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マエストロ [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]

九子は長い間、クラシック音楽とは無縁に暮らしてきた。

父親はヨハンシュトラウスの「青きドナウ」が好きで良く聴いていたのは覚えている。
「九子や、クラシックは教養だからこういうの聞いときなさい。」と言って作曲者ごとに分かれた12枚1組のレコードを買ってたけど、ヨハンシュトラウス以外の残りの11枚は新品同様だったっけ。(^^;;

母は社交ダンスも習っていたからウインナワルツなんか聴いててもおかしくないのに、せいぜいアルゼンチンタンゴとか、ラ・クンパルシータとかのラテンダンス音楽しか聴いていなかった。
彼女の性格に三拍子のゆったりとしたワルツは緩慢すぎたのだろう。

これいいよ。是非聴いて下さい! ↓

九子は小さい頃ピアノをやってたけどすぐに嫌になって止めて以来、クラシックのクの字もない生活。
何と言っても九子は言葉を大切にする人間だから(ほうほう・・。(^^;;)、歌詞の入った歌の方に興味があったのだ。

しいて歌詞の無い音楽と言うならジャズね。
ジャズは、何と言うか、エロいから好きだった。(^^;; 大学生の頃だ。
「子宮に響く」なんて、当時、わかったようなわかんないような事を言ってはたまに聴いていた。
もちろん詳しい訳ではない。


ところがここへ来て、九子の生活の中にクラシック音楽が徐々に入り込んでいる。
それはSO-NETブログの皆様のおかげだ。

九子がS0-netで書き始めてすぐにnice!を下さったCFPさん、そして声楽を中心にさまざまな音楽活動をされてる伊閣蝶さん、声楽家、ピアニストとして教えるお仕事もされているCECILIAさん、いつも素晴らしい音楽を紹介して下さる般若坊さん、それと、マイぷれすの時からのお仲間で、英語独語を駆使して世界を駆けめぐるお仕事されながら名ピアニストでもあるawayさん、その他たくさんの方々。そして何といってももう説明無用のMURANさん


2011年12月30日の午後、年に一度のわが家の大掃除の日に、忙しく立ち働く(ふだんしっかりやってない報い。(^^;;)九子の手を止め、テレビの画面に見入らせたのは、他でもない上記の方々に教えて頂いたクラシック音楽への湧き出たばかりの興味だった。

それは地元テレビ、SBCだかNBSだか忘れたが、去年のサイトウキネンオーケストラの特集番組だった。サイトウキネンは御承知のように長野県松本市で開かれるので、地元メディアが作ったこの番組が全国に流れたのかどうかは定かでない。

それに去年は小澤征爾氏が体調の関係でたった一日しか出演されなかったんじゃなかったっけ?

とすると、九子は偶然どえらいものを見たことになる。

恥を忍んで言うと、九子はみんながみんな凄く大変な思いをしてまで見に行くサイトウキネンを、こんな近くに住んで居ながらまだ聴きに行った事が無い。

暑い盛りにチケットを取るのに何時間も並んだり、安くないチケット料金にたじろいだり、そういうのが煩わしくて、ついつい「そこまでして見に行かなくても・・」と思ってしまっていた。

毎年必ず観続けてる松本市民を心底尊敬する。


画面はマエストロを大きく映し出していた。

小澤征爾は一回りも二回りも小さくなった。
食道がんは厳しい病気だ。


曲名はG線上のアリア。
大変悲しい災害が起こってすぐの夏だから、当然東日本大震災で亡くなられた方々の冥福を祈るという意味の選曲がされているはずだ。
だけどアリアって、鎮魂・・って意味あるの?

曲が始まってすぐ、九子ははっとした。意味はすぐにわかった。

 

マエストロは九子が見た事の無いような指揮をした。
まずマエストロの手にあるべきはずのタクトが無かった。

指揮者というイメージとかけ離れた小澤の節くれだったような大きな手。
その手は最後まで大きく振られる事は無かった。

九子の目は小澤征爾ただ一人に釘づけになった。


指揮者というと、一番身近なのが小中学校の音楽会で前に出られてタクトを振る先生方だ。
あれが頭にあるものだから、九子はずっと長い間、指揮者とはみんなの音楽をまとめる人の事だと思っていた。(^^;;

そんな九子にマエストロは病み上がりの身体で教えてくれた。

テレビの画面はいつまでも小澤の姿を追っていた。
無理も無い。

あの日のG線上のアリアは、小澤征爾が押しも押されもせぬ主役だったからだ。

彼は決して腕を振らなかった。

指揮者のことを「棒振り」なんて言うそうだけれど、マエストロは棒を持つことも拒み、振るという動作さえ軽々しいものとして忌み嫌っているように見えた。

振られる事の無い腕は胸の上に交差されて、哀しみとも祈りともつかない、深い深い深いものを表現していた。

またある時は指の一本一本に命が宿っている如く、虚空に投げ出されてなお雄弁だった。

両腕を頭上に伸ばし、もはや関節の伸びきらない指を一精杯に伸ばして瞑目する様は、一人でも多くの魂にこの曲が届けと祈念しているようだった。

空を掴んだ拳は、満身の力を込めて戦う勇気を現しているみたいだった。 

腕を振るように見える時は、必ず細くなった身体が一緒に沈み込んだ。
それが深い哀しみに遭われた人々への礼儀だとでも言うように・・。

きっとあのお年では堪えたと思う。


そう。あれは、小澤征爾のまさに一人芝居だった。
九子はいつのまにか聴く事を忘れて、マエストロばかりを見ていた。

指揮者とは、表現者だったのだ。
古典音楽というあまり普通の人にはなじみの無い音楽を、自分の感性で自分なりの解釈をし、それを表に現して普通の人々にわかりやすいように見せてくれる。聴かせてくれる。
言ってみれば情感たっぷりの通訳さんなのだ。


G線上のアリア。アリアには調べとか旋律という意味しかない。
それを小澤征爾は見事に鎮魂の曲=レクイエムに変えた。
まさにマエストロ!

 

ところで九子さん、お掃除の方はその後どうなりましたあ?
まさか、いつもの「疲れたからやめた。」じゃないでしょうねえ。

やりましたよお。もちろん。
九子なりに自分の感性で美しいところと美しくないところを区別して、美しくないところというのはある意味、単に表に現れてる皮層的な現象に過ぎないのではないかと解釈して、美しくないところに内包する美がある以上、それはこのままにしといた方がいいんじゃないかな・・・、という判断に至った訳です。

それって、掃除してないってことなんじゃないの?(^^;;(^^;;

 

 

 


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さきしなのてるりん

斉藤記念フェスには、実は私も行ったことありません。ツレが小沢氏のことを嫌っていて。クラシック音痴の私は、ミーハー的に一度は聞いてみたいと思ったんですが。連れは、日フィルの分裂した時のいきさつにわだかまっていて、細々と続けている日フィルを応援しているからだそうです。でも指揮はうまいと言ってますが。1回目のフェスの時、別の用事で文化会館に行って、テントを張ってチケットを求めてる人が並んでるのを見たけど。小沢氏ができなくなってもあんなに並ぶのかしら。
by さきしなのてるりん (2012-03-04 21:26) 

さきしなのてるりん

追伸?この間から気になっていて、今日ホームページを見ました。目薬です。池田で雲霧目薬扱ってる人いますよね。看板、家の壁にかかってるのを見ました。一緒に浜岡原発再稼働反対とかの看板もありました。そちらからこられたかたのようです。変わった名前の目薬だったので、記憶に残っていました。
by さきしなのてるりん (2012-03-04 21:34) 

九子

二つのコメントのお返事続けてさせて頂きますね。( ^-^)

ご主人様、いろいろな事情を良く御存知なんですね。きっとクラシック音楽についても造詣の深い方なのでしょう。

今回だ「けはむしろテレビで見る方が正解だったかもしれませんが、やはり生の音を一度は聞きたいですね。

とにかく松本の人はすごい!やっぱり鈴木メソッドの鈴木先生の影響が大きいのかもしれません。

雲切目薬が池田町に???
不思議です。そちら方面で扱っている薬局さんはないはずなのですが・・。

さきしなのてるりんさん、是非是非メールを早く下さい。
お待ちしています。m(_)m
by 九子 (2012-03-04 22:17) 

よぽぽ

私も松本に10年も住んでいましたが
サイトウ記念には一度もご縁がありませんでした。
ただ、市内の小学生は6年生のとき
サイトウ記念に招待されるので
子供たちは生演奏を聞いています。
娘は今になって
「あのときの頭の真っ白なおじさんて小澤征爾だったんだ…、
 もっとちゃんと見ておけばよかった。」
と言ってます。
当時は猫に小判でしたね。(^^;
by よぽぽ (2012-03-05 13:07) 

away

九子さん、こんばんは。
「名ピアニスト」は「迷ピアニスト」の間違いです、笑。
下手の横好きでやっているだけですが、楽器を弾いていると
時間が経つのを忘れます。
それこそ、嫌なこともなにもかも。。。。

松本市民会館は仕事の関係で行ったことがあるのですが
サイトウキネンは聴いたことがないのです。
近くにお住まいというだけで羨ましくなります。

by away (2012-03-05 21:12) 

九子

よぽぽさん、こんばんわ。( ^-^)
松本に10年もいらしたんですか。それじゃあもう準松本市民ですね。( ^-^)

小学生が毎年招待されるんですか。市長さんも粋なことなさいますね。
でもその中から、もしかしたらマエストロが出るかもしれないもんね。
とにかく毎年ってとこがすごい!

長野オリンピックの時、長野の小中学生もいろんな競技に招待されましたが(うちの娘たちも)一回きりじゃねえ。(^^;;
by 九子 (2012-03-05 22:27) 

九子

awayさん、こんばんわ。( ^-^)

いえいえ、絶対にすごいピアニストさんですよ。だってなんでもきちんきちんとなさる方だもの。

嫌なことを忘れる、それくらい打ち込めるって素晴らしいことですよね。

私も一度は是非サイトウキネン行きたいと思います。出来たらマエストロがお元気なうちに・・。( ^-^)
by 九子 (2012-03-05 22:30) 

伊閣蝶

記事の中で過分なご紹介を頂いた上、「読んでいるブログ」へもご登録頂き、誠にありがとうございます。
私の方でも、早速「読んでいるブログ」に登録させて頂きました。
私にとって音楽はかけがえのない大切な存在ではありますが、単なる素人ですから、そのかかわりは単に「好き嫌い」でしかありません。
もっといえば、楽しめるかどうか、ということではないかと思います。
確かに本番などに向けての練習などでは、時間をやりくりしながら勉強をせざるを得ず、かなり追いつめられた状況に至ることもありますが、やはり楽しいからやっているわけであって、それがすべてなのでしょう。
それを辛いと思うようになったら、その趣味からは足を洗うということになろうかと思います。

「G線上のアリア」、J.S.バッハの管弦楽組曲第3番の中の「エア」ですね。
大変静かな美しい曲で、durでありながらときおりmollが混じり、全体としては何ともいえない寂寞感を醸し出しているなと思います。
それゆえにこそ、鎮魂の場所で演奏される機会も多いのでしょう。
先日、伯父の葬儀がありましたが、そのBGMでもこの曲が用いられていました。

ところで、サイトウキネン、私も実演は聴いたことがありません。
録音などでいくつか聴きましたが、やはり曲によって向き不向きがあるのではないかと思ってしまいます。
もちろんそれは、マエストロ小澤にもいえることなのでしょうが。

by 伊閣蝶 (2012-03-07 12:12) 

九子

伊閣蝶さん、こんばんわ。
長い素晴らしいコメント、どうもありがとうございます。

今これ書きながら裏でyoutube モーツアルト聞いてます。
こんなことは九子の人生で初めてです。( ^-^)

聴き始めるとはまるんですね。

durとmoll、長調と短調ですね、勉強しました。( ^-^)

>もっといえば、楽しめるかどうか、ということではないかと思います。

ああ、それだけでいいのですか?
なら安心です。( ^-^)

小澤さん、来年のサイトウキネンには出られないそうですね。
早く体力をつけられて戻ってこられる日を楽しみにしています。

お気に入りはあくまでお気に入りですので、御心配無用です。m(_)m
by 九子 (2012-03-07 20:11) 

Cecilia

クラシックの話題だ~と思って読んでいたら私のHNが!驚きました。(笑)
声楽家・ピアニスト・・・と言って良いのでしょうか?アマチュア、と書き加えておいてください。あと”教える仕事”に近いことをやっていますが声楽やピアノを教えているわけではないのでそこらへんもよろしくお願いいたします。
サイトウ記念、行きたいですね~。そこで思い出しましたが、うちの娘たちのピアノコンクール(PTNAピアノコンペティション)、一度松本で受けたことがあります。名古屋のほうが近いのですが、松本に行ってみたくなって。(笑)
でも松本は遠かった~。特急しなのも高かった~。
でも今度は純粋に観光で行きたいと思います。
by Cecilia (2012-03-12 06:44) 

九子

Ceciliaさん、こんばんわ。( ^-^)
いいえ~、私なんかからすると、ceciliaさんは立派な音楽家。( ^-^)

お嬢さんたちもピアノをされていて、お子さんたちのためにコンクールがあるのですね。

日本人もいろいろなコンクールで優勝しているし、私が思ってたよりもずっとクラシック音楽の裾野が広いみたいですね。良いことです!( ^-^)

うちの場合は私が今からクラシックにはまっても、もう子供たちへの影響はさほど無いだろうし、ちょっと遅すぎました。(^^;;

松本、いいですよね、いろんな意味で。
城下町の人たちは団結力が違うみたいです。


by 九子 (2012-03-12 20:17) 

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