おやすみ ラフマニノフ・・中山七里 [<九子の読書ドラマ映画音楽日記>]
あなたは、有名人の誰かに似ていると言われたことがおありだろうか?
九子はずっと長い間、誰にも似ていると言われたことが無かった。
若い頃のただ一時(いっとき)、M氏から「イルカ」に似ていると言われた。
もちろん水族館でショーをやってる方じゃなくて(^^;;、当時「なごり雪」などのヒット曲で人気のあったフォークシンガーのイルカさんだ。
そうかなあ?それほど似てるとは思えないけどなあ。
イルカさんは微笑ましくて可愛らしかったけれど、どうせならもっと美人に似ていると言われたかった。(^^;;
それがしばらく前に、長野県薬剤師会の機関紙にはさまって入ってくるさまざまな催し物のチラシの中にその人の顔を見かけて、「あっ、私この人に似てるかも!」と始めて思った。
図々しいと呆れて欲しい。その人は仲道郁代(なかみちいくよ)さんというピアニストだった。似ていると思ったのは、彼女の顔の輪郭と、笑うとへの字に細くなる目の感じや鼻の感じ、それと髪形だった。
色白な肌も、女性らしい凹凸のあるボディーラインも(^^;;、もちろん彼女が幼少の頃から努力を重ねて掴み取ったピアニストと言う職業も、かつて新聞のエッセイに彼女が書いておられた「お掃除大好き」という家事能力も、あとはどれ一つをとっても天と地ほどに違うのだけれど、特に彼女の笑顔が、自分の笑顔と同系統なもののように感じてしまった。
so-netでブログをはじめてからそろそろ3年になる。
3年前なら、九子はクラシック音楽のコンサートのチラシなど見向きもしなかったろう。
so-netで音楽好きなお仲間に刺激されて、遅まきながら九子もたまにコンサートに行くようになった。
「おやすみラフマニノフ」と「さようならドビュッシー」。
中山七里さんという正体不明の作家が書いた音楽家の名前のついた2冊のミステリー本を一度に買うことも、以前なら無かったかもしれない。
九子が最初に読んだのはラフマニノフの方だった。
九子の乏しい知識で、ドビュッシーさんという人は性格も女癖も悪かったと聞いた。
一方ラフマニノフさんの方は、始めて作った交響曲を酷評されて、うつ病に苦しんだ人だそうだ。
うつ病と聞いちゃあ、同じうつ病病みの九子が黙っちゃあいられない。( ^-^)
そうして迷わず手に取った「おやすみラフマニノフ」はわくわくするほど面白かった。
それは九子が音楽に素人だから、作者の豊富な音楽知識が新鮮で面白いのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「後書き」を先に見てしまった九子はびっくりした。
件(くだん)の仲道郁代さんが、この本を大絶賛されていたからだ。
愛知音大という私立の音楽名門校に通うヴァイオリニスト志望の城戸晶(きどあきら)は、この学校の、いや日本の宝と称されるピアニストであり学長である柘植彰良(つげあきら)氏の孫娘、柘植初音(つげはつね)と付き合っている。
彼はしかし、授業料の支払いもままならぬアルバイト学生の身であり、このままいくと学費未納で退学処分になりかねない危うい状況にある。
そこへ大事件が起こる。
この学校の保管庫に大事に保管され、警備員も付いて監視されていた2億円相当のストラディバリウスのチェロの名器がものの見事に盗まれたのだ。
ストラディバリウスと言ったらヴァイオリンかと思っていたのだが、チェロもあったんだ!と素人ながら思ったのだが、そのあたりもちょっとした解決のヒントになるらしかった。
とにかく流れがまったく不自然ではない。
音大で真っ先に狙われる高価なものと言ったら、楽器を置いてほかに無い。
警察を介入させずに学内で穏便に処理しようと言うところはちょっと不自然だが、柘植彰良氏の叙勲に影響を与えたくないという理由付けはまあ納得出来る。
盗まれたチェロをたびたび弾き、盗まれる直前にも使っていたのは初音さんだった。彼女のショックたるや、尋常ではない。
そんな折も折、10月に予定されている定期演奏会に今年は学長の柘植彰良氏が特別出演し、彼の名前を冠したスタインウエイ製柘植彰良モデルのピアノを奏でることになった。
そして今年は特別に、奏者もコンサートマスターもオーディションで決まり、コンサートマスターに選ばれると准奨学生待遇が与えられて学費が優遇されることなども通知された。
晶にとっては願ってもみない、天から下ろされたクモの糸だった。
しかし晶は、中華料理屋のバイトで忙しい。
店長からは信用され、正社員にするとまで言われている。
「みんな自分は特別だと思っている。歌手を目指す者、スポーツ選手を目指す者、俺だけは私だけはその他大勢とは違うんだってな。そやけどなあ、世の中に特別な人間なんて誰もおらん。おるのは自分を知っとるやつと知らんやつだけや。城戸っちゃんは、さて、どっちの人間やね。」
そう店長に言われて臍(ほぞ)をかむ晶だが、そんな事は人に言われなくたって自分が一番知っているのだ。
「人は誰でも一度現実で夢を見る。ある者はスポーツに、ある者は文学に、そしてある者はボクのように音楽に。練習に次ぐ練習、試練に次ぐ試練。そのうち次第に自分の力量を知る。自分の手がどこまで届くのかを思い知るようになる。そして大半の者は諦めて他の道を歩き出す。しかし残された者は足掻(あが)き続けながら、ますます目指すものが遠ざかるのをじっと見ているしかない。胸に抱いた夢はそのまま膿み腐り、本人の魂を腐食させていく。」
だけど、それを承知の上で晶がヴァイオリンから離れられないのは、きっと亡くなった母親のことがあるからだ。
母親もヴァイオリニストだったが、晶を身ごもって仕事を離れ、実家の旅館を継ぎ、彼にヴァイオリンを教え、なけなしのお金をはたいて彼にヴァイオリンを買い与え続けた。
彼が大学に入学した年に母親が亡くなり、自分の死期がわかっているかのように「悪いけどこれが最後だから」と彼に渡してくれたのが、彼の現在の相棒である200万円のチチリアティというヴァイオリンだった。
この話には岬洋介(みさきようすけ)というこの音大の講師であり、若きピアニストでもある謎の人物が要所要所に登場する。
彼はロシア人とのクオーターで見栄えも良く、性格も穏やかで、その上なんでも出来る天才肌だ。
彼のピアノの才能には晶も初音も心酔しており、そしてなぜか岬は、晶の窮地のたびに近くに現れては彼を救ってくれるスーパーマンのような役割を演じている。
それはたぶん、岬が、晶自身も気づかないでいる晶の中の清らかなもの、彼だけが持つ善なるものに共鳴しているからではないかと九子はなんとなく思っていた。
晶よりもヴァイオリンのうまい生徒は掃いて捨てるほどいる。だけど、晶ほどのまっすぐな心根を持つ生徒はいない。
音楽の高みに行くには、そういうことが何よりも大事である事をきっと岬先生は知っているのだと思う。
自分の才能に見切りを付けかけていた晶に声をかけて、彼に大切なストラディバリウスのヴァイオリンを爪弾かせてくれたのも岬先生だった。そのとたん、彼の中にどうしてもこの名器を弾いてみたいと言う耐え難い欲求が湧き上がる。
(コンサート・マスター=コンマスになるとこれが弾ける。)
それに後押しされるように、晶は必死で今までの遅れを挽回するよう練習に励む。
そして力量では遠く及ばない入間君を差し置いて、コンマスに選ばれる。
そう言えば脇を固める登場人物もユニークだ。このヴァイオリンの天才の入間君はオネエ言葉だし、ピアノの天才下諏訪美鈴さんは、可愛い名前に似合わぬ強烈キャラだ。
事件はその後も次々起こる。
犯人はやはり学内の人間と言う線が濃くなる。
岬先生はいい人過ぎてちょっと怪しい。彼みたいな登場人物が犯人だったというミステリーには何度かお目にかかったことがある気がする。
でも九子は最後まで、岬先生と晶だけは信じていたかった。
それは、九子の中にある、芸術家は、特に音楽をする人は、清らかな心を持っていなければならないという、一種迷信じみた先入観のせいだ。
美の極致を追求する人々に、醜いものは似合わない。
絵画ならば濁った色やどす黒い絵もあるだろうけれど、こと音楽に関する限り、意図的に作られた不協和音を除いては、すべてがピュアだ。
いや、不協和音だって美しい。
だから音楽家は、皆一様に善でなければならない・・と九子は固く信じている。
絶対音感を例に出すまでも無いが、完璧からわずかに隔たっただけでも不和を感じる彼らである。
およそ悪だとか、汚れだとかにまみえて平気でいられようとは思えない。
「音楽にはその人のすべてが顕(あらわ)れる。人生観、性格、価値観、心の色、魂の形」
と言う事になると、人間的に難ありのドビュッシーさんってどうよ?ってことになるのだが・・。(^^;;
あんまり書くとこれから読みたい方々のためにならないが、晶と岬先生が大雨の体育館で披露した「チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲 ニ長調」の場面は圧巻だった。
曲を聴いてもいないのに胸が高鳴った。
中山七里、恐るべし! 彼は本当に何者なのだろう?
そして最後の定期演奏会の場面。
岬先生の指揮、美鈴のピアノ、晶がコンマスで弾く「ラフマニノフピアノ協奏曲第二番」
「遂に第二主題の大合奏に突入した。オケの最高潮だ。ボクたちは最後の力を振り絞って 疾走する。堂々としたメロディーが勇気と決意を謳う。不安も確執もその轟然(ごうぜ ん)とした波に呑まれ、跡形も無く流されていく。
心の温度が上がっていく。視界が狭まり、もうボクには岬先生と美鈴しか見えない。
百万の敵に一人で挑んでいく蛮勇・・・だが勇士の胸には欠片(かけら)ほどの迷いも 無い。それが自分の唯一 の道なのだから。それが自分の生きている理由なのだから。
ボクはやっと知った。 音楽は職業ではない。生き方なのだ。 演奏で生計を立てているとか、過去に名声を博し たとかの問題じゃない。 今この瞬間に音楽を奏でているのか。そしてそれが聴衆の胸に届いているのか。
それだけが音楽家の証(あかし)なのだ。」
彼が城戸晶に言わしめているこの言葉に、勇気を与えられない音楽家がいるのだろうか?
そう。このミステリーの凄さは、たった一人で世界に挑む音楽家、芸術家たちはもちろんのこと、就職難に喘いでいると言われる芸術大学出身の学生さんや、九子みたいな普通に生きてる人間にも、打ち震えるような勇気を与えて、どこか温かい、非常にさわやかな気持ちにさせてくれるということだ。
ああ!でも悲しいかな、この本はミステリーなのである。
定期演奏会のこの場面で終わってくれたら、読者はなんと温かい感動に包まれて読み終えることが出来たであろうに・・。
最後にはお決まりの謎解きが待っている。
そして、痛ましい現実も・・。
「或る水準を超えると人間性と音楽性は別物になる。それは過去の偉大な音楽家たちが身をもって示してきたことだ。きっと優れた表現者ほど、それに見合った何かを捧げねばならんのだろう。」
もしかしたらこの言葉がドビュッシーさんの行状の悪さを説明することになるのかもしれないけれど、夢見る九子は信じない!
こんな言葉、誰が信じるもんか!
優れた音楽家は、優れた人間性も併せ持つ!
この本を読んだから、なおさら九子はそれを確信する!
うんうんなるほど~九子さんのお顔を脳内モンタージュしてみてやす(◎o◎)
ほっこり柔らかいお顔立ちなのでやすね。
ぼんぼちは かなり色んな人に似てると言われてきやした。
まぁとにかく、南国系の顔立ちでやす。
沖縄出身だよね?って 沖縄料理屋の人に必ず言われやす。
by ぼんぼちぼちぼち (2013-04-25 19:16)
すべては自分の選択ですね。
by mu-ran (2013-04-26 04:13)
ぼんぼちさん、こんばんわ!
あらまあ、九子の顔なんかに興味をお持ち頂きまして、光栄に存じます!( ^-^)
う~ん。そうですね。おっちょこちょいでぼーっとしているものですから、どう考えてもキツイ顔ではないでしょう、きっと。(^^;;
ぼんぼちさんは、南国系ですか?
目鼻立ちがはっきりしてらっしゃるんですね。( ^-^)
沖縄の人はどこか顔立ちが違うからわかりますね。ひょっとしてそういう血筋がはいっていらっしゃるんでしょうか?
by 九子 (2013-04-26 20:17)
mu-ranさん、こんばんわ。
その通りですね。自分が選択しなければならないんですね。
芸術家は毎日がその選択の繰り返しだから、そういう選択を普通の人々よりも数多く繰り返しているから、強い意志を持っていらっしゃるのでしょうか?
私をはじめ、日本人のほとんどは、そういう選択をするのに慣れていないから、選択をする際にも自分の考えよりも、他の人の意見なんかを参考にしてしまうから、優柔不断で意志が弱いのでしょうか?
つまり、意志の強さ、弱さは、訓練によって克服できるものなのでしょうか?
そういうことは半分くらいは正しい気がしますが、以前よりはいろいろな事を考えるようになったつもりの九子の場合でも、まだまだ意志が強いとはとてもとても言えません。
選んでいるつもりで、二者択一をしていないからなのでしょうか?
by 九子 (2013-04-26 20:32)
人間と才能。才能を活かすも殺すも、己の選択次第。活かしたければ覚悟を決める。でも二者択一にはならず。人間は一人では寂しい生き物。必ず才能の果てに分岐点が来る。人を活かし、自分も活きる。金の亡者と言われて人を裏切りながら、ビジネスを拡大する者がいるなら、長くは続くまい。分岐点は必ず来る。馬鹿は徹頭徹尾才能を追い、分岐を知る。天才が馬鹿に見えるはその故なり。
by mu-ran (2013-04-27 10:05)
もうこのコメントにお返事は無用ですね。
生きる世界の・・というよりも、生きる姿勢の違いが如実に現れています。
その違いなのですね。
お忙しい中、凄いコメントを頂戴し、心より感謝申し上げます。
>人を活かし、自分も活きる。
非常にほっと致しました。
by 九子 (2013-04-27 17:33)
この本読みましたよ。
さよならドビュッシーが、あまりにも面白かったので、図書館にお願いして「おやすみラフマニノフ」を買ってもらったんです。
(あくまでも自分では買わない…)
そして最近「いつまでもショパン」(岬さんが出てくる最新作)を読みました。
舞台がポーランドなので、ちょっと難しかったですね。面白かったけど。
この3作の中では、やっぱりドビュッシーがいちばん好きです。
九子さん、もし読んでいなかったら読んでみて。
by リンさん (2013-04-28 17:59)
リンさん、こんばんわ!
わあ、また新作が出たんですね。
「いつまでもショパン」 岬先生最後の事件じゃないことを願います。(^^;;
そうそう。ドビュッシーまだなんですよ!なんとなく「おやすみ」の余韻に浸っていたくて・・。
ドビュッシーは序幕というのと2冊出てるみたいですね。書評だとこっちの方が評判いいみたいですが・・。
どっちにしても近日中に読破します!( ^-^)
お知らせありがとう。( ^-^)
by 九子 (2013-04-28 21:41)
第【序】章 with 【ドビュッシー「月の光」】
http://hironagayuusuke.blog.so-net.ne.jp/2012-01-02-1
第【零】章 with 【ドビュッシー「アラベスク 第1番」】
http://hironagayuusuke.blog.so-net.ne.jp/2012-01-02
by Hirosuke (2013-05-05 08:30)
Hirosukeさん、nice!とコメント有難うございました。( ^-^)
ドビュッシー版を読まれたのですね。それと演奏曲まで教えて頂き、有難うございました。
「月の光」は知っているのと違っていたのでびっくりしました。でも、とても美しい曲ですね。
( ^-^)
あと、私は幸運な躁うつ病者ですが、hirosukeさんは本当にたくさんの悲しい目にお会いになったのですね。
ご家族のなさりようを見て人間不信になるほど辛い事は無いですよね。
私は毎年1~2ヶ月軽いウツが来るだけなので、本当に恵まれていると思います。
ごめんなさい。なんだかわかったようなこと書いちゃいましたが・・。
またウツが来て、同病相哀れむの友達が欲しくなったらメールでも下さい。
よかったら一度メール頂けませんか?
左欄上の方にメールアドレスがありますので・・。
是非お待ちしています。( ^-^)
by 九子 (2013-05-05 22:24)
お言葉に甘えまして。
by Hirosuke (2013-05-05 22:35)
hirosukeさん!すみませんが、もう一度メールをお送り頂けませんか?
確か受信箱の中にhirosukeというお名前を確認したのですが、なぜか次に見たときは無くなってしまったのです。削除済みも見たのですがわかりませんでした。
こんな事あるのかしら?
とにかく申し訳ありませんが、もう一度だけお送りください。お願いします。
by 九子 (2013-05-06 00:09)