をするために新たに箱を作り直さねばならなくなった。 その上ネットで売れなくなったら弱り目にたたり目だ。

(涙目にかゆみ目なら雲切目薬!(^^;;)



ここのところ百草丸はスイッチOTCと呼ばれるもともとは医者向けだった薬が少し濃度を下げて一般に売られるようになった薬たち(たとえばガスター10とか)に押されて、根強いファンが居て下さる一方で売り上げは下降気味だった。



母が売ってた頃はまだ今の倍以上は売れていたから、注文単位だってずっと多かった。



自慢じゃないが商売には身の入らない九子のこととて(^^;;、母亡き後は作ってもらってる量はなるほど雀の涙である。



今までその量で作ってくれていたのが不思議みたいな話なのだが、いよいよここへ来て値上がりするのだと言う。



いつも日焼けした顔にエネルギーをたぎらした木曽からやってくる製薬会社のHさんはその時、値上がりの話はした

けれど、現在500円と1000円2種類ある製品をどちらか一方にして欲しいと切り出した。



瞬時に1000円の方を残してもらうように頼んだ。

そのほうが作ってくれる側にしても手間が少なくて儲けが大きいので有難かろうと思ったからだ。



このご時世に買って下さる人も多い小さい包装をなくしてしまうのは忍びなかったが、背に腹は変えられないというやつだ。



もちろんそうすることでてっきり値上がり分は相殺され、元通りの価格で入るのだと思い込んでいた。



Hさんは母の代から何十年もうちに来てくれてる人で、話はいつも口頭で済んでいた。



それから数ヶ月して、Hさんがまた店頭に現れた。いよいよ新しい1000円の雲切百草丸が入ってくると言う。「明日荷物が入ると思いますんで、一本○○○円ですが、よろしくお願いします。」



「えっ?○○○円?」

ぎょっとした。今までの仕入れ値のざっと2倍ほどの価格で、儲けなどほとんど無いと言ってもいい。



「すみませんが○○○円というのは聞いてません!いきなり仕入れが倍になるなんてありえない!そんな値段だって事前に聞いていたらとっくにお断りしたはずです!申し訳ありませんが明日搬入して頂いてもお支払いはしばらくさせて頂くつもりはありません!」



という具合にエクスクラメーションマークが立て続けに付いた九子の言葉に慌てたのはH氏の方だった。

いつもへらへらしてる(^^;;九子から、そんな厳しい言葉が飛び出すとは思ってもいなかったようだ。



H氏よ、甘いな。九子を怒らせると怖いのである。(^^;;

それに、今では笠原十兵衛薬局の命運が九子の肩にかかってるのである。昔の九子とは訳がちがうのであるぞよ。





交渉の結果今回の仕入れ値は以前よりも上がってしまったが、「まあ仕方ないか。」と思える金額で落ち着いた。

その代わり次の製品からはほとんど儲けなしである。





「あ~あ。しんどかった。母はこういうこと、日常茶飯事でやっていたんだなあ。でも九子もちょっとはかっこよかったかも・・。(^^;;」



などと思ってるうちはまだ良かった。そのうち胃がきりきりしてきて、胸も苦しくなった。

終いには動くのも嫌になって、ウツの時みたいにコタツにこもってじっとしていた。(^^;;

夜あった会合も欠席した。



そうなんだよなあ。慣れないことはしない方がいい。

人一倍の自意識過剰人間だから、目立つ事好きなくせに(^^;;その後遅れてショックが来る。



確か前もこんなことあったなあと思い出せば、もう何年も前の父の選挙の時、よせばいいのに父の前座で演説して結構うまく行って有頂天になって・・。その後きりきり胃が痛くなって困った。





人間というものは何でも新しいことには緊張する。

もしも九子がこういう経験を毎日のようにくり返し積み上げていけば、いつかは平気で交渉できるようになるのだろうか。たぶんなるのだろう。



だけれども、九子はそうなりたくない。いや、そうならなくてもいいと思う。

もちろんウツを持ってる人間と言う事もある。丁々発止の綱渡りは肝が縮む。



もともと人一倍小心者である。

坐禅を始めたのもびくびくおどおど生きている自分自身に嫌気がさしたからだ。



坐禅をするとその時々の最善の行動が自然に出来るようになると無形老師に教えられ、なるほどその通り、生まれ変ったように自信を持って行動出来るようになった。



だけどこれをとても毎日続けるエネルギーは無い。

怒鳴る方は気持ちが良くても怒鳴られる方は散々だ。

怒鳴られる方の悲哀は、甘やかされて育った家付き娘ではあっても、感じる時は感じるんである。





母などはわざと怒って見せた。怒りの感情を交渉の道具に使っていた。

彼女は本当に喜怒哀楽が激しかったが、本当の感情を隠して外見を取り繕うことも上手かった。



バカ正直だけが取り得の九子にそんな芸当は出来ない。どこの誰が見てるかもしれないブログにこんな事書いてる事からして常軌を逸している。(^^;;





善良なる日本人を愛してやまない九子は、また、善良なる日本人の一人として「騙すなら騙されるほうがまし」という哲学を尊重する。





そうか!!だから九子はだまされやすいのか?(^^;;(^^;;



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コメント 4

あずーる

[雲切百草丸も目薬ですか?]
飲み薬のガスターがでてきたから胃薬かしら?

雲切ブランドの付加価値があがるような
キャッチコピーを考えてはどうでしょう?
昔ながらのお薬のほうが体にはいいような気がしています。

九子さんは、目立ちたがりとは驚きでした。
ばか正直って、いいところだと思います。私もそうだから自分のことを正当化しているかも。^^
でも、正直者が馬鹿をみるっていう最近の世の中、どうかしていますよね。ブリ’へ’
by あずーる (2009-03-03 15:52) 

eiko

[今晩は!]
九子さんのお母様は、実業家なんですね^^
商売をしておれば、
色んな駆け引きや大博打を打つこともありで、肝っ玉が
太くないとやってられませんよねぇー。

デカイお母様だったから、跡をつぐ九子さんも大変ですね

「騙すより騙される方がまし」う~ん、^^九子さんらしい。
by eiko (2009-03-03 23:17) 

九子

[あずーるさん( ^-^)]
あっ、ごめんなさいね。雲切百草丸は胃腸の薬です。
雲切目薬はお陰様で第三種なのでネット販売の規制にはひっかからないのですが、百草丸は飲み薬ですから二種なんですよ。

>雲切ブランドの付加価値があがるような
キャッチコピーを考えてはどうでしょう?

おお、あずーるさん、素晴らしいアイデア!
考えてみればいくらだって販売促進の方法はあるんですよね。
やる気が足りないだけ・・。(^^;;

>九子さんは、目立ちたがりとは驚きでした。
あら、そうでした?
まあ客観的に見るとそんな気がします。もちろんそうでない一面もあるのですが・・。(^^;;

>でも、正直者が馬鹿をみるっていう最近の世の中、どうかしていますよね。

まったくもってその通り!!
正直者が馬鹿をみる時代になってしまったら、日本人が長い間かかって培ってきた美意識と秩序が崩壊するってことですものね。
子や孫の時代にも美しい国を残して行きたいです。
(って、安倍元総理か。(^^;;)
by 九子 (2009-03-04 16:45) 

九子

[eikoさん!( ^-^)]
はい。母は商売人でした。実業家というのはたぶん違います。(^^;;

確かに母と同じようにやろうと思ったら体がいくつあっても足りませんから、最初からそれは諦めています。

母よりももしかしたら九子のほうが上と思えるのは、強運だけかな?(^^;;
by 九子 (2009-03-04 17:00) 

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