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桜湯の話 [<坐禅、仏教、お寺の話>]

大切なお客様をお迎えして、善光寺の宿坊の精進料理を頂いた。

常智院さん。ここの女将のN子さんと九子は、実は昔なじみだ。

N子さんの長男とうちの次男Sが善光寺保育園の同級で、男の子3人兄弟というのも同じだから、今で言うママ友みたいな感覚で、会えばよく話をしていた。

当時から彼女はとても研究熱心で、忙しい合間に料理教室に通ったり、いろいろと試行錯誤を重ねたりしながら、寝る間も惜しんで働きづめの毎日を送っていた。

常智院の精進料理は、まさに彼女の精進とアイデアの賜物である。

宿坊の精進料理は、徹底した精進料理だ。
肉、魚は言うに及ばず、かつおぶしの出汁すら使わない。

刺身に見立てて出てきたのは、サクに切ったまぐろを模したトマト汁の寒天よせと、かたくりの茎の湯葉巻き。

トマトはからし醤油で、かたくりは酢味噌で頂く。

うなぎの蒲焼を模したごぼうの揚げ物もこっくりとして舌触りが楽しく、美味だった。

野沢菜の蕪(かぶ)のくるみ和えは、彼女の畑に春まで残った野沢菜の蕪を使ったもので、しゃきしゃきと言うのとも違う独特の歯ごたえがあって、くるみ味噌の味と絶妙によく合った。

蕪や大根では煮るとすぐに柔らかくなって、この感触は出ないそうだ。

とにかく手がかかっている!の一言。
全部で10品以上出して頂き、大吟醸のおまけまで付いて(これはママ友の特権かな?( ^-^))
一同、堪能させて頂いた。


実は今日のタイトルの桜湯の話は、当日やにわに雨が降ってきて、貸して頂いた傘を翌日お返しにあがった時に、N子さんから直接聞いた話である。


桜の季節、(しかもその日は満開だった。)に頂く桜湯。見た目に大変美しく、最初にどうぞと薦められた。


「桜湯に使うのは、八重桜じゃないといけないのよね。」

「えっ?そうなの?」

「だって、桜は散る時ばらばらになっちゃうでしょ?八重桜だからお茶碗の底にきれいに形が残る

のよ。」

ああ、なるほど!


「実は私、あっちの桜、こっちの桜、いろいろ試してみたんだけれど、結局一番良かったのが
清泉の前の桜。色がきれいに出るのよ。やっぱり神様の前の桜だからかしらねえ?」

彼女が清泉(せいせん)と言ったのは、善光寺のすぐそばにあるカトリック系の「清泉女学院高校

」のこと。

そして彼女が「神様」と口にした時、てっきり九子はその近くにある護国神社の神様のことだとばかり思ってしまった。

とにかくその神様の前のさくらの、花芽の上の方だけを手で摘むのだそうだ。

そしてそれを家に持ってきて、新聞紙の上に広げる。
そうすると一晩のうちに、彼女に言わせると「虫やら何やらが自然に出て行ってくれるのよ。」

彼女の一言一言には、善光寺の宿坊の長女に生まれ付いて、仏様の教えに当たり前のように浸りながら生きてきた彼女らしさがほとばしる。


「みんなで話してたんだけど、桜湯って塩に漬けるからもっとしょっぱいと思ったんだけど、しょっぱくなかったわよねえ。」

「九子さん、あれはね、梅酢につけるのよ。」

「梅酢って、塩、入ってたっけ?」

「やあだ、九子さん、梅漬けた事無いの?(はい。仰せの通りで・・。(^^;;)
 
最初に梅を塩漬けにするのよ。そうすると一晩で水がわあ~っと上がってくるのよ。それが梅酢。その梅酢で、まず花びらをていねいに洗うの。黒っぽい水が出なくなるまで・・・。

そして最後にガラスの容器、コーヒーのビンを良く洗ったのでもいいから、そこへ絞った桜を入れて、最後にまたきれいな梅酢で満たすの。

ほら、梅が実るのは6月でしょう?絶対に桜のほうが時期が早い訳じゃない。だから使うのは去年の梅酢。その時に去年の梅酢が取ってないと、桜湯が出来ないのよ。

宿坊の仕事ってみんなそんなもの。やるべき時にやらなきゃいけないことの積み重ね・・・。
その代わり、大したことやってるんじゃないのよ。決まりごとをしてるだけだから・・。」

N子さんはいつも三角巾を頭に巻いて、おしゃれひとつせずに働いている。
申し訳ないけれど、お手伝いさんの中に紛れたら、女将が誰なのかわからなくなる。

だけど色白でふっくらとした彼女の顔つきは、観音様やら弁天様やらを思わせる。
苦労も辛抱も、輝く笑顔の中に見事に包み込まれている。


そうそう、さっきの「神様の前の桜」の話だけれど、彼女が言った神様は、護国神社の神様じゃなくてやっぱりキリスト様のことだった。

彼女は清泉女学院高校を卒業していたのだ。

実は善光寺の宿坊の娘さんで、清泉女学院高校を卒業している人は多い。

入学の時に親との面接があり、「こちらではキリスト教を授業でお教えしますが、それでよろしゅうございますか?」と聞かれて、同意して入学するのだそうだ。

たぶん他の国ではあり得ない事だろうと思う。
いかにも日本らしい。

彼女の中では、ちゃんと折り合いがついているのだと思う。
もちろん彼女の信仰の大黒柱は、善光寺の阿弥陀如来(あみだにょらい)さまだ。( ^-^)

彼女ばかりではなく私たちの中でも、クリスマスやバレンタインを祝い、同時にお正月やお盆も祝い、それを特別不思議な事としては捉えない。

理論じゃないんだな、って九子は思う。
日本人は、まず感性で掴(つか)むんだ。

多くの人が自分は仏教徒だという自覚が無くて生活しているけれど、「ありがとう」「どういたしまして」「おかげさまで」「申し訳ありません」「わざわざお越し頂いて」「こちらこそ」「すみません」

まだまだたくさんある美しい日本人の言葉の中に、仏教の真髄が詰まっている。

お辞儀をする、手を合わせる、履物をそろえる、心配りをする、遠慮する、物の命を粗末にしない、そういう動作の一つ一つが、もう、仏教の教えそのものなのだと思う。

突然突拍子も無いビデオをお目にかけるが(^^;;、最初の方に出てくるEXILEのタカヒロ君が感極まって歌えなくなり、思わず手を合わせる場面が実に美しい。( ^-^)

生まれてから長い間をこの日本と言う国で暮らすうちに、私たちの中には知らず知らずのうちに仏教の教えが染み込んでいる。

意識しないでも、そして意識している以上に、仏教は日本人の心の根幹にあるのだと思う。
そうでなかったら、世界中を驚かせた被災された方々の見事なふるまいは説明がつかない。


もちろん日本人でキリスト教徒の方々もたくさんいらっしゃる。
そして、その方々は御自分で選ばれたキリスト教の深い強い信仰を持っていらっしゃる。
本当に素晴らしいと思う。

でもそうではない大半の日本人にとって、キリスト教は所詮お飾りなんじゃないかな?
言い方が悪くて本当に申し訳ないのだけれど・・。

教会で結婚式を挙げて、バレンタインデーやハロウィーンを祝って・・・・。
本来の意味なんてわからなくてもぜんぜん構わない。

もともと日本人は頭で考えることよりも、心で感じることのほうを尊ぶ傾向があるようだ。

お経の意味なんかわからなくても、仏壇の前で手を合わせて線香を上げる動作が出来ない若者が居ないように、誰に教わったという自覚が無くても、仏教の本質を、案外日本人はかなりのところまで感性で掴んでいるのだと思う。

だからそういうところへは、キリスト教も他の宗教もなかなか入り込む隙間が無い。

仏様は懐(ふところ)が広いから、「まあまあ」とか「よしよし」とか言いながら、キリスト様にかぶれる若者たちを笑顔で見ている。

キリスト教の学校へ入っても、卒業すればまた自分のところへ戻ってくると信じて、おっとり構えていらっしゃる。彼女たちの親御さんも同じなんだろうと思う。


理論と言うものはかっちりとして融通が利かないけれど、感性は限りなく自由だ。
理論では越えられない宗教の違いと言う壁を、日本人の感性は易々と超えてしまう。

こういう国があってもいいんじゃないのかなと思う。
そしてまた、こういう国がいつまでも美しくあり続けてくれることを、心の底から願わずにはいられない。

 

 

 

 


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コメント 10

M

九子様

はじめまして。
いつも拝読しており、御礼申し上げます。
励まされたり、気持ちを落ち着かせる事ができたり、また刺激を受けたりとお世話になっているのです。

『桜湯の話』大きく頷きました。
「仏教は日本人の心の根幹にある」わけで、遠慮したりストレートに物を言えなくて不器用に見えたりもするけど、こんな人たちがいてもいいのでは、こんな国があってもいいのではと思う場面があります。
私は、意味も作法もわからないので決して仏教徒だなんて言えませんが、仏教の国に生まれて良かった~とも実感しています。

とりとめのない事を書いてしまいましたが、これからも楽しみにしております。
どうぞよろしくお願い致します。  M
by M (2012-05-01 08:48) 

さきしなのてるりん

今日の記事はほんとに勉強になりました。自然食をしているのですが、娘が家を出てからはそれもかなり怪しくなってきたところでした。野沢菜の蕪のクルミあえとか、ごぼうのかば焼きとか作ってみようかな。かば焼きはどこかで作り方が書かれているのを読んだ気がする。結局作らずじまいでしたが。常智院にうかがってみたいな。善光寺は調べたいこともあって、何十年振りかで今年行こうかと言ってたところなのです。九子さんの目薬屋さんもお寄りしてみようかな。目薬には用がなくて、申し訳ないけど。
by さきしなのてるりん (2012-05-01 10:14) 

伊閣蝶

今回の記事も、ただただ感嘆しながら拝読しました。
桜湯の桜が八重桜のことだったり、梅酢で漬けるくらいのことは知っていましたが、その花によって香りや色合いなどが違ったり、虫を自然に追い出すため新聞紙に広げたり、梅酢で花弁を一枚一枚洗ったりという手間については、全く無知でした。
一年前に梅をつけて、その際に梅酢を保管しておかなければならないという「準備」についても、確かにその通りと思いつつ、様々なことに忙殺されているとそうした気遣いに心を砕くこともなくなっていってしまうのでしょう。

>宿坊の仕事ってみんなそんなもの。やるべき時にやらなきゃいけないことの積み重ね・・・。

これは本当に深い言葉です。
肝に銘じたいなとしみじみ思いました。


by 伊閣蝶 (2012-05-01 10:54) 

九子

Mさま、見ず知らずの方からのコメント、心より感謝申しあげます。
こうやって九子のブログがどなたかのお目に留まって、その方のお気持ちを少しでも変えるのに役立っていると思うと、感無量です。

いや、私も、とりあえず入門していると言うだけで怠けているので、決して大きい顔できない立場なのですが・・・(^^;;

日本人の言葉やしぐさ、本当に美しいなあと思う場面が多いです。
もちろん悪いところもあるわけですから、それに胡坐をかいていたらいけないのだけれど、不安になったり、悲観したりしないで、まず自分たちの美しさを見直して欲しいと思います。

これからもよろしくお願いします。m(_)m

おっと、大事なことを言い忘れました。ブログの左側上の方にメールのお願いがあります。コメントくださった方すべてにお願いしています。
よかったら是非メールお願いします。m(_)m


by 九子 (2012-05-01 22:23) 

九子

てるりんさん、こんばんわ。( ^-^)
自然食をなさっていらっしゃるんですね。手がかかるんでしょう。偉いですね!

常智院さん、お薦めです。手間がかかるので早めの予約が必要です。

もちろん我が家に遊びにおいでください。平日だと店頭でしかお付き合いできませんが・・。

事前にお電話いただけましたら有難いです。( ^-^)

県内だから直ぐに行けると思っていると、なかなか行けないものですよね。
私もてるりんさんのあたりは、10年前くらいに行っただけです。
by 九子 (2012-05-01 22:29) 

九子

伊閣蝶さん、こんばんわ。
いつもいつもお優しいコメントを頂戴し、感謝に耐えません。m(_)m

>桜湯の桜が八重桜のことだったり、梅酢で漬けるくらいのことは知っていましたが

すごい!私は全然知りませんでした。(^^;;

>>宿坊の仕事ってみんなそんなもの。やるべき時にやらなきゃいけないことの積み重ね・・・。

本当に特に彼女の口からこの言葉が出ると、ああすごい!と思います。
お手伝いさんがいくらたくさん居てくれても、結局は彼女が先に立って動かなくちゃならないんですよね。

もちろんいろいろなタイプの女将さんがいらっしゃいますからさまざまでしょうけれど、とにかく善光寺の宿坊は女将さんで持っているので本当に大変です。

そうか。音楽の練習もやっぱり「やるべきときにやらなきゃいけないこと」がたくさんあるのですね。j本当に私なんかにはまったく想像がつかない深い深い世界なのでしょう。
by 九子 (2012-05-01 22:38) 

お夕

お邪魔します。ご無沙汰しておりました。

「やるべきときに、やらなかったツケ」が、重くのしかかる今日この頃です(苦笑)
だめですねぇ、ホントに。
「今日できることは、明日に延ばすな」という格言の、まるきり反対をしてしまう我が身です。

子どもの頃にやるべきこと、若いときにやるべきこと、子育て中にやるべきこと、分別がつく年頃にやるべきこと……見事にはずしてきたなあ、と思っています。

という反省を胸に、寝るべきときが来たので寝ます。
おやすみなさい。
by お夕 (2012-05-03 23:52) 

九子

お夕さん、こんにちわ。
こちらこそ御無沙汰すみません。m(_)m

>「やるべきときに、やらなかったツケ」が、重くのしかかる今日この頃です(苦笑)

お夕さん、それはこちらも同じこと!(^^;;

でもお夕さんは忙しい毎日を送って来られたのだから、それ以外のものもしっかり積んで来られたのだから、全然反省の必要はありません!

怠けてばかりで年ばっかり食ってきた九子こそ、「見事にはずしてきた」責任を追及されちゃう人間で・・・。でも、あんまり反省もしてないけど・・・。
(^^;;

これからまた御無沙汰の責任を取って、お夕さんのところへ伺いますね。
( ^-^)
by 九子 (2012-05-04 15:41) 

youzi

こんばんは♪いつもありがとうございます。
精進料理、実はまだ食べた事がありません。
手をかけて、作られるのですね。
善光寺には母の実家に行くと、帰りに寄ってきます。
そして、本堂の下にある鍵を触りに行きます。
いつも時間があまりないので、ご飯をゆっくり食べる事も
ないんですよ。
globeの曲、ありがとうございました。
私も曲が気に入ったらって思っています。
だから、中国や韓国の歌を聞いたりするのが
とても好きです。
素敵な曲があったり、日本の歌手のカバー曲を
聞いたりしますが、カバーの方がよかったりって事も
あるんですよね。
by youzi (2012-05-08 20:29) 

九子

youziさん、こんばんわ。( ^-^)

実は私も今回が2回目位かな?

あれ?お母様の御実家は長野か長野のそばにあるんですか?
次回は是非薬局にお寄りくださいね。( ^-^)

>素敵な曲があったり、日本の歌手のカバー曲を
聞いたりしますが、カバーの方がよかったりって事も
あるんですよね。

こういうこと、ありますよね。
もちろん両方いいのが一番だけど・・。

シルエットロマンスは徳永英明も大橋純子もどっちもよかった!( ^-^)
by 九子 (2012-05-08 22:18) 

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