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モテ男 [<薬のこと、ダメ薬剤師のこと、家のこと>]


前回美人やイケメンの話をしたのだけれど、自分で言うのもおかしいが、少なくとも九子から遡って二代目までは美形続きの我が家であった。

祖父16代十兵衛はうりざね顔の穏やかな(少なくとも表向きは(^^;;)人柄で、平安貴族のようだと言って下さった人もあった。「仏の十兵衛」とも言われたけれど、実のところはご想像にお任せする。(^^;;



16代の妻すゑさんはマリーネデートリッヒ似のこれまた美人だからして、三人の息子もまた美形であっても不思議は無い。



だけれども世の中見回してみると、二枚目俳優と美人女優のカップルであっても、生まれ出た子供はあら、残念!というケースも少なからずあるようだから、我が家の場合はうまく調和が取れた例だろう。



九子の父が長男で下に二人弟が居たが、三人とも美男子だった。

父と一番下はどちらかと言うと父親似で、真ん中のK叔父だけがすゑさんに似ている気がした。K叔父はそう言われるのをなぜか嫌っていたようだった。



K叔父、今回の日記の主人公であるが、頭は兄弟の中で一番良かったけれど、何しろ若い頃は気が小さくて、試験になると上がってしまい旧制中学の試験に4度も落ちたときたさんの評価は低い。



身体も当時から余り丈夫ではなかったので、兵隊に取られないように医者になったと聞いた。



K叔父は三度結婚している。



一度目の結婚はまだ医学生の時で、下宿先の娘さんが薬剤師のSさんで薬局をしており、そこへ転がり込むような形で、まあ養ってもらっていたらしい。



ところがK叔父には忘れられない女性がいたのだ。それが二番目の奥さんになるH叔母さんだった。



K叔父とH叔母さんはとにかく結核が縁で付き合い始めた。



K叔父も結局は戦地に駆り出されたから、その頃結核にかかって療養所で知り合ったのか、それとも医者と患者として会ったのか、とにかくそんな事情で出会った二人だから、病人同士では結婚も難しかろうと泣く泣く別れたのかもしれない。



医者になって病院に勤め始めると、美男子の医者にあちらからもこちらからも看護師さんの黄色い声がかかったそうだ。K叔父の顔立ちを誰かに喩えるならば、白洲次郎に似ていたかと思う。



若かった叔父は、病院勤務が終っても自宅を開放していつでも急患を診るような毎日を送っていたらしい。



最初の奥さんである薬剤師のSさんは、K叔父の奥さんらしくもないし、薬剤師らしくもないふるまいでK叔父をたいそう怒らせた。高熱の子供を抱えて飛び込んできた人の前で、すっとカーテンを閉めて門前払いしたのだそうだ。



そんなこんながあって、叔父は最初の奥さんと別れた。



結婚と言うのは、やはり好き合った者同士でするのが一番良いらしい。



H叔母と再婚して、東京の下町で皮膚科の医院を開業したK叔父だが、皮膚科とは言えそこは下町の事、風邪でも何でも病気を選ばず良く診てくれると評判が立ち、叔父の医院はいつでも患者でごった返していた。



話好きな叔父は患者さんとの世話話も大好きで、話を良く聞いてやる術も心得ていた。とにかく叔父の話を聞いていると、どんな病気の時でもどこか安心出来る気がした。



H叔母は兄上が外交官をしている品の良い人で、大きな目が聡明そうないかにも氏素性の正しい家柄のお嬢様という風だった。

ただ身体が弱くて、気胸を抱えていたのでほとんど寝たきりみたいな生活で、K叔父が家事をする事も多かったようだ。



骨と皮ばかりに痩せていたH叔母のことを口の悪い親戚のおじさんが「スルメ」と呼んで、そのあだ名は瞬く間に親戚中に広まるくらいぴったりだった。九子なども陰では「スルメのおばちゃん」とついつい言ってしまっていたが(^^;;、ベッドに寝ていても相撲のテレビなど叔父と一緒に良く見ていて、話の良く合う見ていて気持ちのよい位仲の良い夫婦だった。



H叔母が亡くなるまでの40年間位だろうか、子供も居なかった二人は毎日を二人だけで、海外旅行や国内旅行すらも無縁の生活を送っていた。



父は良く「あんなスルメのどこがいいんかなあ。一緒に居ても面白くもない。早く新しい奥さんでももらえばいいのに・・。」と言っていた。



父には母という一緒に居ると面白過ぎる奥さんがいたのだから、人の家庭のことまであれこれ口を挟む筋合いはなかった訳なのだが・・・。(^^;;



スルメのおばさんはK叔父に看取られて、とてもとても幸せに一生を終えた。



K叔父ももう70才を過ぎた事だし、愛妻を思って一人静かに余生を送るものとばかり思っていたのだが、世の中というのは面白いもので、二年後くらいにまだ五十代の若いお嫁さんをもらう事になった。それが最後の奥さんのM叔母さんだった。



なんでも、若いM叔母さんがK叔父に一目ぼれだったそうな。



見合い相手が70代では最初は気が進まなかっただろうと思うが、K叔父が献身的にH叔母に尽くした話なんかが伝わったものか、それとも白洲次郎ばりのマスクに酔いしれちゃったのか、とにかくK叔父は二十才近く年の違うM叔母と3度目の人生を歩む事になった。



M叔母には今でもとても感謝している。国内旅行すらほとんど行ったことのなかったK叔父を盛んに外に連れ出して、やれロンドンだ、やれローマだと連れ歩いてくれた。

若いエネルギーで美味しいものをあれこれ食べ歩き、面白いものをあちこち見に出かけて、叔父はH叔母さんとの静かな生活では得られなかったものをたくさん見聞することが出来た。



兄弟一元気そうだったK叔父が白血病とわかった時、M叔母は涙に暮れながらも甲斐甲斐しく看病してくれた。

白血病というのも、かっこいいK叔父にはふさわしい病名だった。



叔父は最後まで頭がしっかりとしていて、母校の大学病院に入院すると、まだ若い看護師さんに九子など聞いたことも無い医学用語を交えてあれこれ教えていた。頭の中も現役の医者のままだった。

その点も、大分呆けてしまった父とは違っていた。(^^;;



K叔父が亡くなってからもう3年が経とうというのに、M叔母はまだ叔父との10年足らずの生活の思い出の中に生きて居るように見える。





美男子三人兄弟は、残念ながら生前そんなに会うことはなかった。

それなのに亡くなる時期だけは申し合わせたように同じ頃だった。



長男であった父が最後に亡くなった。

わざわざ東京から駆けつけてくれたM叔母さんが父の死に顔を見るなり「まあ、Kさんにそっくり。」と言って涙ぐんだ。

叔母さんは父の面影の中のK叔父さんに会いに来たんだなあと思ったが、もちろん悪い気はしなかった。

いやむしろ、そんなにも愛されているK叔父は本当に幸せなモテ男だと思った。





亡くなる少し前にキリスト教に入信したK叔父だったが、M叔母のはからいで教会の一角の納骨堂にはK叔父と前妻H叔母の骨が揃って祭られている。きっといつか同じ所にM叔母さんも還るつもりなのだろう。



もちろん二人だけのお墓も別に用意されている。そりゃあそうだよねえ。( ^-^)



我が一族で一番のモテ男K叔父さん。叔父さんは、月並みだけれど優しかった。

自分の愛した妻を最後までよく面倒を見た。そして自分もまた愛する人に最後まで面倒を見てもらって旅立った。



父に言わせると父だっていくらでもモテたはずなのだけれど、残念ながらお金とマメさに欠けていたそうだ。(^^;;



それと目に入れても痛くないような一人娘=九子が居たせいで、充分モテ男になれたところを、なり損なっちゃったんだね。



誠に誠に残念でした。( ^-^)



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コメント 4

eiko

[九子さんのお父さんは残念ネ!]
モテ男ぶりを発揮できなかった様子に笑ってます。

ところで、ふと気がついたのですが
九子さんのこのHPは2003年の10月25日開始で
現在のアクセス数が  157,877

私は2003年の1月からで、やっと今月10万回に達しました。
そうしてみると、九子さんのHPはすごいですよ~~拍手!!

見習わなくちゃです。
by eiko (2008-12-21 09:31) 

九子

[eikoさん!( ^-^)]
アクセス数のことですが、どうやら私が借りてるマイプレスというブログ屋さんがアクセス数を稼ぐ秘密を握ってて結構上になるようにしてくれてるらしいです。

それとほら、私の日記、文章が長いでしょう。だから図体が大きくて検索に引っかかりやすいんじゃないかと思ってます。

eikoさんもずっと6年近くもブログ続けてるのねえ。更新の頻度から言ったらもの凄いエネルギーですよね。

お互いになるべく長く書き続けたいですね。( ^-^)

父はニヤケてたのがいけなかったと思います。(^^;;
by 九子 (2008-12-21 21:22) 

岡一輝

[コメントありがとうございました]
私のサイトへのコメント投稿ありがとうございました。

せっかく書き込みいだだいたのに、申し訳ありませんが
九子様の個人情報に関するものと思われる部分がありましたので
いったん消させていただきました。

私のサイトには不真面目な記事も多く
女性の個人情報を思わせるものがありますと
妙なお客がそちらに行ってしまう可能性もありますので
どうかご容赦ください。

なるべく真面目な記事を多めに書いていきたいとは
思っておりますので
また改めてトラックバックやコメントなど
させていただくこともあるかと思います。
その節にはまたよろしくお願いいたします。
by 岡一輝 (2008-12-22 20:15) 

九子

[岡一輝さん!( ^-^)]
あっ、そうでした!メールアドレス書きましたね(^^;;
きっとその辺が甘い人間なので知らないうちに危ない事を大いに書いているのでしょう。どちらにせよご配慮大変有難うございました。m(_ _)m
真面目な事もちゃんと書ける岡さんはきっと凄く力量のある方だと思います。こちらこそよろしくお願い申し上げます。

えーと、個人情報披瀝しても伝えたかったことがあります。
是非表紙ページトップの赤い九子をクリックしてメールを一通下さい。宜しくお願いします。m(_ _)m
by 九子 (2008-12-22 22:10) 

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