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ネット詩人・ネット歌人 [<九子の万華鏡>]

ネットの海の中に住み始めてから、もうだいぶ長い時間が経った。
岸で眺めているだけの時には決して味わえなかった胸のときめきを何度も味わった。

嬉しいときめきも、悲しいときめきも・・・。

気が付けば一人笑いしているような喜びの時もあったし、胃の辺りが締め付けられて、呼吸が出来なくなるほどの怒りがこみあげて来た事もある。

それでも岸に上がらずに留まっているのだから、海はどうやら麻薬のようなものらしい。


始めて媚薬を運んで来た人は、内田上爾さんという詩人だった。
今は書きこめない「明るい掲示板」の来客者名簿には、まだ彼の痕跡が残る。

媚薬は掲示板の書きこみと言う形で、無造作に投げ込まれた。
すなわち、彼の詩が数篇。

何も知らなかった私は、「書きこみ有難うございました。」と返事をし、ご丁寧に彼の掲示板にまで赴いて「来てくださって有難う。」と書いた。

もし私の認識が違っていなければ、彼らはたぶん「ネット詩人」と呼ばれる。

無造作に、恐らく不特定多数の人々に勝手に自分の作品を送りつける。
だから、「来てくださって有難う。」は的外れだったのだ。
送りつけた彼自身が、誰に送ったかの記憶はないのだから・・・。

しかし送りつけられたことによって、作品は日の目を見、心ある人の評価を受ける。
彼の目的が達成されていることは、今のアクセス数40万件が何よりも雄弁に物語る。

もしこれが、商品のPRだったらどうだろう?
よほど寛容な管理者以外、即座に消されていたはずだ。


うつ病歌人と名乗る桜井凛香さんという人から、「暗い掲示板」に始めて書きこみを頂いたのは今年の6月だ。

「同じように悩んでいる方にぜひ読んでいただきたい。」とあった。
少なくても「うつ病掲示板」を選んで送られたもののようだ。

彼女の歌を始めて見た時、斎藤史さんの歌に触れた時のような新しさを覚えた。
自分のすべてをさらけ出す彼女の強さを見た。

私が最初に見たのはbacknumberにある 「生き地獄めぐり」だったと思う。

「境界例」そのひとことで片付けられストンとすきまにおっこちました


境界例、あるいは境界性人格障害=ボーダーライン
そう診断される人々がいる。

そして彼らの評価はおしなべて低い。

いわく、知能指数は高いが、人を困らせる問題児。
見捨てられることを極度に怖れ、人に依存し、あるとき急に冷たくされたと勝手に思い込んで、掌を返したように怒りをあらわす。
だから、彼らは精神科医泣かせである・・・・・・・。

うつ病は他人に話せても、もし境界例だったら、そう診断されたとしたら、とても人には話せない・・・と私は思う。
自分の中の良い子ちゃんが、「そんなこと話したら生き難くなるよ。」とささやく。

「うつ病になる人は良い人」「境界例は困った人」という風に、だいたい相場が決まっているからだ。
誰でも困った人とはつきあいたくないのだから、なかなか自分から境界例と言い出す人は居ない。

そういう人々が、「境界例」と診断されたときのさまざまに噴出する感情の一端が、この歌で、極めてお行儀良く収まった言葉の中に垣間見えた気がする。

そして心の中で、小さくごめんねを言う。


彼女の最新の歌は、悲しいことにお母様の死を歌ったもののようだ。
まだ20代前半でお母様を亡くされる。
長男とあまり変わらない彼女の年齢が痛々しい。

彼女は「鬱宇宙浮遊」で第七回フーコー短歌賞優秀賞を受賞した。

その中で、林あまりさんという選者の方が「ペンネームもタイトルも、せっかくの作品を壊してしまっている。作品にはもっと重みがある。」と言われている。

確かに「うつ病歌人」というレッテル無しでも、十分に一人歩き出来る力量を持った人だと私も思う。

(遅れ馳せながら、彼女のサイトは日記のリンク集・・お気に入り15・・でも紹介させて頂いています。)



ネットの海には色とりどりの美しい生き物もたくさんいれば、棘のあるイソギンチャクや、毒のあるふぐや、あっという間に命を奪う恐ろしい人食いザメだって住んでいる。

しかも、みんなどれも同じように優しげな顔つきをしているから始末が悪い。

怪しげなメールは開かない。それらしいサイトには足を踏み入れない。
せいぜい出来ることと言ったら、そんなことだけだ。

科学技術が進んで、ウイルスソフトだのファイヤーウォールだの頼もしい武器はたくさん作られた。

だが最後に身を守るのは、皮肉なことに、人間の本能的な怖れであったり、良識という極めて非科学的なものだったりする。
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桜井凛香

[光栄です。]
自分のことが日記に書かれているので、
いや、びっくり致しました。
ホームページの短歌も、ずっと読んでいただいているようで、
本当にありがとうございます。
SR31に訪れてくださる方の心に、
1首でも残るような短歌を、書ければいいなって思っています。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
by 桜井凛香 (2004-09-21 23:24) 

九子

[いや、そんな風に言われちゃうと・・・(^^;]
凛香さん、こんにちわ。

そんな、名も無い九子の日記に書かれたくらいで、そんなに光栄に思わないで下さい。

それより貴女は、いろいろなもっと晴れがましい場所で、賞をたくさん取っていらっしゃる方ではないですか!

その方が、ずっと世間に認められたってことですよ。( ^-^)

はい。短歌は気ままに読ませて頂いていますが、深い読みが出来ているわけではないので・・・。(^^;

また時間を取ってしっかり読ませて頂きますね。

こちらこそ、これからもよろしくお願いします。( ^-^)
by 九子 (2004-09-22 12:12) 

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