SSブログ

関西弁と関西 [<九子の万華鏡>]


長野県人の九子にとって、関西というのは思ってる以上に遠い存在だ。

まず中心に思い浮かべる大阪という町に土地勘がない。



現在の長野県の中学生は、そしてかつての長野県の高校生は、たぶん一生に一度かもしれない京都、奈 良へ修学旅行に行く。関西に行くのは後にも先にもそれだけっていう人も結構多いはずだ。



九子の手元にある長野県薬剤師会名簿。新卒薬剤師から、上は80歳、90歳の人までの名簿の中に、K薬科大卒の薬剤師さんは数えるほどしか居ない。



そんなことが親子揃って不安になった原因だったのだが、今回N子にくっついてK市に行ってみて、正直思ってたほど時間がかからないのにまず驚いた。



東の方なら東北でも北海道でも、行こうと思えば比較的気楽に行ける。

ところが関西と聞いた途端に足が遠のく。身構える。



実際にはRが居る陸奥(みちのく)の町の方がN子が暮らす事になったK市よりも距離的にはよほど遠いのだけれど・・。



結局は東京圏と大阪圏の違い、東西の文化の身近さの違いが、本来は近いはずの関西を遠く感じさせているのかもしれない。



関東関西を分ける関というのはどこの関なのかあまりはっきりしていないようだが「知るも知らぬも逢坂(あうさかとルビをふっておうさかと読む)の関」という「逢坂」という地名が今の滋賀県に残っていて、そこらあたりが境なのかもしれない。



新幹線の駅で言うと新名古屋までは一応東京アクセント、そこから先でどこから関西弁に変わるのかよくわからないが、さっきの理屈から言えば彦根のあたりなのかな?



関西弁と言うとまず思いつくのが吉本の芸人さんと大阪のおばちゃん。面白いけど四六時中いっしょに居たらなんだか疲れてついていけそうもない感じを抱かせる。



今回K市に行ってみて、あたりまえの事ながら関西弁にもいろいろあることにはじめて気がついた。



本場の「なんでやねん。」を初めて聞いた時には、「大阪のおばちゃんとおんなじ!」と思ったが、K市の人々の言葉には優しい響きがある。



コンビニに入っても、エレベーターに乗っても、必ずと言っていいほど前の人が後ろから入る人間のためにドアを押さえていてくれる。



すれ違う時どちらからともなく自然に出る「すんません。」の会釈。



気のせいか、障害のある人を街で多く見かける感じがして、それを自然体で受けとめる回りの人々。



そして、たまに東京で電車に乗ると必ず見かけたまだ小さい我が子に鋭い言葉を発する眉間にしわをよせたママさんたちの姿がこちらでは見られなかった事。



母と子供はいつもどこでも、愛情いっぱいの笑顔の中に居るように見えた。



もちろん大きな苦難を乗り越えた街であるという特殊事情があるとは思う。でもそれだけではなく、街自体が持っている雅やかな文化、決して関東の荒くれ武者が乗り越えられない懐の深い文化をそこここに感じる事が出来た。



そう。長い間、関西は日本の文化の中心だった。

長い間に培われた教養の凝縮されたものが、言葉づかいであり、マナーであるに違いない。



関西の人々はいい意味でも悪い意味でも、ストレートにものを言う事を避ける傾向があるのだと思う。

と言うか、婉曲表現を使わないことを無粋なこととして軽蔑していたのかもしれない。



その結果が端的にあらわれたのが京都のイケズであり、大阪のお笑い文化なんかも嫌な事も笑いで包み込むという高度な文化のなせる業と見る事も出来る。



N子の大学はたまたまK市でも一番治安の良いと言われる場所に有る。有り難い事だ。

そのせいか女性達はみな一様におしゃれだし、マナーが良いのも生活の豊かさからくる余裕という見方も出来る。



ただ、お金があっても余裕がすぐに育つわけではない。



そこには京の都の文化ばかりではなく、港を介して海外の文化までもを幅広く受け入れてきた人々の度量の広さを感じ取れる。



他人を思いやるというマナーの基本が自然に人々の中に根付いていてさすがだと思う。



女性たちばかりではなく、男性の関西弁も好ましかった。

穏やかでアクがなくてまるい。



初めての土地で大きな買い物も多く、タクシーは頻繁に利用した。

その運転手さんたちがみな目的地のだいぶ手前でメーターを止めて「ほなここいらでとめておきましょか。」と言って、残りはサービスで走って下さる。



それだけ競争が激しくて大変なのかもしれないけれど、中には「私まだこちらの方不慣れですから・・。」と、かなり前でとめて下さった方もいた。



確かにだいぶ遠回りにはなったのだが、悪い気はしない。



そういう優しい関西弁に囲まれてすっかり気を良くしている時に、ガス会社のその人はN子のアパートにやってきた。



学校へ出かけたN子に代わって、九子がガスの検査に立ち会う。



ちょっと固い感じの人だった。

「こちらではゴミはどうやって出せばいいのでしょう?」などと関係無い事を聞いた時も、「青か半透明の袋に入れて。」と必要最小限の言葉が返って来るだけだった。



なんでも杓子定規なこういう人もいるんだなあと九子が思いかけた時、突然その人がこう言った。



「あれ?いいにおいしてますよ。そばがのびてるんと違いますか?だいじょうぶですか?」



そう。その人は最悪のタイミングでやってきたのだ。

チャイムが鳴ったのは、九子が朝ご飯用にコンビニで買ったカップの天そばにお湯を注ぎ終わった時だった。



その一言で空気が変わった。

言葉は魔法だと思った。



もう二度と会う事の無いであろうその人が急に身近に思えた。

その人が帰ってからすっかりのびたおそばをすすったが、全然まずくなかった。

そしてこうしてブログにまで書いてしまった。(^^;;



関西が育んだ文化の中で重要なのは、人と人とのつながりを円滑にするための言葉の技術ではないだろうか。



所詮関東の荒くれ武者の末裔九子などにはとてもとても及ぶもんではない。



nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 7

よぽぽ

[穏やかそうな街でよかたですね]
 関西ですか…
私も関西方面には縁が薄くて
修学旅行もすべて東北方面だったので
関西方面に行ったのは、
母校が甲子園に出場したときに応援に行ったのと
何年かまえにユニバーサルスタジオに
行ったくらいです。

 穏やかそうな街っていいですよね。

>関東の荒くれ武者の末裔九子
なんてとんでもない。
松本にいた当時、長野の人は松本の人に比べて
穏やかだなって思いました。
もっとも山梨の人から比べたら
よっぽど松本の人の方が穏やかですけど…

山梨はこう、なんて言うかもっと
「世知辛い」って感じでしょうか…

「甲州商人」ってすごく軽蔑され感じに使わますし
10年ぶりに山梨に戻ってきた私は
もともと山梨県人であるにも関わらず
山梨の商売の粗雑さに閉口することが
よくあります。

 初めて行ってそれだけ良い印象だった
ということはきっと本当に良い街ということでしょうから
お嬢さんを送り出しても少し安心できますね。
by よぽぽ (2008-04-13 17:25) 

九子

[よぽぽさん!( ^-^)]
はい。K市(って、たぶんバレバレですが。(^^;;)のうるわしさに親子してはまっております。( ^-^)

山梨県人にとってもやっぱり関西は遠いんですね。東京にもっと近いものねえ。

でも修学旅行東北なんですか?びっくりしました。

よぽぽさんの学校も甲子園出たんですね。( ^-^)
あれ、やっぱり嬉しいですよね。

>松本にいた当時、長野の人は松本の人に比べて
穏やかだなって思いました。

本当ですか?

松本にはあらゆる点で勝てないと思い込んでる長野市民なので、そう言われるだけで嬉しいです。( ^-^)

でも私自身は、松本の人でキツイ性格の人ってあんまり知らないのよね。

「甲州商人」ですか?そんな風に言われているの?
こちとら「善光寺商人」はやる気のない見本みたいなもんなので(^^;;、少しは甲州商人を見習いたいものだと思ってます。
( ^-^)
by 九子 (2008-04-14 11:58) 

eiko

[関西と関東]
「東京圏と大阪圏の違い、東西の文化の身近さの違いが、本来は近いはずの関西を遠く感じさせているのかもしれない」

そうかも知れませんね。関東の山友は東北に出かける事が
多いようです。 東北の方が遠いように思うけど。

九子さんの言われる「文化の違い」で関東からすれば関西は
遠いのでしょうね^^ 面白い話です
by eiko (2008-04-16 18:05) 

eiko

[関西弁]
そうそう、私はよく大阪に出かけますヨ。
面白い街で、関西の言葉が好きです。
「そーうやーねん」 なんてのんびりとした口調が
気分をリラックスさせますね~^^

九子さん、いつかお茶でもしまひょうか? 笑
by eiko (2008-04-17 00:15) 

九子

[eikoさん!( ^-^)]
何度もコメント有難う!( ^-^)

そうなんですよね。やっぱり見えない「関」があるみたいなのよね。テレビなんかでも今でこそ関西の芸人さん増えて関西弁聞く機会増えたけど、昔は標準弁アクセントばっかりだったもんね。

eikoさんとこ、地方的には中国地方ですよね。( ^-^)
関西っていう意識ある?
それとも関西っていうと大阪周辺の近畿地方辺りのことになるのかなあ?

そうそう。考えてたんですよ。N子んとこを拠点にしてどっか遊びに行って見ようかなあ・・なんて。

その節は、是非是非一緒にお茶させてなあ。(って、合ってる?)
( ^-^)
by 九子 (2008-04-17 10:09) 

轟 拳一狼

[関西ってのは・・・]
私は一応関西人なんですけど、これほど冷静に関西を分析されると、なんだか照れますね。一応鈴鹿の関から西が関西、箱根の関から東が関東と聞いたことがありますけど。

おっしゃるように関西にもいろいろありまして、私の生まれた神戸、大阪、京都、まったく違う文化があります。妻は奈良出身なので、一応関西人になるのでしょうが、彼女の生まれた村は奈良県でもかなり南にありまして、文化的には非常に独特なものを持っております。彼女の言葉を聞いても、関西よりも紀州、それも南部の熊野地方との関係のほうが深そうです。

ちなみに私の修学旅行は、中学高校ともに長野にスキーに行きました。
by 轟 拳一狼 (2008-05-23 21:43) 

九子

[拳一狼さん!( ^-^)]
>一応鈴鹿の関から西が関西、箱根の関から東が関東と聞いたことがありますけど。
あっ、そうなんですか。鈴鹿ってサーキットがありますよね。三重県でしたっけ。

東京の駅名なら大体わかりますが、大阪、京都となるとさっぱり。
長野には関西の観光客や修学旅行客の皆さんが多く来て下さるのに、もう少し勉強しないといけないようですね。

奥様の故郷に近い熊野というところも修験道なんかで名高い不思議なところなんでしょう?

生まれた土地が人柄を作るという側面は否定できないかもしれませんね。
by 九子 (2008-05-24 00:29) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

N子の行く先死刑について ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。