カンガルーのハッチの話 [<正統、明るいダメ母編>]
九子は割かしどこかへ行きたい欲求の少ない人間である。
それならば日常生活の中に楽しみを見つける事の上手な人間か・・・・・・などと言うつもりはさらさらない。(^^;;
それどころか、庭先に何の花が咲こうが、どんな鳥が来ようが、はたまた草が伸び放題であろうが、そういう事で目に見えない季節を感ずるとか、そう言った類の感性はからっきし持ち合わせておらず、いっそのこと昼間っから年代物のカーテンで覆っておいた方が、母が世話をしなくなって以来荒れ放題の庭が見えなくていいわよね、などと考えている無粋極まりない人間である。
そういう九子が、珍しく行きたくてたまらない場所があった。
須坂市の臥竜公園の中にある動物園である。
カンガルーの「ハッチ」のいる動物園という方が通りがいいかもしれない。
子供達の小さい頃、臥竜公園は一日を過すのに絶好の場所だった。
長野市内からほんの車で30分くらい。
ハッチで有名になる以前、「動物園」は実は添え物で、養蚕業で有名だった土地の豪商が、たぶん京都の雅(みやび)に似せて作ったであろう庭園と、四季それぞれに彩りを変えるこれもたぶんに人工的にさえ見えるおあつらえ向きの高さの小山と、竜の棲むと伝えられた池とが、嫌らしくない華やかさで調和のとれている臥竜公園そのものの方が、むしろ人々に愛されていた。
公園の中には一年中、おでんや団子が食べられる花見小屋みたいなのが何軒か軒を連ねている。
その上にちょっとした遊園地や水族館まであったから、子供達は一日中飽きずに過したものだった。
アカカンガルーのハッチ。
ぐうたら寝てる仕草やら、ぽりぽり股のあたりを掻く仕草で「おやじカンガルーのハッチ」としてつとに有名になり、また、サンドバックを抱き抱える愛嬌者でもある。
少なくとも子供達が小さかった十年前には居なかったか、そんなに有名ではなかったはずだ。
それがここへ来て、志村けんの番組かなんかで嵐のメンバーや青木さやかが世話をして以来、全国区の人気者になった。
お年頃になって神戸の動物園から色白の可愛らしいお嫁さんカンガルーの「クララ」をもらってみたら、そのお嫁さんがすでに他人の子持ちであり、そのなさぬ仲の子を自分の子でないと知ってか知らずか愛しげに見やっているハッチにまたまた同情が集まり・・・・・・・。
そんなこんなで、廃園に追い込まれる寸前だった動物園の救世主として、ハッチは今や地元の名士なのである。
夏休みの頃から行きたい思いを募らせていた九子であったが、ようやくここへ来て出来すぎ母が入院してくれた関係で、日曜の昼間時間が取れてM氏の車で見に来ることが出来たという寸法だ。
今はちょうど季節柄、臥竜公園では菊花展も開催されていたが、久しく来ない間に動物園は様代わりしていた。
以前はたぶん青年で、優雅に我が世の春を謳歌していたに違いない十数羽の孔雀の見事な青緑色の羽が、見るもみすぼらしい茶色に代わり、それでも胸の辺りには、かつての面影を髣髴とさせる錦色がかろうじて残っている。
孔雀に限らず、あの頃はどの動物ももっと若くて活気があったような気がする。
そう感じるのも、感じ取る側もまた同じく年を重ねたせいなのか、などとついつい勘ぐって苦笑する。
ハッチのおりの前だけは、そこだけ時間が止まったように、子供達の歓声や笑い声でさざめいていた。
クララの赤ちゃんが今月中にもおなかの袋から出て来る予定だそうで、時折袋から顔をのぞかせる赤ちゃん人気も手伝って、おりの前は前の人に重なるようにして、わずかの隙間を見つけては首だけ伸ばしたりねじるようにしたりして見ている観客でいっぱいだ。
その人々の群れの中に、九子とM氏もいた。
始めて見るハッチは、テレビの画面で見るそれと寸分違わず、足を広げて寝そべってぐうたらしていた。
クララの方は、小柄で色白の美人カンガルーであり、寝そべるハッチと対象的に、ちょこまか動いて働き者と言った風だった。
しばらく見ていると、ハッチの別の面が見えてくる。
ぐうたらハッチとばかり思っていたが、やおら起きあがって今までと別の場所へ移動してそこでまたぐうたらする。
そしてまたしばらくすると、また違う場所へ移動する。
まるで、どのお客さんからも自分が見えるように気を遣ってでもいるようだ。
見ていた二十分位の間に、何度もそうして移動をし、その上有名になったサンドバックにしがみつく芸もやって見せ、そうしてクララの袋の中の子供にすりよって、いかにも愛しそうに頬ずりなどしている。
「役者だよ、ハッチは!」
そう思って見ると、すべてのぐうたらは計算し尽くされた演技のように思えて来る。
その上、時折見せる遠い目!
ハッチは、ぐうたら足を投げ出しながら、遠い故郷を思うように、また「クララの子供が僕の子で無いことくらい、ちゃんと知ってるよ。」とでも言いたげに、長いまつげの横顔で、じっと考え込むように一点を見つめる。
まるで深遠な哲学者でもあるように・・・・・・。
「そうか、ハッチよ。お前もか・・・。」
九子がどうしてもこの動物園に来たかった訳。
ハッチにどうしても会いたかった、見てみたかった訳、それは・・・・。
ぐうたらなハッチを見て、自分よりもぐうたらな対象物を見て、自分を慰めたかったのよ。
「ほら、九子さん、安心しなさい。あなたよりずっとぐうたらしてるハッチがいるじゃない!」
「負・け・た・!」(^^;;(^^;;(^^;;
カンガルーの話なら、こちらも覗いてね。( ^-^)
それならば日常生活の中に楽しみを見つける事の上手な人間か・・・・・・などと言うつもりはさらさらない。(^^;;
それどころか、庭先に何の花が咲こうが、どんな鳥が来ようが、はたまた草が伸び放題であろうが、そういう事で目に見えない季節を感ずるとか、そう言った類の感性はからっきし持ち合わせておらず、いっそのこと昼間っから年代物のカーテンで覆っておいた方が、母が世話をしなくなって以来荒れ放題の庭が見えなくていいわよね、などと考えている無粋極まりない人間である。
そういう九子が、珍しく行きたくてたまらない場所があった。
須坂市の臥竜公園の中にある動物園である。
カンガルーの「ハッチ」のいる動物園という方が通りがいいかもしれない。
子供達の小さい頃、臥竜公園は一日を過すのに絶好の場所だった。
長野市内からほんの車で30分くらい。
ハッチで有名になる以前、「動物園」は実は添え物で、養蚕業で有名だった土地の豪商が、たぶん京都の雅(みやび)に似せて作ったであろう庭園と、四季それぞれに彩りを変えるこれもたぶんに人工的にさえ見えるおあつらえ向きの高さの小山と、竜の棲むと伝えられた池とが、嫌らしくない華やかさで調和のとれている臥竜公園そのものの方が、むしろ人々に愛されていた。
公園の中には一年中、おでんや団子が食べられる花見小屋みたいなのが何軒か軒を連ねている。
その上にちょっとした遊園地や水族館まであったから、子供達は一日中飽きずに過したものだった。
アカカンガルーのハッチ。
ぐうたら寝てる仕草やら、ぽりぽり股のあたりを掻く仕草で「おやじカンガルーのハッチ」としてつとに有名になり、また、サンドバックを抱き抱える愛嬌者でもある。
少なくとも子供達が小さかった十年前には居なかったか、そんなに有名ではなかったはずだ。
それがここへ来て、志村けんの番組かなんかで嵐のメンバーや青木さやかが世話をして以来、全国区の人気者になった。
お年頃になって神戸の動物園から色白の可愛らしいお嫁さんカンガルーの「クララ」をもらってみたら、そのお嫁さんがすでに他人の子持ちであり、そのなさぬ仲の子を自分の子でないと知ってか知らずか愛しげに見やっているハッチにまたまた同情が集まり・・・・・・・。
そんなこんなで、廃園に追い込まれる寸前だった動物園の救世主として、ハッチは今や地元の名士なのである。
夏休みの頃から行きたい思いを募らせていた九子であったが、ようやくここへ来て出来すぎ母が入院してくれた関係で、日曜の昼間時間が取れてM氏の車で見に来ることが出来たという寸法だ。
今はちょうど季節柄、臥竜公園では菊花展も開催されていたが、久しく来ない間に動物園は様代わりしていた。
以前はたぶん青年で、優雅に我が世の春を謳歌していたに違いない十数羽の孔雀の見事な青緑色の羽が、見るもみすぼらしい茶色に代わり、それでも胸の辺りには、かつての面影を髣髴とさせる錦色がかろうじて残っている。
孔雀に限らず、あの頃はどの動物ももっと若くて活気があったような気がする。
そう感じるのも、感じ取る側もまた同じく年を重ねたせいなのか、などとついつい勘ぐって苦笑する。
ハッチのおりの前だけは、そこだけ時間が止まったように、子供達の歓声や笑い声でさざめいていた。
クララの赤ちゃんが今月中にもおなかの袋から出て来る予定だそうで、時折袋から顔をのぞかせる赤ちゃん人気も手伝って、おりの前は前の人に重なるようにして、わずかの隙間を見つけては首だけ伸ばしたりねじるようにしたりして見ている観客でいっぱいだ。
その人々の群れの中に、九子とM氏もいた。
始めて見るハッチは、テレビの画面で見るそれと寸分違わず、足を広げて寝そべってぐうたらしていた。
クララの方は、小柄で色白の美人カンガルーであり、寝そべるハッチと対象的に、ちょこまか動いて働き者と言った風だった。
しばらく見ていると、ハッチの別の面が見えてくる。
ぐうたらハッチとばかり思っていたが、やおら起きあがって今までと別の場所へ移動してそこでまたぐうたらする。
そしてまたしばらくすると、また違う場所へ移動する。
まるで、どのお客さんからも自分が見えるように気を遣ってでもいるようだ。
見ていた二十分位の間に、何度もそうして移動をし、その上有名になったサンドバックにしがみつく芸もやって見せ、そうしてクララの袋の中の子供にすりよって、いかにも愛しそうに頬ずりなどしている。
「役者だよ、ハッチは!」
そう思って見ると、すべてのぐうたらは計算し尽くされた演技のように思えて来る。
その上、時折見せる遠い目!
ハッチは、ぐうたら足を投げ出しながら、遠い故郷を思うように、また「クララの子供が僕の子で無いことくらい、ちゃんと知ってるよ。」とでも言いたげに、長いまつげの横顔で、じっと考え込むように一点を見つめる。
まるで深遠な哲学者でもあるように・・・・・・。
「そうか、ハッチよ。お前もか・・・。」
九子がどうしてもこの動物園に来たかった訳。
ハッチにどうしても会いたかった、見てみたかった訳、それは・・・・。
ぐうたらなハッチを見て、自分よりもぐうたらな対象物を見て、自分を慰めたかったのよ。
「ほら、九子さん、安心しなさい。あなたよりずっとぐうたらしてるハッチがいるじゃない!」
「負・け・た・!」(^^;;(^^;;(^^;;
カンガルーの話なら、こちらも覗いてね。( ^-^)
[ハッチ、と聞くと・・・]
ママ。
ママ。
きっと会えるよね? 僕。
・・・♪
顔の半分くらいある大きな目に涙をためてそう言っている、
あの表情と声がすぐに頭に浮かんできちゃうんですが。
現代の信濃国のコドモたちは、タイヤに乗ってゆらゆらしている
のんびりしたイメージを思い浮かべてるんですねぇ・・・
浦島太郎の気持ちが分かったような気がする、午後のひととき(^^;
by ねこまにあ (2006-11-08 14:16)
[ありがとうございます]
九子さんコメント有り難うございました。
ハッチは、他の動物達とちがい、
我々人間の映し鏡のようで
本当に見入ってしまいますね。
いろいろと考えさせられてしまいます・・・。
これを機会にまたお邪魔させていただきます。
by 半ぐれ (2006-11-10 13:06)
[ねこまにあさん!( ^-^)]
ハッチ、確かにみつばちハッチが有名でしたよね。( ^-^)
(ねこまにあさんと世代が近いんだぞという事を強調したい九子(^^;;)
こちらのハッチも、癒し効果は抜群ですが、どこやらのブログを読むと、すぐに人にパンチやキックをする暴れん坊の一面もあるとか・・。
ポッケの中の赤ちゃん可愛かったので、いつ出てくるかと楽しみです。( ^-^)
by 九子 (2006-11-10 15:20)
[半ぐれさん!( ^-^)]
わざわざお越し頂いて有難うございます。( ^-^)
先ほど少し前の分を読ませて頂いたのですが、田中知事への辛口コメントとか、わが意を得たり!という感じで嬉しかったです。
絵もお上手だし、多彩な方のようで、無芸大食の私としては大変恥ずかしいのですが(^^;;、同じ信州人としてこれからもよろしくお願い申し上げます。
by 九子 (2006-11-10 15:25)
[私も無芸大食です]
過大な評価をいただきありがとうございます。
私も無芸大食ですよ・・・。
本当はもっともっと辛口の政治的な発言もしたいのですが、
諸般の事情で今はダメです。
by 半ぐれ (2006-11-13 08:54)
[半ぐれさん!( ^-^)]
ご丁寧にコメント頂きましたついでに、大事なお願いをひとつ!
実はそちらにメールをしようと試みたのですが、gooメールというのがいまひとつ厄介で・・・。
もしよろしければ、九子日記の表紙ページ上にある記者名の九子という赤い字をクリックして頂き、たぶん二番目にある最初にそちらのメールアドレスを書き込んで頂くほうの書式でメールを頂戴できたらと存じます。
おわかりにならなければ、右側リンク先の笠原十兵衛薬局の表紙ページにも同じアドレスがあります。
よろしくお願い申し上げます。( ^-^)
by 九子 (2006-11-14 09:59)
[私もぐーたらです]
九子さん、こんにちは。
目薬を買ったsunoです。
私は何でもすぐやっちゃうように見えて、実はものすごくめんどくさがりです。
もう少し付け加えるなら、やりたいことはすぐ実行、やりたくないことはずーっと後回し、たまの休みはパジャマのまま家でゴロゴロ・・・
みんなこんなもんですよね(笑)
でも、別のオスの子を宿したクララを受け入れてるハッチの心の広さはさすがです(笑)。
by suno (2006-11-23 11:54)
[sunoさん、こんばんわ。]
いえいえ。「やりたい事はすぐ実行」というのが出来る時点で、もう尊敬のまなこです。
私のぐうたらは年季が入ってまして、「九子日記」を薬局のHPの表紙にリンクしていない訳がもうお解かりと思いますが(^^;;、誰になんと言われようが開き直って生きております。
本当に思いがけないお知り合いが出来ました。
これからもよろしくお願い申し上げます。( ^-^)
by 九子 (2006-11-24 22:19)