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とむらい

その夜活禅寺のネコは、やけにまとわりついて来た。

まるで、心の風穴を埋めようとするように・・・・。



活禅寺とは、九子が通いつめている禅寺である。

通いつめている・・・と言えたのは、実は7年ほど前まで・・・。

うつ病がひどくなってからは、数ヶ月単位で休んだり、今では週に2日ほど行くだけという怠けぶりだ。



朝と違って、夜のお寺はどこか寂しい。木枯らしが冷たくなる季節はなおさらだ。



黒猫は、いつもお寺の主のように、我がもの顔で練り歩く。付かず、離れず、そして決して媚びる事はない・・・・。





読経と坐禅の間の、皆の緊張が緩んで「こんばんわあ」などという挨拶があちらこちらで交される時、権大(ごんだい)和尚さまが神妙な声でこうおっしゃった。



「今日、ももが死んでね・・・。」



ももというのは、お寺の犬である。

兄妹みたいに良く似た、洋犬の混じった雑種のうち、いつも元気に吠えていて、人が通ると必ず出てくる律儀なやつがジロ。そのジロのかたわらにひっそりと座り、めったに動くことの無いのがももであった。



「最近調子が悪かったんだ。さっき病院から電話があってね・・・。もう11歳だったからねえ。」



11歳か・・・・。九子は指折り数えた。



活禅寺の創立者、徹禅無形大師が遷化(せんげ・・亡くなること)されてから9年。お寺には、無形大師を知らない新しい入門者も増えた。ももは、わずかとは言え、大師と同じ時代を生きた生き証人なのである。

その、ももが死んだ・・・・。



坐禅が終わって下山するときも、ネコはやっぱり私を見つけると、にじりよっては身体をすり寄せてきた。

何度も、何度も、何度も・・・。



事務所で参禅者名簿に記帳するとき、今度は別の権大和尚さまがいらした。



権大和尚さまというのは、活禅寺で上から2番目に修行を積まれた偉い和尚さまのことだ。今お寺に二人いらっしゃる。一番偉い管長さまはめったにお会いする事はないので、お寺でお会いする中では、一番偉い和尚さまだ。



「和尚さま、ももが死んだんですってね。動物の本能で、ネコもわかるんでしょうか。なんかいつもと違いますよ。ずいぶん人恋しそうで・・・。」



権大和尚さまの言葉は、びっくりするほど現実的だった。

「なあに、畜生は食欲と性欲だけですよ・・・。」



思わず笑ってしまった。

それはそうなんでしょうけど、あんまりそれじゃあネコだって、身もふたもないんじゃあないでしょうかあ・・・(^^;



駐車場へ通じる解脱橋(げだつばし」)へ差しかかっても、ネコはやっぱりついて来た。

今度は歩くのを妨げるばかりでなく、ころんと上を向いてはなでるのを強要して来たりもした。





「あっ!!!」



九子は大変なことを思い出した。

今日の夕食・・・。



M氏が留守なので、この時とばかり、M氏の嫌いなバンバンチーをした。いわゆる中華風鶏ときゅうりの甘辛味噌がけである。

そして、鳥の胸肉を3枚ほど、手で割いた・・・。

その匂いだったか、猫がかぎつけたのは・・・・・・。(^^;



活禅寺の権大和尚さまの言うことは、いつでも正しいのである。( ^-^)
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